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咲希ちゃんは何も言わないが、じっとこちらを見つめている。
話せ、と言うことなのだろう。
僕は肩をすかして再びベンチに座り重々しく、そして馬鹿馬鹿しく口を開く。
「今朝妹と喧嘩...って程でもないけど少し口論したんだ。 その時の自分が少し情けなくて少し反省してたんだよ」
僕が妹と口にした瞬間咲希ちゃんはピクッと
反応し、そして親しくしてない人でも分かるほどの不機嫌な表情を浮かべる。
「.....またあの女狐ですか」
「いや、女狐って.....」
この通り咲希ちゃんは僕の妹を毛嫌いしていて、ついでに言えば妹も咲希ちゃんを毛嫌いしている。
咲希ちゃんはあまり他人と関わったりしないのだけれど、妹の方は少し厳しい所があるが誰にでも優しくて男女問わず仲がいい(僕以外)
しかしこうなったのは妹の方が発端で、咲希ちゃんと出会って一ヶ月ほど過ぎたある日、僕と咲希ちゃんが偶然中庭であって一緒に昼食を食べている時に妹が不機嫌オーラバリバリでやって来た。
「貴方は仮にも私の兄なんですから、そういった行動は止めて下さい」とか「また私の評判を落とす気ですか?そうしたくないのであればそこの不良女とは縁を切ってください」などよくわからない事を言うので流石の僕も反論していたら「貴方は私の言うことを聞いていて下さい!!!」と言う暴論まで出てしまった。
そして妹がその暴論を言った瞬間、それまで黙っていた咲希ちゃんが妹の右頬に見事な右ストレートを決めた。
平手ではない、グーである。
それからがヤバかった。
吹っ飛んだ妹が起き上がって「何すんのよッこの泥棒猫!!!」と叫びながら咲希ちゃんをグーで殴り、踏ん張った咲希ちゃんは「うっさいですッこの女狐!!」と口調が若干崩れながら妹にまた殴り返してそこから女の子同士の場合あまり見たくはないであろう取っ組み合いの喧嘩となった。
幸い僕と周りの人達で止めに入った為怪我も浅く、先生たちにバレる事もなかったので大事には至らなかった。
けどそれ以来二人は仲が悪いままである。
「女狐の言葉には自分勝手な傲慢が混ざっていますのであまり深く考えてはいけません。
悪く言ってしまえば、あれはただの我が儘です」
「我が儘か.....きっとそうなんだろうね」
自分の評判を落としたくないからしっかりしろ、自分の価値に傷を付けたくないから変なことはするな。
主観的に見れば立派な理論なのだろうけど、確かに客観的に見ればこれはただの我が儘に過ぎない。
けれど、
「それでも.....妹の、凛の兄としては、そんな我が儘を聞いてあげたいと思う」
しかし僕はそう思うだけで、それをなかなか実行出来ない。
最終的には自身の我が儘を取ってしまう僕は.....人として、兄として、情けない。
「.........シスコン」
気分が沈んでる横から暴言が飛んできた。
「いや咲希ちゃん、それは誤解だよ。
僕は妹が大事だけど、その妹に欲情するような変人ではないことは明白なんだ」
「元の意味と違いはあれど、現代的意味で見るのであれば貴方はシスコンです」
そう言って咲希ちゃんはベンチから立ち上がる。
携帯で時間を確認すると時刻は午前7時。
そろそろ家に帰って支度しなければ遅刻してしまうだろう時間帯だ。
「では帰りましょう」
咲希ちゃんはまだ座っている僕の方を向きそう告げる。
僕もベンチから立ち上がり咲希ちゃんと向き合う。
「そうだね。
なんか今日は話を聞いてもらってありがとね。
今度何かお礼をするよ」
僕がそう言うと咲希ちゃんは見上げる形でじっと僕を見続けてくる。
「どうしたの?」
「.....大盛りカフェ」
「?」
「お礼でしたら、一緒に行きたいです」
「? 別に構わないけど、それでいいの?」
咲希ちゃんはコクリと頷くと「お先に失礼します」と言ってそのまま小走り(効果音にトテトテと聞こえそうな感じ)で帰っていった。
本当にそんなことがお礼でいいのか不安になったが、まあ本人が良いならそれでいいだろう。
さて、それじゃあ僕も帰るとしよう。
.....................あれ?
そう言えばなんで咲希ちゃんは僕が今日親方の店に行くのを知っていたのだろうか?