第78話「シリアス展開のはずが、 国民的アイドルとの中学時代のツーショット写真を晒され修羅場になった件について」
―18時。ここは茜坂夫婦が経営する定食屋。トラモント亭。
店内は照明が少し暗く、木の匂いが落ち着く。
テーブルの上にはケイとシルファが作った湯気の立つ料理が並ぶ。
唐揚げ、豚汁、焼き魚、煮物。
見た目だけで人の心をほどく“家庭の味”だ。
ヤヤ、ユウヒ、レイン、カイト、ケイ、シルファが円卓を囲んで座っている。
ケイが箸を置き、静かに口を開いた。
「わりーな。忙しい中集まってもらって。察してるとは思うが、今日集まってもらったのは先日の事件関係の話だ」
ケイの声音は落ち着いているが、その奥にいつもより重いものが混ざっている。
全員が自然と背筋を伸ばす中、ケイは続けた。
「まず……今回の件で死亡したジャスティス構成員は15名だ。……45名いたが、現在は30名。
補充は難しいが、現場レベルは依然維持している」
静寂が落ちる。
ユウヒが拳を握りしめ、唇を噛む。
「……ごめん。私、もっと……助けられると思ってた」
ヤヤは静かに落ち着いたように言う。
「お前のせいじゃない……一番の死因はあのトワの人間爆弾だろ?」
「そうよ。ユウヒ。あんたはよくやったわ。エクリプスの幹部二人を倒したんだから」
レインは優しい表情でユウヒの肩に手を置き慰める。
沈黙。
暗い空気の中、シルファは、そっと両手を重ねるように胸の前に置き、落ち着いた声で言う。
「……皆さん。つらいお気持ちは、痛いほど分かります。
でも、亡くなった方々は、きっと私たちがこうして立ち止まることを望んでいません。
彼らの分まで……前を向いて、歩いていきましょう?」
その言葉は押しつけではなく、静かに寄り添うようで、空気に混ざって温度を生む。
自然と全員の視線がケイへ向く。
ケイは短く息を吐き、真剣な目で皆を見回した。
「……ああ。シルファの言う通りだ。
それじゃあ、本題に入る――」
ケイは深く息を吐いてから言葉を落とした。
「……政府は一昨日、新しい武装組織を設立した。
名前は――ガーディアン」
店内の空気が一瞬、冷たい水を注がれたように静まる。
カイトの表情がぱちりと変わり、すぐに眉間に皺が寄る。
「……は?政府が新しい組織って……俺達じゃ頼りないってことか?」
声はいつもより低く、苛立ちと不安が混ざっていた。
「ははっ……!そう怒んな。味方が増えるのはいいことだろ?あくまで“別の道”だ。
まぁ政府が本気で動いてるのは確かだ。
覚醒水晶に適合する人材を水面下でずっとスカウトを続けてたらしい。
もう何人かは能力を発現させて、“実戦投入の準備段階”に入ったそうだ」
シルファが小さく息を呑み、レインが眉をひそめた。
「……今まで政府は私達に対して、たいした支援なかったわよね?つまりそのガーディアンは“国家公認の異能部隊”ってわけ?」
ケイは無言で頷き、その沈黙が答えを示していた。
ユウヒが不安そうにヤヤを見つめる。
その目は「どうするの?」と訴えていた。
ヤヤは短く息を吐き、腕を組んだ。
「国家が金と人材を注ぎ込む組織が動き出したら……ジャスティスが“正式な戦力”として扱われなくなる可能性が高い。そうならないためには一つしかねぇ」
「ガーディアン以上の実績……だろ?」
カイトはなるほどといった顔でヤヤの言いたかったことを口にする。
ケイは頷き、皆に説明する。
「上層部は“管理しやすい武力”を欲しがる。
政府直轄というブランドがあれば、世論にも説明しやすい……
だからこそ――俺達には“存在意義”を示す必要があるんだ」
「存在意義……」
ポツリと呟いたシルファの言葉にケイは反応する。
「ああ。“ジャスティスじゃなきゃダメなんだ”っていう実績だ。ガーディアンにはできないことを、俺たちが先にやる。スピードも、判断も、足で稼ぐ情報量も……全部“上”だと突きつける」
「……つまり、今まで以上に危険な現場を引き受けるしかないってことか」
ヤヤの声には焦りも動揺もなく、覚悟をすでに受け入れた者だけが持つ冷静さがあった。
再び沈黙。
だが、重苦しい空気の中で、シルファが口を開いた。
「あの……ケイ。そのガーディアンの中でも凄い強い人がいるのでしょうか?私たちと同じくらい」
ケイは一瞬迷ったが、覚悟を決めたように言った。
「……少なくとも、一人――化け物みたいなのがいる。そいつは氷のアウトロートリガー使いらしい」
「!!」
その言葉で、全員が息を呑む。
特に同じ幻のアウトロートリガー使いのヤヤとユウヒは目を見開き驚きを声にする。
「俺達と同じ……アウトロートリガー使い」
「どんな人なんだろ~。氷……かぁ」
それからケイは「あっ」と何か思い出したかのようにヤヤに尋ねる。
「ヤヤ。そういえばお前に聞きたいことがあるんだが……」
「ん?何?」
「あの遊佐アキトと戦った時のあの神器は俺と戦った時と違うよな?あの赤いやつ……あれは何なんだ?」
ケイの言葉に、場の空気が盛り上がる。
全員の視線が一斉にヤヤへと向く。
真っ先に尋ねたのはカイトだった。
「たしかに!あれ明らかに前のと違ってたぞ!? なに、進化とかしたのか!?」
ヤヤは、みんなの反応とは対照的に落ち着いていた。
「あー、あれか。あれは夜にしか使えない力だ」
ヤヤは少しだけ視線を落とし、
あの戦闘の時を思い出すように言葉を続ける。
「“闇”を媒体に具現化するタイプの神器だから、太陽の下だとベストな力を呼び出せねぇんだ」
「何その限定的な条件……なんか逆に怖いんだけど……」
レインの言葉をヤヤはスルーし、話を続ける。
「それから、あれには複数の能力がある。
まず――異能の無効化。斬った異能はどんなものも打ち消せる」
「っ!?ケイと同じですね!その力は!」
シルファがケイの方を見てそういった後、ヤヤは「それだけじゃない」と言う。
「二つ目の能力――異能の封印だ。敵にダメージを与えた場合、もうそいつは異能を使えない。朝までな」
「えぇぇっ~?!何それ?最強じゃん!!」
「そいつはすげえな。当たりさえすれば勝ち確の力だな」
ユウヒとケイだけでなく、その瞬間、全員がヤヤを再び見る。
さらに、あと二つあるとヤヤは言う。
「あとはあの神器を持ってる時はあらゆる傷は回復し、相手の心を読めるみたいだ」
「っ!!だからあの左腕治ったのですね!」
「よ、夜はまさに無敵ってことね」
シルファとレインがそう言葉を添えた後、最後ケイがヤヤの髪をワシャワシャとし、感謝の言葉を伝える。
「まっ……なんにしろよくやったよ。アイツに勝てんのは俺かお前くらいだったろうな。ははっ……!」
「い、痛い……」
「俺がヤヤに聞きたかったことは以上だ。最後に。事件後は幸い、大きな異能犯罪は起きていない。
だが……油断だけはするな」
全員がうなずく。
そしてケイが手を叩いた。
「よし、ミーティングは終了!
あとは飯食って雑談でも──」
その瞬間。
カイトがガタァァン!!と椅子を倒しながら立ち上がった。原因は店内に流れていたテレビのようだ。
「……な、な、なん……っだとぅぅぅ?!」
「え、カイト君どうしたの~??」
「あ、あんた今膝震えてるわよ」
ユウヒとレインが不思議に思う中、TV画面には芸能ニュース速報が踊る。
【速報!人気アイドルグループ
「Etoile♡Beat」の鳳ツバサ 熱愛発覚!?】
カイトはテレビを指差して……
「お、俺の……お、推しが……! ツバサちゃんが……! ね、熱愛って……誰だよぉぉぉぉ?! やめてくれよおおおお!!」
店内中に響く絶叫。
「そういえばあんたこのグループ好きだったわよね。御愁傷様~。芸能人なんて夢みないことよ」
レインは呆れたかのように適当に答える。
一方ヤヤはぽかんとテレビを見ながら静かに呟く。
「ツバサ? ……似てるけど……まさかな」
そんな中ユウヒはパニックでいるカイトを見て、ケラケラと笑う。
「カイト君、顔色っっっろ!あははは~っ!!」
「笑うなっ!ちきしょーっ!!」
「あ~笑った笑った~!……あっ!相手の顔わかるっぽいよ~」
TV画面に熱愛のスクープ写真が映し出された。
【北海道の中学時代の“ツーショット写真”流出!】
陸上部のユニフォーム姿の少年に対して、中学時代の鳳ツバサが後ろから満面の笑みで抱きついている。少年はトロフィーを持ち、めちゃくちゃ照れた顔で逃げ腰。
ユウヒの笑顔が、すっと消える。
「……ん? この人……どこかで……見た……こと……ある……」
ユウヒの声が、かすれたように落ちる。
レインも、目を細めながら画面をよく見る。
「……てか、この顔……待って……ちょっと待って……」
その後レインは気づいたのか無関心そうだった目に、涙が徐々に浮かぶ。
ケイはというと箸をつい落とし、シルファを見る。
「……おい、シルファ。これ……まさか……」
シルファは手で口を押さえ、小さく息を呑んだ。
「……ええ。そ、そのまさかだと思います。
しかもちゃっかり全国大会優勝されてますね……」
まるで店内の空気が一度に吸い込まれたみたいに静まり返る。
そして、誰ともなく、自然と視線が一点に集まる。
ヤヤへ。
ヤヤはじーーーーーっと画面を見つめていた。
「……あ。俺だわ」
店内、大爆発!!
カイトは悲鳴をあげながら、ヤヤの両肩をつかみブンブンと前後する。
「うおおおおおおおおお?! なぁぁぁぁんでお前なんだよぉぉぉ!! 俺の純潔の天使にぃぃぃ!!」
「……お、おい!こいつは鳳ツバサじゃない……名字が違う!ただの中学の友達でっ……い、いたい!レイン!ちょ……やめ!」
ヤヤが苦しそうにするなか、レインは号泣しヤヤの頬っぺたを引っ張りながら言葉を叫ぶ。
「バ、バカぁぁ!!!鳳は芸名に決まってるでしょうがぁぁぁっ!!」
「あ、あああ。なる……ほど。芸名か……!」
ヤヤが納得した様子でそう答えた後、今度はユウヒを見る。
ヤヤは気づく。いつも落ち着いていて、余裕のあるあのユウヒが頬を赤らめ涙をポタポタと流し必死だったことに。
ユウヒは何か訴えるかのように想いを爆発させる。
「い、いや、やだよぉ……!ヤヤ君!ま、まさかっ!つきあったりしなかったよねぇ?!?!キ、キ、キスしてないよねぇ!?」
「お、おい?ユウヒ?た、ただの友達だよ?」
「嘘じゃないよね?ねぇ!ねぇ!そうだよね?ヤヤ君にもし何かあったら、私、私っ……!!」
ケイは呆然。
「……お、お前……いつの間にそんな濃い人生を育ててたんだ……?てかお前の周りの女、メンヘラすぎだろ?こ、こわいんだが……」
「い、いや……あんたがいう言葉じゃないだろ」
「え、えっと……なにがなんだか……」
ヤヤはケイの妻であるシルファをさらっと見てそう言う。本人であるシルファは完全に理解が追いついていないようだが……
そんな店内が蜂の巣を突いたような大騒ぎになっている中。
――がらがらっ。
店のドアが開いた。
サングラスに深い帽子、マスクという怪しさ満点の格好の人物が駆け込んでくる。
「すみませぇぇぇん!! ちょっと隠れさせてくださーーーい!!」
ケイは店員としての顔に切り替わり、丁寧に言う。
「すまん、今日は貸し切りなんだ。また今度──」
と言いかけた瞬間。
その人物はヤヤの姿を見た瞬間、体をビクッと震わせた。
「……へっ?!ヤヤ?! ヤヤだよねー?!」
そしてサングラスと帽子を外す。
亜麻色のショートヘアに整った容姿、小柄だが人一倍明るく爽やかな雰囲気のその少女。
それは今さっきテレビに映っていた人物
――鳳ツバサだった。
カイトは絶叫。
「生でぇぇぇぇぇぇぇえええええ?!?」
「ツバサ?久しぶりだなっ!」
皆が言葉を失う中、ヤヤはツバサの前へ歩いていき挨拶する。
「わ、わりーな。今テレビみたよ。俺のせいでメディアから追われてるんだろ?」
ツバサはヤヤに抱きつき涙目で叫んだ。
「そんなのどうでもいいよ!!それよりよかったぁぁぁ!! やっと会えたぁぁ!!
中学ぶりだよね!?ヤヤぁぁあ!!」
「お、おい……は、はなれて!すりすりすんな」
「えぇ?!いいじゃん!てかその制服、もしかして青山学園の?!」
「あ、ああ。」
「やっぱりそうだよね!!じゃあ明日から一緒じゃん!!」
「え?」
「私明日からその学校に通うんだよ!!」
席に座ったままのカイトはすっとんきょうな声を上げる。
「ええぇぇ?!いや、まてよ?!たしかに明日うちのクラスに星川って名字の女子が来るって他の教員が言ってた気が!まさかっ……!」
「そうだよ!私の名前、本当は星川ツバサだから!ヤヤ!!明日からまたよろしくね!!」
ツバサはアイドルらしくウインクする。
店内、第二の大爆発となった……




