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CROSS WIND  作者: 暇脳達弥
2/13

第二話「風と炎」

作中に登場する固有名詞は、実在のものとは一切関係ありません。

その二人の体格は、あまりにも違っていた。

かたや、身長2m、体重100kg超の屈強な大男。

かたや、身長は180以上あるものの、体の線は細い優男。

明らかに格闘家体型な男と、明らかにそうでない男。


その二人が、


ジムのリングの上で対峙していた。




ジム内には妙な緊張感とざわめきが起こっていた。

外へ出掛けた、と思った党首が、数分後には知らない男を連れて戻って来て、しかも突然、その男と戦うから観戦するように、と言い出したからだ。

(何しようってんだ?日田さん。)

(さぁ…?観戦しろったって…)

(あんだけ体格差があったら、勝負にならねーんじゃねーの?)

(だよなぁ…。)

ジムの中では、こんな会話がひそひそと交わされていた。二人の見た目にあまりに差があるのだから、そう言われるのも仕方のないことだろう。



「…う〜ん、やっばり五年前みたいに、時間をずらして来た方がよかったかもですね…。」

「気にするな。見て学ぶのも、こいつらにとってはいい勉強になる。」

「いえ、そうではなく…。見世物になるのは好きじゃないんですよね…。第一、見て学ぶと言っても、「(ことわり)」は、見て学べるようなものではありませんでしょう。」

「…「理」か…。お前がいなかったこの五年間、ほとんど気にすることがなかったな。」

「大丈夫ですか?そんなことで。体、鈍ってるんじゃないですか?」

「ふん、言ってくれるな。それなら、俺が鈍っているかどうか、早速確かめてみるか?」

「…仕方ないですね。この時間に来てしまった私が悪いんですし、ジム生さん達の練習時間を取り過ぎるわけにもいきません。早速始めましょうか。」

「うむ。」

「…五年前の約束、果たさせてもらいます。」

「覚えていてくれて光栄だ。…ライ。わかっているとは思うが…」

「わ〜かってんだにゅ〜ん。手出しも口出しもしないから、お互い死なない程度にやっちゃって♪。」

リングサイドで観戦している誓雷がそう答えたのを最後に、二人は口を閉じ、静かに戦いの構えを取った。その次の瞬間、



「!!!!!」



ジム生の全員が息を飲んだ。気楽に観戦しているのは誓雷のみ。

なにか合図があったわけではない。だが、風樹と炎護は、ほとんど同時に動いていた。その巨体からは考えられないほどの俊敏さで踏み込み、丸太のような右腕を打ち込んだ炎護と、一瞬でリングすれすれまで身を屈め、それをかわした風樹。さらに、その身を屈めた体勢から、驚くべき柔軟性で左足を踏み込み、ボディへの正拳を放つ。

その拳を素早いサイドステップで避けると、下にいる風樹に対して強烈な踏み付けを繰り出す炎護。が、その一撃は、リングに轟音を響かせただけだった。

風樹は、踏み付けのために持ち上げられた炎護の足の下をくぐって、彼の背後に回り込んでいた。炎護が首で振り返った時には、すでに風樹の中段蹴りが彼の背中に繰り出されていた。

が、その一撃が命中したのは、背中ではなく、腹部。俊敏な足捌きで全身振り返った炎護が、蹴りを正面から受け止めたのだ。炎護の腹部。鍛え抜かれた腹筋に被われたそれは、まさに鋼。一撃の蹴りで崩れるようなものではない。

逆に炎護は、風樹の蹴り足が戻る一瞬の隙を狙って、肩からのタックルを仕掛けた。蹴りが届く距離にいるのだから、避けられるはずがない。普通ならそうなのだが。

身を屈めて肩からぶち当たったはずの炎護に、その手応えは一切なかった。かわりに感じたのは、肩に手を置かれた感触と、自分の頭上を何かが飛び越えていった雰囲気。

炎護が身を屈めた瞬間、風樹が跳び箱の要領で炎護の上を飛び越えていったのだ。

炎護が身を屈めていたとはいえ、160cmはあったであろう高さを助走無しで飛び越えるのは容易なことではない。

それを当たり前のように瞬時にやってのける。風樹が決定的に体格差のある炎護とまともに渡り合えるのは、この運動神経と柔軟性の高さ故だった。


二人が最初に動いてからここまで、およそ6秒。


「相変わらず、見事な運動神経だな。感服する。」

「そちらこそ。その巨体でそんな俊敏な動きが出来る人は、そうそういませんよ。」

何事もなかったかのように言葉を交わす二人。この二人の戦いで、この程度の攻防は、ウォーミングアップのようなものでしかない。

唖然とするジム生達を尻目に、二人は再び動いた。





…二人が戦い始めてから、10分ほど経過した。

二人は、息も切らさず動き続けている。

さらに言えば、どちらも決定的なダメージを受けていない。

ある意味、膠着状態といってよかった。


「ふみゅみゅ〜♪。」

固唾を飲んで戦いの行く末を見守るジム生達の中、誓雷だけが、ニコニコと笑いながら観戦を続けていた。ハイレベルな戦いを、心の底から楽しんでいる。

「理」を知る者だからこその余裕だった。



「理」


物事の、そうなるべき道理のこと。


この「理」を知ることが、強き者となるための最初の扉である。


が、多くの者は、その事実を知らず。また知り得たとしても、「理」を理解する事なく、それを知ることを不必要だと切り捨て、ただ、己を鍛え続けている。


「理」の真理を理解し、それを体言出来るまでに己を鍛え上げた先。そこに、常人を超えた強さがある。


今、この場に。「理」を体言した存在。「理を知る者」、が、三人存在していた。


月代誓雷。光の理を知る者。


一瞬で突き抜ける光の如く、超速の打撃を体言する者。


日田炎護。火の理を知る者。


刺激を与える程に燃え盛る炎の如く、驚異の破壊力を体言する者。


樹風風樹。風の理を知る者。


万物を自在に吹き抜けて行く風の如く、しなやかな身体による回避能力を体言する者。



そして、


まだ見ぬ「理を知る者」達も、まだ、どこかに居るのだろう。





「にゃふふふふ〜♪」

理を知るが故、そうでない者の戦いに満足感を得られなくなった誓雷にとって、理を知る者同士の戦いは、彼の満足感を満たすに充分であった。もっとも、

(このあとは、ライちゃんとバトってもらうもんね〜んねんね〜〜〜♪)

至上の喜びは、自分が理を知る者と戦うことだが。


「…。」

「…。」

何十回目かの交錯。未だ、決着の着く気配どころか、試合の流れがどちらかに傾く雰囲気すらない。

勝負は、完全に拮抗していた。

炎護の打撃は、全て回避されている。風の理の風樹にとって、この回避能力が彼の生命線。逆に言えば、炎護が一撃でも打撃を決めることが出来れば、勝負は一気に炎護の流れになるのだが、風樹相手には、それが恐ろしく困難なことになる。

一方の風樹は、相手の隙をついて打撃を打ち込んでいるものの、有効なダメージは与えられていない。素早い打撃は、炎護の鋼のような筋肉にブロックされ、威力のある打撃は、うまく回避されてしまう。圧倒的威力を誇る打撃を避けつつ、勝負の流れを引き寄せられる程の一撃を決めることは、百戦練磨の炎護相手には、かなり困難なことだった。

「…。」

「…。」

二人は、あくまで冷静だった。炎護の方は、気合を入れるために多少興奮状態にあるようだが、冷静な判断力を失うほどではない。理を知る者同士の戦いは、何が命取りになるかわからない。冷静さを欠いた方が、負ける。


一瞬の間、そして、


二人が再び交錯しかけた、その瞬間。



「ししょーーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!」


バァンッッッッッ!!!!!


「!」

ドアの外からでも聞こえる大絶叫と、とんでもない勢いで開け放たれた扉。緊迫した空気に包まれていたその場の全員が、一斉に扉の方を振り向いた。

「あ……………。」

慌てて飛び込んできた自分と、ジムの中のあまりの温度差に、思わず固まる女。言わねばならないことがあったのだが、自分に一斉に向けられた視線に気が動転してしまったらしく、言葉がでてこない。

「………ふう。」

今まさに、炎護にハイキックを見舞おうとしていた体勢で、首だけ入り口の方を向いていた風樹が、静かにため息をついた。

「ほう。いつの間にか師匠と弟子の関係か。」

「向こうが勝手に押しかけてきただけですよ。」

同じく、風樹に殴りかかろうとしていた体勢のまま静止していた炎護の問いに答えつつ、風樹は静かにリングを降りた。そのまま、いまだ固まったままの状態で口をパクパクさせている女に歩み寄っていく。

「……で、どうしたんですか?伊吹。」

「……え、と、……あ、と……」

三奈風伊吹みなかぜいぶきっ!」

「!!!!!は、はいっっっっっ!!」

「…落ち着いたみたいですね。」

「は、はい。と、取り乱してしまい、誠に申し訳ありませんっ!」

「それは、あなたが恥を掻いただけですから、謝る必要はありませんよ。」

「はいっ!ありがとうございますっ!」

「………。」

「相変わらずの馬鹿正直っぷりだな。」

「ほんに、見事なまでの天然ですにゅ〜。」

「あーっ!日田さんも月代さんも!私だって成長してるのにぃ。そんなにズバッと言わなくても〜。」

「伊吹。」

「は、はいっ!」

「一体どうしたんですか?いきなり。あなたが落ち着きがないのはいつものことですけど、さっきのは尋常じゃなかったですよ。」

「う〜、師匠までそんないじわる言わなくても〜。」

「質問に答えなさい。」

「は、はい…。」

「あの慌てっぷりからして、誰かに襲われて逃げ込んできた、とか、そんな理由ですか?」

「え…。えーと、あの…。」

「…まさか、図星ですか?」

「い、いえっ!襲われて勝てそうにないから逃げてきたとか、そんな理由じゃないんですっ!それは師匠の顔に泥を塗ることになりますから、絶対にありえませんっ!」

「いや、別に私は世間的に名を知られているわけではありませんから、名誉が傷つくとか、そんなのはいいんですけどね、別に。で、どんな理由なんですか?本当は。」

「は、はい。えと、実は…。」

「…。」

「…あのぉ。」

「…。」

「みんなが注目してて喋り難いんですけど〜…。」




「…奥の部屋に行くか。」

「…すいません、炎護。」


やっと第二話掲載できました〜o(^-^)o。なんだか中途半端なとこで終わってしまいましたが(^.^;)、また読んでいただけると嬉しいです〜o(^-^)o

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