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CROSS WIND  作者: 暇脳達弥
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第五話「追う者、観る者、狙う者。」

作中に登場する固有名詞は、実在のものとは一切関係ありません。

「珍しいな。お前がここを訪れるとは。今日は雪でも降るか?」

「ふん…仕事なのだから仕方あるまい。」

その日の朝、炎龍党のジムに、一人の男が訪ねて来ていた。風樹達が炎護に部屋を借りて、三日目のことである。

警官の制服に身を包んだ男は、炎護とは知り合いのようであった。が、友人関係てあるかというと、そうでもないような空気が、二人の間には流れている。

年齢は三十代半ばといったところだろうか。身長は高く、無駄な脂肪のなさそうな、筋肉質ではないが、がっしりした体格。髪はきっちりと短く整えられており、いかにも職務中、といった感じの無表情で、炎護と向き合っていた。

「ねぇ、師匠。あの人って…。」

「どこかで見たことある気がしますね。警官なんだから、街中ですれ違ったりとかはしてるかもしれませんが。」

「ん〜〜〜……なんか私、警官じゃない姿の見覚えがあるような気がするんですよねぇ…なんだったかなぁ?」

そんな二人の様子を、少し離れた所から伺っている風樹と伊吹。ちなみに誓雷はというと、仕事柄、警察関係者は苦手らしく、さっさと奥に隠れてしまった。

「…で、何の用だ?」

「ただの警告だ。」

「警告…?」

警告、という言葉に、ピクリと反応する炎護。それに気付いているのか、いないのか、男は一切表情を変えずに言葉を続ける。

「最近この付近に、殺人鬼が潜んでいるらしい。」

「殺人鬼だと?」

予想外の言葉に、眉をしかめる炎護。

「西の大陸で指名手配されている殺人鬼が、こっちに逃亡してきている、という情報が入っている。気をつけることだな。」

「ほぉ…。それにしても、ずいぶんと面倒な仕事をしているな。一軒一軒、わざわざ訪問して警告か?」

「ふん…そんなことをするはずがなかろう。回っているのは、レイジングのジム関係だけだ。」

「…?」

「殺人鬼が狙うのは、強い者だけだ。」

「…ほぉ。」

「殺人鬼が今までに殺した人数は、こちらが把握しているだけでも39人。有名無名は別として、全て格闘技関係の人物だ。」

「殺人鬼は、格闘家に恨みを抱いている者、ということか?」

「そんなことは知ったことでは無い。俺は職務を遂行する。それだけだ。犯罪者の気持ちなど知らん。」

「…相変わらずだな。」

「ふん。他人に感化されるほど、俺は弱くはない。」

「………。」


「う〜〜ん……。なんだか、険悪な雰囲気…。」

「本質が全く別物のようですね、あの二人。」

「それにしても…誰だったかなぁ、あの人。絶対に、どっかで見たことがあると思うんですけど…。」

風樹と伊吹がそんなことを話している間に、伝えることはそれだけだ、と言い残して、男は出ていってしまった。

「まったく…。少しも変わっていないな。」

苦々しい表情で、炎護も戻って来た。

「日田さん!今の人、知り合いですか?」

「…知り合い?…まぁ、顔も名前も知っている、という意味では、知り合いと言えるかもしれんな。」

「炎護とは、ずいぶんとタイプの違う人でしたね。冷静というか、冷徹というか…。」

「あぁ。あいつはレイジスト時代から、ずっとあんな感じだ。」

「レイジスト時代から?あの人、元レイジスト…」

「ああああぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!思い出しましたっ!!」

風樹の言葉を遮って、突如伊吹が大声をあげた。

「伊吹…至近距離での大声はやめてください。」

「は、はいっ!すいませんでした!で、でもでもっ!思い出したんですよ、あの人!あの凍り付くような視線と、冷徹な喋り方!元レイジストの涼原選手!」

「御名答だ。」

「涼原…。……、涼原氷斗(すずはらひょうと)ですか?」

「そうだ。さすがにお前でも知っていたか。」

「えぇ。彼のレイジスト時代の試合は、テレビで見ていましたから。」

「私も見てました!私、当時はまだ子供でしたけど、すっごく恐い人だ、っていうイメージがすっごい残ってて…。」

「だろうな。あいつは、試合を試合だとは思っていない。完全に相手を潰す考えで戦っていた。あいつのせいで格闘界を去った人間は、一人や二人じゃない。」

「再起不能、ですか?」

「肉体的に格闘家生命を絶たれた者もいたが、去っていった者の多くは、恐怖心に耐えられなかったようだ。…あいつの戦いは、ただただ、冷酷だからな。」

「……。」

「レイジングはストリートファイトとは違う。ただ、相手を叩き潰せばいいというわけではない。自分も、相手も、観客も、全てを巻き込んで、人間の持つ、強いものへの憧れや希望を体言する。それが、レイジストの心構えだと、俺は思っている。」

「…お、おおおおーっ!さすが日田さんですっ!素晴らしい心構え、私、感動しましたっ!」

「なんならその勢いで、師匠替えでもしてみますか?」

「えっ!?な、な、なに言ってるんですか師匠っ!私の師匠は、樹風風樹、ただ一人ですっ!いくら感動したとはいえ、そんなに簡単に師匠を替えるほど、私は薄情でも尻軽でもありませんっ!」

「まったく…。五年間見ない間に、ずいぶんと意地が悪くなったものだな。」

「師匠としての愛情表現ですよ。」

「ま、五年も共に過ごせば、そのくらいの意地の悪さがある方がちょうどいいのかもな。」

「………。」

「…ん?」

「どうしました?伊吹。騒いだと思ったら、急に黙りこくったりして。」

「…師匠。」

「はい。」

「……………。」

「?」

「今日こそっ!ストーカーを捕まえてみせますからっ!任せてくださいっ!」

「え…」

「これ以上格好悪いとこ、見せたりしませんから!じゃあ、行ってきます!」

風樹と炎護が声をかける間もなく。

伊吹は、すごい勢いで外へと飛び出して行った。

「……。」

「何か、誤解をしているような感じがしたが?」

「そうですね…彼女の性格を考えれば、あれは少々軽率な発言だったかもしれませんね。」

「あの様子だと、ホントにストーカーを捕まえるまで、戻っては来ないかもな。」

「………。」

「どうした?」

「…あ、いえ。ちょっと…」

「やはり気になるか?」

「えぇ。あなたの言う通り、おそらく、捕まえるまで戻らない覚悟でしょうし、それに…」

「…?」

「第三者から見れば、彼女も、強い者、の部類でしょうから。」

「…殺人鬼か。」

「えぇ。」

「…はは。なんだかんだ言いながら、心配か?」

「当たり前でしょう?」

「…そうだな。」



「…そろ〜り、そろ〜り…」

「わざわざ口で擬音を言わんでもいい。」

「行った?警察行っちゃった?」

奥のドアから顔を半分だけ覗かせて、誓雷が姿を見せた。

「もう行きましたから。出て来て大丈夫ですよ。」

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜よかったぁ〜。ライちゃん警察って苦手なのよね〜。」

「捕まれば、盗撮盗聴の罪状でしばらく檻の中だからな。」

「そーなのよねぇ〜。どんな相手よりも、ライちゃんの天敵でごぜーますよ、警察ってやつぁ。んでんで。ふーリンは、いぶっちを追い掛けなくていいのかえ?」

「隠れていながら、話はちゃっかり聞いていたのか。」

「盗み聞きは情報屋の必須スキルよん♪。」

「威張らんでいい。」

「ででで〜。どするのよ?」

「…追います。何かあってからでは遅いですから。」

「りょんかい〜。じゃあ、これ。」

そう言うと、誓雷は懐から何かを取り出し、風樹にひょいと投げてよこした。

反射的に受け取る風樹。それは、

「小型モニター?」

「そ。いや〜しっかし、時代の進歩ってやつぁすごいですなぁ。どんどんどんどん小型化されちゃってまするよ、いやはやや。」

「ナビしてくれる、ってことですか?」

「ま〜、さすがにいぶっち自身に発信機付ける余裕はなかったけど、いぶっちがカメラに映れば誘導くらいはできるっすよん♪。」

「助かります。」

「なんのなんの〜。これくらいは友情サービスなのでさぁ♪。んじゃじゃ、ライちゃんは麗しの我が家、情報秘密基地に帰還することにしますのだ!じゃねん♪」

そう言うと、誓雷はひょいひょいと跳びはねるような足取りで、ジムを出ていった。

「ふぅ…。あの喋り方さえどうにかなれば、いい奴なんだがな。」

「別にいいじゃありませんか、今のままで。」

ため息混じりの炎護に軽く微笑みかけると、風樹も歩き始めた。

「お前の事だから心配はしていないが、無茶なことはするなよ。」

「わかっています。万が一の時は、人命第一、です。」

二人とも、何かを予感しているかのような口ぶり。それ以上は何も言葉を交わす事なく、二人は別れた。


強い者を狙う、殺人鬼。


伊吹を観察する、理を知るストーカーと、そのストーカーを捜し回る伊吹。


殺人鬼にとってみれば、街の中に撒き餌がされたようなものだ。


(伊吹のことだから、殺人鬼のことは、きっと脳裏から消えている。万が一、が、万が一にも起きないようにしないと…)


悪い予感と、それを振り払う意思。

様々な思いを抱えて、風樹は、街の雑踏へと紛れていった。

なんだか先読み出来る展開かも…(^.^;)。なんとか裏切れるように考えなければ!

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