これでも錬金術師です。
遊森謡子様企画の春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
◆ ◆
深い森の奥。
僕たちはやっと目的地であるこけ岩の洞窟にたどり着きました。
「とうとうついた…ここに、神剣『まどろみの剣』があるんだね…」
「ええ、魔剣『覚醒の剣』と対になり、魔剣を鎮めて魔王を100年の眠りへ封印する神剣ですわ。」
「くぅぅーーー!わくわくしてたまんねぇぜ!」
「気を引き締めなさい。どんな神守がいるかわかりませんよ。」
「ふふっ…よし、準備は良いね!眠神レム様の洞窟へ……出発ー!」
「「「おおーー!」」」
勇者:タイチさん(男)
魔法使い:プラムさん(女)
ギャンブラー:シードさん(男)
格闘家:ローレルさん(女)
彼ら4名で、魔王を封印するための旅をしてきました。
シュークリプスを守る神の内独り…
眠神レム様が、魔法をつかさどる大切なお役目があるのに、喧嘩が大好きで暴れん坊な、困った魔王エクレアをこらしめてほしい!
と召喚したのが異世界の勇者です。
どうやら退治ではなく、懲らしめるのが目的なので、眠りの封印を使うようです。
なぜ召喚なのか、というと…この世界には魔王を懲らしめられる勇者がいないそうです。
たぶん、タイチさんは優しいから選ばれたのでしょう。
この世界にも一応、勇者はいますが…きっと魔王を殺してしまうから選ばれなかったのです。
魔王のおかげで僕達は魔法が使えるようになったのに、用済みになったら退治してしまうなんて、あんまりですもんね…
つまりその勇者よりも先に、魔王を封印してしまえばいいのです。
え?僕ですか?
いえいえ、ただの荷物もちです。
あとは道具を作ったり魔法薬を作ったりしてるくらいです。
勇者さんたちがとっても強すぎて、僕の出番無かったんです。
一応戦えますよ…?
・ ・ ・ ・ ・
「ひるむな!姿は似ていても良く見ればわかる!落ち着くんだ!!」
『ふぁぁ…… この子達に勝てなきゃ魔王に返り討ちにされちゃうわよ… あふぁ…』
あくびをしながら浮かんでいるのが、レム神様。
勇者さん達が戦っているのは、なんと勇者さん達の姿にそっくりそのままなゴーレム。
どれが本物かわからなくて、思い切った攻撃ができないでいます。
…これ、言ってもいいんでしょうか…
各自が自分と戦えば、問題解決すると思うんですけど…
『んん~?あれぇ、そこにもいたのぉ。』
「! やべぇっ 逃げろ博士!!」
あ、博士って僕のあだ名です。
本名はパームって言います…っておおぅ、このゴーレム、めちゃくちゃそっくりだ。
ぶん!
びゅん!
ガキィィィン!
「「得物も同じか。」」
左手にはマルドルンガラスという、通常のガラスより強固な物質で出来た、マルドルンフラスコ(3ℓ用)。
右手には同じくマルドルンメスシリンダー(5ℓ用)。
「「ならば、壊れるまで戦おうか。」」
「ちょ、は、博士ぇ!?」
ガコォォーーーン!
「うりゃぁ!!」
「!!」
ああもう!困るなぁ…
道具とか薬とか作るほうが好きだって公言してたのになぁ!
ふふっ… あはははは!
「ふはははは!!爆弾くらぇええーーー!!」
リュックから、お手製の鋭いとげのついた玉や星柄の爆弾がごろごろ出ていく。
さすがにこれは想定外だったろう。
腰に下げていたフラスコやメスシリンダーと違ってリュックの中身までは真似できまい!
派手な爆発でゴーレムは一瞬、岩の体をさらす。
「勇者さん!今のうちに回復しといて!!」
「がぼば!!」
500mlのフラスコを皆の口に突っ込んでいく。
「着火ぁ!!」
ドゴゴゴゴゴォオオーーーーン!!
「「「~~~~~~~~~!!??」」
「ひゃっほう!!」
『ひぇえ…』
「は、博士…」
「あは!ごめーん!傷薬と間違ってニトロジュレ突っ込んじゃった!」
「導火線ついてたじゃねえか!!」
「なんでわかったの!?」
「だって、ステータス画面見えるもん。勇者特典でしょ、太一さん?」
「はあ!?」
「だってさあ、むかつくんだもん!間違えて召喚されたとかありえなくない?勇者二人呼んだとか!」
「え、博士も勇者だったの!?」
「!な、名前…」
そうです。僕ももともとは勇者として呼ばれたんです。
でも、黒髪黒目のいわゆる日本人だったのはタイチさん…もとい、要 太一さんだけ。
髪を茶色に染めていた僕は、間違いだったとしてこっそり放り出されたんです。お城から。
もう、どうしろっていうんだって思ったね。
偶然拾ってくれた錬金術師に恩返しのつもりで弟子入りして、薬や爆弾作りを学んでお金も稼げるようになって。
もちろんお城では二人呼んだはずの勇者が一人しかいないもんだから、どこかに間違って落ちたんじゃないかって探してたよ。
知ったこっちゃ無いね!って思ったんだけど…
一応同じ日本人だし…
「ほら!太一さん、あとは女神様だけだよ。」
「博士…」
「あ、僕の名前、矢樫勇太っていうの。ヤカシが伝わらなかったから、ヤシで、パームにしたんだ。」
結局ほっとけなかったんだよね。
勇者のパーティに紛れ込むために戦闘技術も師匠に助けてもらって、なんとかもう一度お城に行ったんだ。
髪色と目の色も、魔法薬で完璧なモスグリーンに変えていったから、もうばれっこなし!
師匠がお城お抱え錬金術師だったおかげで、その弟子ってことで最初からお墨付き。
個人情報の改ざんは完璧。
勇者特典はきちんと僕にもついてたんだねー!って。
ふはははは!
『ぇえー…じゃ、この剣二本ともあげるよぉ。』
「え、いらないし。僕、まだお城の連中のコト怨んでるよ!もらえないし。」
「ちょ、博士!?それはさすがに…」
「い・ら・な・い。」
「『はい…』」
「僕は錬金術師!武器はフラスコとメスシリンダーなの!道具も自力で作ります!!」
もちろん、魔王と戦うのも勇者に譲りますよ。
僕はどっちかって言うと、魔王と友達になりたいなぁ!
まだ魔王の城までは日数かかるし、交渉に使えそうないたずらアイテム、量産しとこうかな。
世界滅ぼさない程度にね。
ふふっ
武器っちょ企画
参加させていただきまぁす!
錬金術師って、いったいなんでしょうね…(遠い目)
2013.05.03
勇者のお名前間違い箇所修正
洞窟をこけ岩の洞窟に変更
主人公セリフ間違い修正。
>>>僕、まだお城の連中の「子と」怨んでるよ!
になってました(汗)
2013.05.19
主人公の独り言部分に追加。
まさか企画終了とは気がつきませんでした…お手数おかけしました。
投稿OKくださって、ありがとうございました!!