第74話「放課後のコンビニとアイス」
退院してから初日の放課後。
ヤヤは校門を出た瞬間、小さくため息をついた。
「はぁ……完全ノー勉で小テストは無理だろ……」
数学の小テスト。問題を見た瞬間、頭が真っ白になった。
寝たきりブランクは伊達じゃない。
しかも、よりによって現実を見たくない点数を容赦なく返してきた。
その紙を手にぶら下げながら歩くヤヤの横で、ユウヒが覗き込む。
「ヤヤくん〜、顔が死んでるよ?
ほらほら〜見せなって」
「嫌だよ。絶対バカにするだろ」
「しないよ〜。……多分ね?」
「“多分”って言っちゃってるじゃん!!」
そんなやり取りをしながら、二人はいつものコンビニに到着する。
ユウヒはヤヤの肩をトントンと軽く叩いて、店内を指さした。
「じゃ、慰めアイス買ってあげるから。選んでおいで」
「アイス……」
その響きに、ヤヤは少しだけ肩の力が抜けた。
アイスの冷たさに癒やされる感じ、悪くない。
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店内に入ると、ユウヒは真っ先にアイスコーナーへ走る。
その速さにヤヤは苦笑した。
「……なんだよ、その全力ダッシュ」
「いや〜、アイスってテンション上がるじゃん?
それに今日は特別だし」
「特別?」
「うん。ヤヤくん退院記念日」
ぱっと振り向いて、いたずらっぽく笑うユウヒ。
ヤヤは思わず言葉に詰まる。
「……別に記念日ってほどじゃ……」
「あるよ。ヤヤくんが無事で、隣歩いてくれてる。それ以上の記念日ないよ」
平然と言うくせに、ユウヒは目をそらして照れ隠し。そんなところがまたズルい。
ヤヤはごまかすように、ソーダアイスを手に取る。
「俺はこれでいいよ。安定のソーダ。王道って感じの」
「はーい、じゃあ私は……これ!」
「え……それ買うの?」
ユウヒが掲げていたのは――
コーンポタージュ味のアイス。
「いや、なんでそれ選ぶんだよ!?」
「え、だって気になったんだもん。初挑戦だよ?」
「挑戦の方向性がバグってるだろ!」
「え〜?ヤヤくんだって一口食べたいくせに〜」
「絶対いらない!!」
そんなことを言い合いながら会計を済ませ、コンビニ前のベンチに腰掛ける。
ヤヤはソーダアイスを開けて、ひんやりした甘さに少しだけ救われる。
対してユウヒはワクワクしながら謎アイスを開封した。
「じゃ、いただきまーす!」
「本当に食べるのか……?」
もぐっ、とユウヒは一口。
数秒静止する。
「どう?」
「……………うん」
「うん?」
「……………コーンスープが……冷たくなって……がんばってる……味?」
「説明が雑!!いや、がんばってる味って何!?」
ユウヒはむぐむぐしながら、なぜかもう一口食べる。
「ねぇヤヤくん、思ったより……」
「思ったより?」
「……癖になる」
「ならねぇよ!!」
その必死のツッコミに、ユウヒは声を立てて笑った。
その笑顔に、ヤヤの落ち込みはすっかり薄れていく。
しばらく二人でベンチに座り、アイスを食べ続けた。
夕方の空は少しオレンジが混ざっていて、風が気持ちいい。
「……なんかさ」
ヤヤがぽつりと呟くと、ユウヒが首をかしげる。
「ん?」
「こういう日常、久しぶりだなって思って」
「そうだね。ヤヤくん、ずっと戦ってたから」
「……ユウヒもだろ?」
「でも、こうやって一緒にアイス食べられるなら、それでいいじゃん。明日もさ、ヤヤくんが落ち込んだら、また変なアイス買ってくるから」
「アイスは嬉しい……でもお願いだから普通のにしてくれ」
「やーだ。ヤヤくんがツッコむの好きだから〜」
「お前のために俺が存在してんじゃねぇよ……」
「え、違うの?」
「違うよ!!」
ユウヒはケラケラ笑い、ヤヤはため息をつきながらも笑ってしまう。
――ああ、こういう時間がずっと続けばいいのに。
そんなことを、誰にも聞こえない声でヤヤは思った。




