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第43話「夜の食堂と恋バナ」

訓練二日目の夜

模擬戦が終わり、熱気と汗の一日が静まり返る。

夜の旅館の食堂には、人のざわめきと、味噌汁の香りが漂っていた。

四人掛けのテーブルに、ヤヤ、カイト、レイン、ユウヒが腰を下ろす。

みんな少しだけ疲れている。けれどそれぞれの顔には、どこか満ち足りた表情もあった。

 ――特にユウヒは、どこかすっきりしていた。昼の模擬戦で何か吹っ切れたような。


その時だった。


「お。コードXIIIじゃんか。奇遇だな。同じ旅館とはな」


低く落ち着いた声が背後からした。

振り向くと、そこには茜坂ケイと、その隣に佇むシルファの姿があった。

夕食の湯気の中でも、その二人はまるで別格の空気を纏っている。


「ケイ、シルファ……!」


カイトが立ち上がり、すぐに笑みを返す。


「昨日は世話になった。こいつらにとって、いい刺激になったよ」


「そりゃ何よりだ」


ケイは頷き、ふっと口元を緩めた。


「よかったら、同じテーブルでどうだ?」


その提案に、ヤヤ、カイト、ユウヒの三人は顔を見合わせてすぐ頷く。

だが――レインとシルファだけが、明らかに表情を曇らせた。


「げっ……!わ、私は絶対嫌よ!こんなヤンデレメンヘラ女となんて!」


レインが若干怯えた様子で激しく拒絶すると思えば


「ケイ。私も嫌です。こんな人の夫を誘惑するような下品な女と相席なんて」


シルファがすぐに応じる。


空気がピリ、と張る。

互いの視線がぶつかる――まるで氷と炎のように。


その緊張を、ケイがあっけらかんと崩した。


「ははっ……!まぁシルファ、可愛い後輩達とたまには一緒に飯もいいじゃねぇか。昨日の敵はなんとやらとかいうだろ?」


「今日の友ですね……はぁ、ケイがそういうのであればしょうがないですね。今回だけは許して差し上げます。レイン、いいですよね?」


「シルファは相変わらず上から目線ね。まぁでもいいわ。今回は私が悪いのは明らかだし」


結局、同じテーブルに二チームが並ぶことになった。


料理が並び、湯気の向こうで会話が始まる。



---


「模擬戦、観てたよ」


ケイが味噌汁をすする手を止め、ユウヒを見た。


「君も“アウトロートリガー”使いなんだな。日本に三人もいるとは思わなかったがな」


ユウヒは嬉しそうに笑う。


「まぁね~。もともとは中国の《黒蓮幇ヘイ・リェンバン》っていう組織で、工作員やってたんだ~。でもね、ある日ヤヤ君に助けられて――それで今はジャスティスの一員ってわけ」


「ほう……黒蓮幇といえばジャスティスとは敵同士だよな?……ふぅん」


ケイはヤヤとユウヒを交互に見たあと、軽く眉を上げた指を指す。


「ということはそこはできてんのか?」


「……へっ?」


ヤヤとユウヒ、同時に顔を赤くして声が裏返る。


「今の会話でなんでその流れになるのよ!」


レインが立ち上がって動揺を露にする。

その様子を見て、シルファが優雅に微笑んだ。


「ふふ。ケイ。私達の若い頃を見ているようですね」


「そうだな。意外かもだが俺とシルファは元々敵同士だったんだぜ?」


テーブルが一斉に静まる。

カイトは思わずどういうことか問う。


「敵……?」


「ええ。昔私はロシアの暗殺に特化した軍にいた時期がありまして……一方ケイはそのころからジャスティスのエース。当時任務で互いに殺し合っていたんです。でも――戦場で何度も顔を合わせるうちに、妙な気持ちが生まれてしまって……」


ケイが笑う。


「ま、殺し合いしてるうちに惚れたってやつだ。お互い、ちょっとイカれてたのかもな」


食堂の明かりが、ほんの少し温かくなったように感じた。

ユウヒはうっとりと目を細める。


「じゃあ好きになってはいけないもの同士の禁断の恋じゃん!……きゃああ~♡」


ユウヒがそんな反応をする中、ヤヤはシルファに尋ねる。


「今ジャスティスにいるってことは、ロシアのその軍をやめたってことだろ?国家機密とかもわかってるだろうし、よく許してくれたな」


「そうよ。何かペナルティとかなかったの?」


当然とも思えるヤヤとレインの疑問に対して、シルファは迷いなくこう答える。


「いえいえ、許してもらってないですよ?やめた後、口止めをするためだと思いますが、私に何人もの暗殺の刺客を送ってきました」


「……それはよく無事だったな」


他のコードXIIIのメンバーが驚きのあまり言葉を失う中、カイトが心配する。

一方シルファはこの言葉の後、ふと危険な香りのする笑みを浮かべ話を続ける。


「ええ。結局あしらうのもキリがないと思ったので、ケイと私の二人で直接ロシアに乗り込んでその軍の人間を皆殺しにしてきました。その軍の部隊を壊滅させた上、私がジャスティスに入った以上もう迂闊には襲ってこないかと思います」


「あれは大仕事だったよな。まぁ、また奴らが襲ってきたら俺が絶対お前を守ってやるさ」


「ケイ……」


そんな物騒な話をした後、シルファはケイに頭を撫でられ、顔を赤らめる。

ユウヒはそんな二人を見て、似た境遇の自分とヤヤの関係を重ねてしまう。ユウヒは少し照れながらヤヤを見た後、静かに話しかける。


「ねぇ~」


「ん?なんだよ」


「なんか似てるね……私達と」


「……そうだな。その……ユウヒ」


「な、何~?」


ヤヤは目を反らし、少し恥ずかしそうにユウヒの名前を呼び、こう言う。


「……俺は合同訓練前の河川敷での約束……忘れてないから」


「……っ!!」


それは二人だけの秘密だった。ユウヒは星空と月明かりの下でのヤヤとのキスを思い出し、顔を真っ赤にする。


二人を見て何かあると思ったのだろう。カイトはニヤニヤとした表情で呟く。


「おー……さすが青春ボーイだな」


一方レインは気になってしょうがなかったのか身を乗り出し、ヤヤの胸ぐらを乱暴に掴む。少し泣きそうな表情で。


「ね、ねぇ……!ヤヤ君、ユ、ユウヒと何かあったの!?何のこと?!ねぇってば!!」


「……レ、レイン苦しい……」


ユウヒがくすっと笑って、レインの方へ顔を向けた。

その表情はどこか妖艶で、けれど満ち足りたようでもある。


「ふふっ……ダメ~。それは二人だけの秘密だから~♪」


「なっ……!?なにそれっ!なによそれぇぇっ!!」


レインは顔を真っ赤にして机を叩く。

周りの客たちがちらりと視線を向けるが、当の本人はまるで気にしていない。

カイトはその様子を見て肩をすくめ、味噌汁を飲み干した。


「こいつら、ホントにバラエティ番組出せそうだな……」


ケイが立ち上がる。


「さて、そろそろ引き上げるか。明日も一応午前だけだが訓練がまだあるしな」


「ええ、今夜はゆっくり休みましょう。……皆さんも無理をなさらないように」


シルファは軽く会釈をし、ヤヤたちに微笑みを見せた。

それは先ほどの険悪さが嘘のように穏やかな笑みだった。


「じゃあまたな。今度、うちの定食屋にでもまた来いよ。サービスするからさ」


「マジで!?唐揚げ倍盛りで頼む!」


カイトの勢いある返事にケイが苦笑する。

シルファが呆れたようにため息をつきながらも、二人は連れ立って食堂を後にした。


やがて食堂には、コードXIIIの四人だけが残る。

温かな湯気と、食器のかすかな音。

その静けさを最初に破ったのはカイトだった。


「……すっげーラブラブだったな、あの二人。

くぅぅ~……なんか俺も久しぶりに彼女欲しくなってきた!」


「やめときなさいよ。あんた特定の彼女となんて絶対続かないわよ!」


レインがすかさず突っ込む。


「どうせ一週間で飽きて浮気するでしょ!」


「お前にだけは言われたくない……」


カイトが呆れたように頭をかく。

その瞬間、ユウヒが爆笑した。


「アッハハハ!!もうレインちゃんって本っ当に面白いねぇ~!相変わらずめちゃくちゃだもん」


「わ、笑わないでよユウヒ!真剣に言ってるのよ!!」


「ふふっ、でも、こうやってわいわいしてるの、なんかいいね」


湯呑みを両手で包みながら、ユウヒがふっと目を細める。

その横顔を見て、ヤヤは静かに笑った。


「……本当に見てて飽きない奴らだよ。お前らは」


外では、虫の声と川のせせらぎがかすかに聞こえる。

そんな穏やかな夜が、訓練二日目の終わりを告げていた。

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