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とある情景

作者: 李雨

びったーんっ!!


激しい平手打ちの音が聞こえた。

「けいちゃんのばかぁーーーーーーっ。」


会社帰りの人たちで込み合う駅の片隅。

そんなことを叫んで、涙をポロポロとこぼすかわいい少女。

髪の毛がすこし短めでくせっ毛で、柔らかそうに整った顔のまわりを包んでいた。


「おとーさんも、おかーさんもいなくなった時からけいちゃんだけだったのにっ。けいちゃんが私にいろいろ教えてくれてっ、好きって言ってくれてっ。」

美少女は泣いていてもかわいい。

かわいいは正義だ。

まわりの人間は、それを半ば面白そうに見ながら、「そういう関係か」「イケメン爆発しろ」「リア充め」などと思っていた。


「どうせ、私は『紫の上』だったんだよねっ。」


イケメンもどんな顔をしていてもイケメンだった。

たとえ、顔半分に赤い手形がついていたとしてもイケメンだった。

周りの女達が一斉に溜息をつく。


そのイケメンが、口を開いた。「ゆい、それは違う」

落ち着いた低音の、これまたイケメンボイスといえる声だった。


「紫の上は、『完璧な女性』だ」


・・・ちょ、訂正するとこ、そこ?


まわりの思いは、たった今、ひとつになった。

次いで、あの子もかわいそうに、思いは通じてなかったのか、と思う。


イケメンはまだ話していた。

「だいたい、普通に歩いていても転ぶ、お茶を入れさせたら器を破壊する。客にぶっかける。裁縫を教えたらいまだに雑巾も縫えない、ひどいときには自分のスカートや手の薄皮まで一緒に縫ってる。

料理を教えたら、鍋いっぱいの炭を作る、砂糖と塩を間違える。塩の壺ごと突っ込む。掃除を教えたら、家じゅうのものを破壊する。窓ガラスを拭かせたらガラスが割れてたし、掃除機を持たせたら、そのまま故障、トイレを掃除したら逆に壊れて後日業者が「こんなものが突っ込まれてました」と雑巾を持ってくる。字を書かせれば、日本語のはずなのにアラビア語にしか見えないような文章を書いている。・・・・・まだあるが、それで紫の上だなどと、おまえ、恥ずかしくないのか。」


確かに、少女は今はただ恥ずかしそうだった。

その辺のポインセチアに同化しそうなほど真っ赤になっていた。

観客の思いは今は「にいさん、あんた、頑張ったんだな」に移っていた。

美少女は、今や『残念な子』認定だった。かわいいだけに余計に。


「けいちゃんは、私がきらいだったんだ・・・・」ぽつりと美少女が言う。

残念な子だけど、かわいそうだった。


「いいや。好きだと言っただろう」

おお、さすが懐が広い。(by周囲の思い)


「お前がかわいいから、外に出るなと言ってるだろう。その辺のやつが吐いた息を吸い込むんじゃない。

こんな公共の乗り物で、ほかの奴らと接触するんじゃない。誰かが触ったようなつり革や椅子に触れるんじゃない。お前は何もできなくていいと前に言っただろう。俺だけのために存在して、俺だけ楽しませて、俺だけ見てたらいい。いっそのこと、目をつぶすか・・・俺だけ感じてられるぞ」


・・・・・・このイケメンもこわいぃぃぃーーっ。


残念な美少女と残念なイケメンはそのままどこかへ行ってしまった。


しばらくして、周囲が動き始める。

「あ、もしもし、上田?俺。 この間、断っちゃったけど、ごめん、よかったら付き合おう。ん?顔がきれいじゃない? ごめん、そんなこと言って悪かった。おまえ、すごくいいやつだよ。かわいい」

「あなた・・・お給料が少ないとか文句いってごめんなさい。私も働くわ。好きにさせてもらってるんだもの、その時間、働いてもよかったのよね」

「ね、あなた、私たち、普通に凡人だったけど、これでよかったのねぇ」「そうだね」


周囲の「私たちって実は幸せ」感は半端なかった。

幸せなカップルがなぜか一部でいきなり増えたそんな夜のお話。


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― 新着の感想 ―
[一言] 思わずクスリと笑ってしまう微笑ましいお話でしたw 隣のお家に芝生があったら、それが例え自分の庭にある芝生と全く同じものだとしても『隣の芝生は青く見える』もので^^; もっと綺麗な芝生がある筈…
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