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第14話 おもちゃ

「そろそろ機嫌直してくださいよ~。反省してますから~」


 むすりと黙り込み腹立たしそうな表情を浮かべて部屋のソファに腕組みをしつつ座っているノアの肩を不自然に明るい様子でゆすりながらそう言ったのはメリザンドである。


「……本当に、悪ふざけが過ぎました。申し訳なく存じます……」


 珍しく本当に申し訳なさそうな表情をしてマリーもメリザンドに続けてそう言った。

 そんな二人にため息を吐き、それから表情を若干ゆるめてノアは言う。


「お前らなぁ……冗談にも限度があるんだからな? まぁ……あの娘の世話で大変だったのはわかるから、仕方ないのかも知れないとは思うが」


 食堂においてメリザンドがノアに言った"隠し子疑惑"は勘違い、というわけではなく、すでに事実をある程度正確に把握していたのにノアをからかうために言った冗談だったということがさきほど明らかになったのである。

 なんでそんなことをしたのか、と言うとノアの捕まえた娘の世話にストレスが溜まっていたから、だというのだから酷い話だ。

 通常の貴族と使用人との主従関係であれば、即座に放逐されても仕方のないような。

 ただ、ノアが主で、メリザンドとマリーは使用人である、という体裁ではあるものの、この関係は実際のところかなり特殊であった。

 メリザンドにしろマリーにしろ、使用人であると同時に悪友のようなところがある。

 これくらいのからかいなど日常茶飯事で、反対にノアがすることもあるのだからノアのこの怒りも一種のポーズのようなものだった。


「本当に申し訳ないです……でも、最初は本当に疑ってたんですよ? 館に戻ってきて直後、マリーさんが小さな女の子の手を握ってこちらを見つめていた私の気持ちにもなってくださいよっ! どう見てもノアさまの隠し子だ! って思っても仕方ないじゃないですか!」


 メリザンドのからかいはその辺りにも理由があるのかもしれない。

 初めに感じた衝撃を、時間はずれたけれどもノアにぶつけたかったと、そういうわけなのかもしれなかった。

 しかしだ、それにしても言いたいことはある。


「お前、勘違いは仕方ないのかも知れないが、そもそも俺の年を考えろよ、年を。まだ十六なんだぞ? この年齢の娘がいたら俺がいくつの時に作った子供だよって話になるだろ……」


 横を見て、ノアはそう言った。

 そこにはノアが暇つぶしに作った超小型球形魔道人形ゴーレムコロコロくん三号がごろんごろんと床を転がっているのを銀髪の娘が追いかけて遊んでいる。

 彼女の身体能力なら一瞬で捕まえることが可能な速度でしか動いていないコロコロくん三号だが、転がっているのを見たりたまにさわったりするのが楽しいらしい。

 館で飼っている魔犬の為に作ったものが一号、妖猫のために作ったものが二号だったのが、彼女も妙に気に入ったらしく、仕方ないから三号を制作することになった。

 構造もかなり簡易なもので、館にある材料を使えば十五分でできあがるものだ。

 あげたらたいそう喜ばれたのでこれについては良かっただろう。

 ちなみに彼女用に工夫した部分もある。

 ノアは手に魔力を込めてコロコロくんに向かって手を振った。

 すると、今までごろんごろんとしたのっそりとした速度でしか動いていなかったそれが、突如スピードを上げる。

 それに気づいた彼女は満面の笑みでそれを追いかけはじめた。

 しかし、彼女がある程度まじめに追いかけても間に合わないほどに早い。

 あまり大きくないサイズであり、人間のような形をしていないからこそ出来る動きだ。

 空中もふぉんふぉん飛び始めたのでジャンプしたりして楽しんでいる。

 なぜかそんな少女の挙動にふっと口元がほほえんでしまう。

 そんなノアに、


「……そんなこと言いますけどね、幸せそうな顔で見つめるその表情も、隠し子疑惑に拍車をかけますよ……なんて言うかあれです。愛人のところに生まれた初めての娘にでれる父親みたいな顔ですよ。一回自分の顔を鏡で見つめてみるべきです」


 とメリザンドが主張した。

 ノアとしてはそんな顔をしているつもりはなかったので、黙っていたマリーにそんな風に見えるか? と表情で尋ねてみた。

 するとマリーは、


「……正直に申し上げて、メリザンドの表現は非常にうまく的を射ているものと……ノア様に隠し子などいないということがわかっている私でも、徐々に不安になってくるほどです……本当に隠し子ではない、ですよね?」


 とまじめな顔で聞くのでノアは慌てて首を振った。


「おい! やめろよ……そんなわけないだろう? なんだ、俺はそんなに信用がなかったのか……?」


 先ほどまでの憤然とした表情とは異なり、急に不安そうな、心外そうな表情でがっくり来ているノアに、今度はメリザンドとマリーが慌ててフォローする。


「い、いえっ。そんな……ノアさまがそう言ったことをしない、ということはわかっておりますよ! でも……なんと言いますか、十歳くらいの頃でしたら、妖艶な貴婦人とかにおいしくいただかれてしまったのではないか、と少し考えてしまっただけで……」


「ノア様は意外と押しに弱いところをお持ちですから……メリザンドの言うこともよくわかります。もちろん、私も基本的にノア様がそのようなことはされないとよくわかっておりますが……」


 なるほど、判断がつかない時期に経験豊富な年上の女性にどうにかされたのではないかという心配をしているといいたいのだろう。

 けれど、これについてもあり得ない。

 ノアは十歳のころも、今も、その内面はほとんど変わっていない。

 そのような心配など一切ないのだ。

 しかしこれについては二人は単純に心配しているだけのようだし、たとえ十歳の頃でもそういうことについては分別があった、という話をしたところで簡単に拭える疑念ではないだろう。

 まぁ、放っておいてもいい話だろうし、と考えてノアは言う。


「心配してくれるのはありがたいがな、そういうことはないな。そもそも俺にはそういう意味での魅力はないと思うぞ? 十歳くらいのころも、こんな風にひねくれた性格だったしな……」


 そんなノアに、マリーとメリザンドは顔を見合わせて、


「……少しひねくれた少年を好む貴婦人というのもいらっしゃいますから」


「むしろ多いんじゃないですかねっ? いやぁ、貴族の業って深いですよねぇ……」


 と何とも言えない声色で話し始めたので困ってしまった。

 これ以上この話を続けるとなんだか危険な方向に話が進んでしまうような気がしたノアは、そろそろと話をずらすことにする。


「まぁ、その辺についてはもう心配ないってことで、だ。メリザンド。お前にここに来てもらった本来の目的の方について話してくれ」


 あからさまに話をずらしたノアにじとっとした目を向けたマリーとメリザンドだが、それはあくまで悪ふざけの範疇だ。

 すぐに表情を変えて、うなずく。


「ええ、商売の方の話ですね。とはいっても、だいたいのことはわかっておられると思いますが……」


「あぁ。ヒューマンを雇えないって話だな。だが、どのレベルでだ。誰一人として、ということか? それなりの給金を支払えば、応募くらいそれなりの人数がきそうだが」


「確かに特に技能を持たない普通の王都民ならヒューマンだろうと何だろうとすぐに雇えますよ。しかし問題は、魔道具職人が雇えないってことです。理由はおわかりでしょう?」


「あぁ……ウォロー公爵だな」 

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