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第4章 プロローグ

挿絵(By みてみん)

ジョオさんが、セーラさんと別の車両でずーっと話し込んでいるので、僕は、この列車に乗ってからセーラさんと話す時間がまったくありません。

エリスとは同じ車両にいることでルームシェア的なことは続いていて、一人ぼっちになることはないのですが、なんかつまらないです。

もともと一人ぼっちには慣れているし、牡羊座では二週間もセーラさんと離れ離れになっていたので、こういう状況であっても精神的には痛くもかゆくもないし、スマホで配信アプリを起動させれば、定期配信をしている配信者さんたちとおしゃべりをすることもできるので寂しいとかじゃないんだけど、セーラさんが傍にいてくれないと、なんか情緒不安定になってしまいます。

「セーラさんにフラれちゃった?全然、こっちの車両にきてくれないね」

エリスが、とっても嬉しそうに心配してくれます。

「それくらい大事な話をしてるだけだと思う。僕がフラれたわけじゃないよ」

「シンちゃんとは進展はないの?」

エリスは、恋愛の話題がとにかく好きです。普段観ているチャンネルも恋愛系のバラエティショーとかが多くて、僕にもいろいろと勧めてくれるのですが、恋愛経験の乏しい僕にとっては、他人同士の恋愛事情など、まったくと言っていいくらいどうでもいいことなのです。だって、僕は、今でもセーラさんに恋をしているのだから…

「エリスは何を期待してるの?三角関係とか期待してるなら、そういう進展は一切ないよ」

しかし、もう5日間もセーラさんとまともに会話していないのです。ちょっとイライラしてきてます。

そんなセーラさんのエネルギーチャージを欲していた時です。セーラさんとジョオさんが、僕たちの車両に来てくれたのは。

「いろいろ、牡牛座星に着く前に確認したいことがあったから時間かかったけど、ジョオが、マルちゃんにも訊きたいことがあるっていうから連れてきたわ」

「ヤッホー!元気してた?寂しくて死んでたりしてない?」

「死んでませんよ!あいにくとピンピンしてます」

ジョオさんのブラックジョークに返事をする僕をセーラさんがギュッと抱きしめてくれました。

「良かった…」

抱きしめてくれたセーラさんは、なんか今にも泣きそうな顔をしています。

「セーラが、マルちゃんのこと心配するから連れてきた…私は、もっと二人だけで話したいことがいっぱいあったんだけど…まぁ、こっちでもいいかなと…マルちゃんに訊きたいことも、もちろんあるし」

ジョオさんは、普段はジャーナリストとして、インフルエンサーや政治家の恋愛事情のスクープや、事件被害者の密着取材などをしていますが、司法系のライセンスを全て所持しているというとんでもなく頭の良い女性でもあります。

弁護士でもあるので、冤罪事件の調査を自ら進め証拠をまとめた上で再審請求などを実施して、その冤罪事件を解決することも多く、事件解決のたびにネットニュースで名前が取り上げられることがあるくらいの有名人です。


「マルちゃんに訊きたいのは、まず、前世の記憶について…ストーリー・イラの物語の中で、この物語の登場人物は自分じゃないかと思える人や存在はいる?特に、同じ名前の人物」

「マルコというキャラクターってことですね。セーラさんと【小公女】のセーラ・クルーのような関係ですよね」

「そうそう」

「特にいないと思います…ストーリー・イラの物語の中で、性格が似てるのは、【ちびまるこちゃん】だけど…特に記憶に残ってるエピソードはないし…コゼットさんが、この前の配信で言ってたようなシンクロナイズドされた感覚を覚えることはないです。【ワンピース】の不死鳥のマルコとかならカッコいいと思えるけど、ちょっと彼も違うと思います」

ストーリー・イラ(物語時代)というのは、この僕たちがいる現代以前の文化的遺産として残された書籍や書物…それらの書物から創作された映像資料…古典作品が製作されたであろう時代の総称です。

ストーリー・イラの作品…創作物の歴史的な関連性を専門的に調査・研究する学者がいるくらい、この時代の作品は多岐に渡っていて、現代のコンテンツのいくつかも、この時代から継承されている物が多いようです。

【小公女】【レ・ミゼラブル】【小公子】といった作品が、ストーリー・イラの代表的な作品であることは間違いなくて、この時代に書かれた作品の多くは、まだどこかに眠っているのではないかという研究論文が話題になったこともありました。

でも、そんな時代の、しかも物語の登場人物が僕の前世であって、その記憶が僕に残っているなんてことは、想像することはできなかったのです。

「映像資料が欲しい…」

ジョオさんがポツリと言います。

「例えば【あしたのジョー】のような書籍とアニメーション映像の組み合わせで残っている作品がもっと見つかれば、私が誰かの生まれ変わりであることも、もっとはっきりすると思うの」

「うん…【小公女】の古典アニメーションとか、僕も観てみたい」

「マルちゃんもそう思うでしょ…そこで、やっぱり気になるのが、双子座の図書館」

「例の折れ耳猫のロミオが隠ぺいしてるって噂の【時のアーカイブ】ですね」


『失礼だな…キミたちは…失礼にもほどがある…』

あまりにも唐突に響いたその声は、魚座で遭遇した双子座のロミオでした。

僕たちの車両に、突如としてホログラム映像で双子座のロミオが現れたのです。

「図書館の守護者が、こんなとこに来てもいいの?ロミオ…」

セーラさんもジョオさんも、想定の範囲内だったのか、僕ほどには驚いていませんでした。

『僕の意思で隠ぺい・改ざんしているわけではないよ』

「へぇ…改ざんもしてるんだ」

『確かに、双子座図書館に【時のアーカイブ】は存在する。そして、僕たちは、その封印が解かれないようにずっと見守ってきた』

「好奇心に駆られて、時のアーカイブの中身を見たいと思ったことはないの?」

ジョオさんは、ここぞとばかりにロミオを問い詰めます。

『見せてはいけないものだという判断は、僕が判断することではないからね』

「現銀河連邦政府にとって不都合な作品が、政府判断で公開されていないことは知ってるわ」

『まぁ、それは公然の事実だからね…存在しているけど見せられないものも確かにある』

「さっきまで、セーラとも話してたけど…私が、なんらかの物語の主役級のキャラクターの生まれ変わり…もしくは、この時代に転生して来たことは間違いないと思っている。そうじゃないと、私のチート級スキルの説明がつかないから」

『確かに、キミは、セーラ、セディ、コゼットに匹敵するチート能力者だ…この世界の常識を打ち破る力を持って生まれている』

「わかってるんじゃないの」

『まぁね…僕は【時のアーカイブ』の守護者だからね』

「現代のチート能力者…私たち以外にも当然いるよね。あなたは、他に誰が怪しいと思っているの?」

『それは、キミとセーラが、さっきまで話していた人たち…選ばれし者のことだね』

「ずっと聴いていたの?隠ぺい、改ざん、覗き、盗聴…【図書館司書】ってのは、やりたい放題ってこと?」

『キミたち…正確には、セーラとアンが3つの超重要アイテムの封印を解いて、結集させてくれたから、僕はこうやって堂々と覗きを楽しむことができるようになったんだよ』

「覗きを楽しんでるって?それって、めっちゃ問題発言なんだけど…まぁ、今さら、見られて減るもんじゃないけど…盗聴や盗撮は、犯罪だって知ってるよね」

『この盗聴システムは、僕が取り付けたんじゃない。キミたちが、盗聴できるようにアイテムを集めてくれたことで、できるようになったんだ。

しかもこれは、双方向通信技術だからね。

キミたちは双児駅に不法侵入することもできるようになったし、僕が、アイテムの置かれた場所に、こうやって自分の分身を転送することもできる…それも、キミが調べたとおりだよ…優秀すぎる探偵さん。

だから、こうやって、僕とキミたちが、おしゃべりできていることを、キミは不思議とは思っていないよね』

「まあね…とりあえず、あなたの犯罪行為のことは、この件が済んだら法廷で決着を着けましょう。今、直接話せるならそっちの駅に着く前に確認しておきたいことがあるわ。現在に転生してきたチート能力者たちのこと…教えてくれるよね」

『名前を言ってくれれば、イエスかノーで応えるよ』

「まずは、魚座…ピスケス星人のラスカル」

『イエス』

「蟹座の召喚士のペリーヌ」

『イエス』

「乙女座の女優のポリアンナ」

『イエス』

「蠍座の芸人のレミ」

『イエス』

「射手座の軍人のトム」

『イエス』

「山羊座のアーティストのネロ」

『イエス』

「さすがに良く把握できてるわね。他に怪しいヒトはいない?」

『召喚士のペリーヌを操って違法な召喚をさせている医師連中が怪しい動きをしていることには気づいているかい?』

「確か、蟹座で怪しい研究を続けているゲンパク、リョウタク、それと、射手座のオーガイとシバサブローの4人は怪しいと思ってる」

『さすが…』

「私たちの相談内容は聴いていたんでしょ」

『単純に考えれば、彼らマッドサイエンティストが過去の物語の主役級を現代に使い魔として召喚しているってことが一番あり得そうなんだけどね』

「つまり、そこまで単純じゃないってこと…で合ってる?」

『そうだね、ジャーナリストとしてアポが取れるなら、直接、本人たちに聞いてみるといいよ。僕が彼らに会うことは無理だから』

「選ばれし12人は、この4人の医師団を除く12人でほぼ間違いないのかな?」

『間違いないね…どうする?僕のとこに来る前に、彼らも連れてくる?』

「双児駅の封印は解けたから、まずは【時のアーカイブ】をこじ開けるのを優先したい」

ジョオさんは、とってもとっても怖い笑顔で、ロミオとの対話を楽しんでいます。繰り返します、とってもとっても怖い笑顔です。


『そうだ、マルコは、僕の妹なんだから大切にしてよね』

「え?」

『ジョオもセーラも推理能力は、まだまだだよね…マルコは、僕の双子の妹…本来は、この双児駅の【時のアーカイブ】を一緒に守らなくてはならない存在だったんだ…それが、人身売買一味に攫われたのが13年前なんだよ』

びっくりです。確かに僕は天涯孤独の猫だったけど、そんな事実があったなんて。でも、イマイチ、このロミオって猫は信用できないんですよね。そもそも自分のことを犯罪者だって自称してるし、ジョオさんはガサツだから気にならないかもだけど、僕やセーラさんは、やっぱり男の人に裸やプライベートを覗かれるのはイヤでしょうがないのです。

そのような犯罪行為がわかった以上は不問にはできません。必ずバカ高い慰謝料をふんだくって、社会的にも抹殺しないと気が収まりません。

『僕のところに来たら、キミたちには、【時のアーカイブ】の鍵を開けて、今まで公開されていないストーリー・イラの物語を開放してほしいいんだ。僕にその力がないことはわかっているし、守護者としては、侵入者の侵入を許すわけにはいかないという建前もあるからね。僕の屍を越えて、キミたちが【時のアーカイブ】を開放することができれば、僕は僕自身の謎も、僕が誰の生まれ変わりなのかってこともきっとわかると思う…だからキミたちに期待してる』


「ロミオちゃん…キミの望むことはだいたいわかったよ…」

ジョオの腰にぶら下がっているネイティブ・トーラス星人のエイミーちゃんが、そこで初めて言葉を発しました。

僕よりも小さくて茶色い毛並みで二つの立派な角を持っているエイミーちゃんは、、とっても寡黙なネイティブ・トーラス星人で普段は思慮深くしていて、ほとんど言葉を発することはしません。

テレパシーの使い手なので、ジョオさんとは以心伝心で意思疎通を図ることができるらしいのです。

ただ、僕たちに聞いて欲しいことがある場合だけ、ジョオさんを通さずに自分の口から言葉を発することがあります。

『エイミーちゃんと話すのは久しぶりだね』

ロミオも、少し困惑したような表情になりました。

「言葉を反芻してるうちにどうでもよくなっちゃうからね…とりあえず、そっちに行く前に牡牛座のあたしたちの家には来てもらいたい…特にロミオちゃんには直接見てほしい。

ジョオとあたしが今持ってる大きな大きな翠玉エメラルドを見てもらったほうがいいと思うから」

『それって…4つめの宝石が、牡牛座にあるってこと?』

「うん、そうだよ…大きすぎて持ち運べないけど…これがそう」

エイミーちゃんは、左右の角の先からレーザー光を発生させると、その列車内にいるみんなが見られるように、その巨大な翠玉エメラルドの映像をホログラム映像として投影しました。

「この宝石が牡牛座で見つかってジョオのところに来てから、この日が来ることを、あたしたちはずっと待っていたの。

ラスカルちゃん、ロミオちゃん、マルコちゃん、そして、ジョオのオリジナル・ストーリーにやっと会える。

ジョオが、矢吹丈みたいな貧乏で瘦せ細ったボクサーだなんて絶対に信じてないから、きっと素敵な物語の素敵な女の子の物語が絶対あるって信じてる」

「もしかして、この双児駅への旅を一番楽しみにしているのって…エイミーちゃん?」

「そうだよ…マルちゃん。マルちゃんは、きっと、ただ、この12星座銀河にセーラさんに会うために来たと思っているかもだけど、ずっと、ジョオとあたしが見つけようとしていた物語…それを発見するために、ここにいるみんなが引き寄せ合ったんだと思うんだ…あたしはね」

「今日は、よくしゃべるね…エイミー」

ジョオさんは、いつの間にか自然な笑顔になっています。

「まあね…今回の謎は、あたしが全部解決するんだから…ジョオも協力をよろしくね」

「こっちこそ頼りにしてるよ…相棒…私のストーリー…できることならエイミーと私のストーリーが【赤毛のアン】みたいな物語だと嬉しいよね」

「うん、そうだね」

「私たちももちろん協力します…あいにくと、僕たちには、公開されている中央情報コンピュータに記録されている以外のデータを検索することはできないけど、記録がないことを証明することは一瞬でできます。これから【時のアーカイブ】に侵入して見ることや体験することは、全てが僕たちにとって、未知のコンテンツなんです。たくさんの隠ぺいされたストーリー・イラの物語をサルベージしましょう」

AIアシスタントたち4人を代表するようにレッドさんが、エイミーちゃんとがっちり握手をしました。実体化したレッドさんとエイミーちゃんは、どちらも、身長が20cmくらいなので、5人が固まった場所にいると、おもちゃのリビングセットを使ったティーパーティーが始まりそうです。

しかし、ティーパーティーは開始されずに、エイミーちゃんは、次のように謎となっているキーワードを並べてAIチームと情報整理を始めたのです。

【双児駅】【図書館】【時のアーカイブ】

瑠璃ラピスラズリ:ラピス】【紅瑪瑙カーネリアン:カーネル】【金剛石ダイヤモンド:ダイヤ】【翠玉エメラルド:名前はまだない】

【楽譜】【黄金の林檎】【フランス人形:エミリー】

【♪おいで、今日もラスカル…】【1888】【Everything's a Story】

【ピスケス・ドーム】【カフェ1888】【遺跡エリア88】

【過去】【現在】【未来】

【存在が確認できているストーリー・イラの4つの物語】【小公女】【小公子】【レ・ミゼラブル】【赤毛のアン】

【未公開の9つの物語】【13人の選ばれし者】

【セーラ】【ラスカル】【アン】【ジョオ】【マルコ】【ロミオ】【ペリーヌ】【セディ】【ポリアンナ】【コゼット】【レミ】【トム】【ネロ】

【アンの物語はギャラクティカ・イラでは存在している…アンの記憶にはないが、作品をリスペクトしている…時のアーカイブでヒントが見つかれば記憶の回復も可能?】

【ラスカルの物語はギャラクティカ・イラでは未知…時のアーカイブに封印されている可能性が大きい…AIチームで検索可能なデータベース内には、完全一致または一致する可能性がある物語は検索できていない】

【マルコ、ロミオ、ジョオの物語も未知…時のアーカイブに封印されている可能性が高い…AIチームで検索可能なデータベース内には、完全一致または一致する可能性がある物語は検索できていない】

【ポリアンナ、レミ、トム、ネロについては、13人の選ばれし者であることがロミオの証言によって確定…インタビューで記憶の有無と宝石の有無を確認する必要がある】

【ペリーヌが召喚士であることから、13人の選ばれし者の誰か、または全員が召喚された可能性を考慮…ペリーヌへのインタビューまたは接触が必要…AIチームの調査ではペリーヌが選ばれし者を召喚した公式な記録はなし】

【銀河連邦政府がストーリー・イラの物語のいくつかを隠ぺいした事実とその理由…非公開の物語リストの存在も疑われる】

【ロミオが守護者となった理由…守護者となったのはマルコが攫われた後か前か】

【マルコとロミオが双子の兄妹で、マルコが人身売買業者に攫われた理由】

【銀河連邦政府規模でストーリー・イラの作品が存在した歴史を消す方法…歴史の記録を完全消去することがそもそも可能なものか?】


「今できることは限られてるけど、まずは既にインタビューを終えているコゼット以外の4人へのインタビューをやってみるべきね…あの超有名人4人に簡単にアポが取れればだけど…」

エイミーちゃんは【時のアーカイブ】に接触する前に、今解決できる方法として一つの提案をAIチームにしました。

「ロミオとマルコの2つの物語は一つかもしれませんし、それぞれ別の物語かもしれません…ラスカルとジョオの物語は意図的に隠ぺいされているのは間違いない…4人に前世の記憶がないことから、記憶を消された可能性も考慮します」

そう呟いて、レッドさんは記憶のサルベージをすることを検討し、その方法を検索し始めたようです。

「アンの前世の記憶は元々ないのか?消されたのか?物語が特定されていて前世の記憶がない人物はアンだけで、他は物語自体が隠ぺいされてます…記憶を消せる人物・組織を検索します…たぶん、ちょっと時間かかります」

ホワイトさんは、嬉々として12星座銀河のアクセス可能なデータベースサーバーへの侵入を開始してしまったようです。できることとやっていいことを正確に把握しているホワイトさんですから、法に触れないぎりぎりのところを攻めているのでしょうが、許諾なくあっちこっちのデータベースやメモリーユニットを覗き見しているのはやっぱりいけないことなんじゃないかなって、僕はいつも思うのです。


エイミーちゃんとAIチームが展開したホログラムのキーワード群を前に、車内の空気はかつてないほどの熱気に包まれていた。


「……ねえ、ジョオ。ロミオが言った『マルコは僕の双子の妹』って言葉……どこまで本当だと思う?」

僕が膝の上で小さくなっていると、セーラさんが真剣な眼差しでジョオさんに問いかけた。


「ロミオの性格からして、ハーフ・トルース(半分は本当で、半分はブラフ)でしょうね。でも、彼が守護している【時のアーカイブ】に『双子座の物語』が2つ封印されているのは事実よ」

ジョオさんは冷えたビールを一口飲み、車窓の外——刻一刻と近づく牡牛座の重厚な星系を見つめた。


「『クオレ物語(母をたずねて三千里)』のマルコと、『黒い兄弟』のロミオ……。2人がかつて対となる運命を背負っていたとしたら、13年前の人身売買事件も、ただの犯罪ではなく『記憶の封印』を目的とした銀河連邦政府の影がチラつくわ」


「銀河連邦政府の影……ですか?」

僕が息をのむと、AIチームのブルーが冷徹な声でホログラム画面を操作した。


「肯定します。現在、蟹座の病院施設を拠点とする『マッドサイエンティスト4人組(ゲンパク、リョウタク、オーガイ、シバサブロー)』へ、連邦政府の極秘国家予算が流れている証拠を捕捉しました。彼らは召喚士ペリーヌの『召喚術』を違法に利用し、時のアーカイブから『物語の英霊(使い魔)』を現代に引きずり出そうと画策しています」


「使い魔……! まさか、過去の物語の主人公たちを兵器や道具として利用しようとしてるの!?」

エリスが思わず立ち上がって叫んだ。


「その可能性が高いわ」とジョオさん。

「そして、その実験を阻止し、13人の選ばれし者の記憶を取り戻す鍵こそが、我がホームグラウンド・牡牛座に眠る4つ目の巨大な宝石——【翠玉エメラルド】よ!」


列車が重厚な金属音を立てて減速を始める。窓の外には、巨大な牧草地帯と古風なレンガ造りの街並みが広がる「金牛駅きんぎゅうえき」のホームが見えてきていた。


「さあ、みんな! 牡牛座に着いたわよ! 探偵ジョオとAIチーム、そしてマルコご一行様の総力戦の始まりよーっ!」


ジョオさんの豪快な合図とともに、銀河鉄道のドアが開き、僕たちの新たな推理と戦いの舞台——牡牛座の地を踏みしめたのだった。

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