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CROSS WIND  作者: 暇脳達弥
8/13

第八話「暮れゆく陽」

作中に登場する固有名詞は、実在のものとは一切関係ありません。

「しっかし、相変わらずごちゃごちゃしてますね。」

「下手にさわらにゃーでね〜。もし壊したら、一生タダ働きしてもらっちゃったりするよ〜ぐふ♪。」

「それは、絶対に遠慮させていただきます。」

なんだかよくわからないが、なんだか凄そうな機材や、一体何の資料なのか、さっぱりわからない紙の束やらダンボールやらが、左右に所狭しと並べられた通路を、誓雷と風樹は進んでいた。誓雷は慣れた足取りで歩いているが、風樹の方はかなり苦心しながら進んでいる。なにせ風樹がこの場所を訪れるのは、五年ぶり二回目なのだから仕方がない。

ジャングルと化している森林公園の奥にある地下室。そこが、誓雷の情報基地だった。二人はその地下室を目指して、通路を進んでいるところである。

「にしても、もうちょっと整理整頓した方がいいと思いますよ。埃が溜まるのは、機材にも人体にも悪影響です。」

「え〜〜〜めんどい〜〜〜。機材には防塵加工してあるし、ライちゃんも今の環境に慣れちゃってるもの〜今更掃除なんてかったりぃっすよ〜。」

「早死にしますよ。」

「こんな仕事してんだもん。ロクな死に方しないのは、最初っから覚悟の上でせぷ〜。」

そんな会話を交わしながら歩いていくと、やがて通路は終わり、一枚の扉の前にたどり着いた。

「とうちゃ〜く♪ようこそおいでませ〜ライちゃんの情報秘密基地〜♪」

テンション高く扉を開ける誓雷。その扉の先にあったのは、

「いつ見てもすごいですね。このモニター。」

部屋の中央に存在する巨大モニターと、何台ものパソコンの群れ。素人目には、どのパソコンが何の役割を果たしているのか、さっぱりわからないが、誓雷はその全てをフル活用している。

(ものすごく頭いいんでしょうね、本当は…)

部屋を見渡しながらそんなことを考えていると、

「さて、と。とりあえず座って話そうですよ♪」

いつの間にか、誓雷が椅子を用意していた。遠慮なく、風樹も座る。

「キャスター付きの椅子って便利どすなぁ。座りながらあっちこっち移動できるっす〜♪」

「あなたみたいな遊び好きな性格には、キャスター付きの椅子のほうが面白いでしょうね。」

「うふ。遊び心を忘れたら、人間つまんなくなる一方なのよん。いくつになっても、遊び心は重要ファクター♪。」

「…で、早速ですが…。」

「わーってるっすゆん。んででで、先ずは何を聞きたいんでつかにゅ?」

「そうですね…まずは、何故あの男が格闘家ばかりを狙うのか。それを知りたいですね。」

「おっけ。まぁ、ふーリンもさっき聞いてたから知ってると思うけど、あの男は、死体を集めるのを趣味にしてる、おっそろしく変な奴。死体集めて何してるかまでは知ったこっちゃないけど、当然、死体は人が死ななきゃ手に入らない。最初のうちは無差別殺人を繰り返してたみたいだけど、あるとき急に、格闘家ばかりを狙うようになった。それは、何故か。」

「………。」

「…よりレベルの高い死体集めに目覚めたから、っていうことらしいよ、どうやら。」

「…?」

「要するに、一般人よりも体格がよかったり、筋肉質だったり、体が引き締まってる死体が欲しくなった、ってこと。人間、欲求が満たされていくと、徐々に我が儘になっていくもんだからねぇ。」

「………。」

「格闘家ばかりを狙う理由に関しては、こんなとこかな。ほい、おつぎはなにかぬ?」

「…あの人、黒戸影葉が、その男を追ってる理由はなんなのでしょう?」

「あ〜、そこいっちゃいますか〜。まぁ、確かに気になるとこではあるよね〜。」

「…。」

「簡単に結論から言っちゃえば、復讐だね。」

「復讐?」

「そ。殺されたのよ。彼女の大切な人。西では、最高のゴールデンルーキーと呼ばれていた、若き格闘家。でも、その期待の星は、あの男の手によって、無惨にも失われた。」

「…。」

「彼女が強くなる理由は、あの男への復讐心。それだけだね。もともと素質があったのかも知れないけど、あんな短期間で理を身につけられるなんて、そうとう強いね、復讐心。」

「………。」

「その素質を見抜いたからなのか、なんなのか。男の方も、まだかげぽんを殺そうとはしていない。上質なワインを寝かせておくみたいに、彼女が強くなるのを待ってる。より強い相手を殺してコレクションするのが好きみたいだし、説明はつくよね、なんとなく。」

「…なるほど。」

「ま、そんなとこかな。…快楽犯に大切な人を殺されたんじゃ、復讐したくもなるよね、実際。」

「…もう一つだけ、質問いいですか?」

「どぞどぞ。」

「あの男は、理を知る者、なんでしょうか?」

「…難しい質問だね。」

「…。」

「正直、確信はない。あの男の過去に関するデータ、生まれてから数年前までが、ぷっつり消え去ってた。だからライちゃんの推測で喋るけど、多分、知る者ではないね。」

「理由は?」

「あいつの体をデータで調べてみたけど、ちょっと不自然なんだよね。細かいこと言い出すとキリがないから要点だけ話すけど、全体のボディーバランスに比べて、筋肉が異常発達してる。普通に鍛えていたらこんな発達の仕方はしない。それと、もう一つ。」

「…。」

「あいつは、痛みを感じないみたい。」

「…どういうことですか?」

「いろいろとデータを漁ってみた上での推測ではあるけどね。…あの男、肋骨を砕かれても平然としていたんだってさ。」

「…。」

「格闘家をターゲットにしているわけだから、当然、相手は一般人よりも強い。しかも、殺そうとして襲い掛かってくる相手に手加減なんかしないでしょ。格闘家の方も、死に物狂いで応戦してくる。怪我の一つも負わないで何十人もの格闘家を殺せるなんて、正直考えづらい。あいつは妙なとこで美意識が働くみたいで、殺すときは必ず正面から向かってるみたいだし。で、実際戦ってる最中に骨を折られたらしいんだけど、何の反応も見せずに戦い続けたんだってさ。」

「…そうなると考えられるのは、あいつが未だ私たちの知らない理を身につけているか、それとも…」

「…クスリを使っているか、ってとこだと思うのよね。で、両者を比較したときに、どっちが現実的かって考えると…」

「クスリ、ですか。」

「そういうことだね。しかも、痛みを感じなくなるだけじゃなくて、反射神経や筋力なんかも、クスリで飛躍的に増強されてるんだと思う。ま、どっちにしても厄介な事に変わりはないけどさ。」

「クスリで痛覚を麻痺させて、殺人を続ける男…。殺すために痛みを忘れたのか、痛みから逃げ続けるために殺し続けるのか…。」

「さぁね?ライちゃんは、単なる狂人だと思ってるけど。」

それだけ言うと、誓雷は椅子から立ち上がった。

「…?」

「もうすぐ夜になる。ふーリンなら心配いらないとは思うけど、早めに帰ったほうがいいかもね。」

「…そうします。些細な気の緩みが命取りになりかねない。今日は、そんな気がします。」

「だね。いぶっちも心配してると思うし。…いや、むしろ彼女の方が心配かな。」

「…ま、炎護や黒戸さんがいるから、大丈夫でしょう。」

「ま、ね。一人で外出でもしない限り、大丈夫でしょ。…しっかし、厄介な事になったよね〜。」

「どうにかしなければいけませんね…。」


数分後、

風樹は情報基地を後にした。



「し、ししょ〜!」

「?」

すっかり日も暮れた頃、炎龍党ジムに帰って来た風樹を真っ先に出迎えたのは、伊吹の泣きの入った呼び声だった。風樹の姿を確認すると、凄まじい勢いで駆け寄ってくる。

「師匠〜!なんとかしてください〜!」

「何を、ですか?」

「あの人ですよ〜!密着するにしても程があります〜!」

「?」

「ただでさえ監視されてるのって嫌なのに、お風呂やトイレにまでついてこようとするんですよっ!?普通じゃないですっ!」

「ん〜…それが本当なら、確かにちょっと危ないですね。」

「あら、そうかしら?」

突然の影葉の声。いつの間にか、影葉が背後に現れていた。ジム生達はすでに帰ったらしく、ジム内はガランとしていたのだが、

「さすが、気配を殺すことに長けていますね。気付きませんでした。」

「ふふ、伊吹さんが、無駄に大声出してくれたから、動きやすかったわ。」

「ちょっ!無駄にってどういう意味ですかっ!」

「確かに一人でパニックしてましたもんねぇ…。」

「あ〜!師匠までそんなことを〜…。」

「ところで、本当なんですか?お風呂やトイレにまでついていこうとしたって話。」

「半分本当。」

「半分?」

「ちょっとからかうつもりで言ってみたのよ。そしたら予想通りパニクってくれちゃって。ふふ、ホントにかわいらしいわね。」

「う〜!年上の人間に対して、かわいらしいっていうのは失礼ですっ!」

「実力も精神年齢も、黒戸さんの方が上みたいですね。」

「ししょ〜!」

和やかな空気が、ジムの中に流れていた。

が、殺人鬼の影は、獲物を求めて夜の闇を移動する。

悲劇は、いつ、どこで起こるかわからなかった…。

今回は幕間的なイメージが強い話になったかも…。うまく表現できているかは、ちと不安(^.^;)。第九話も、よろしくお願いいたしますo(^-^)o

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