表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/53

第38話「最強のアウトロートリガー、紅蓮の銃(ぐれんのつつ)」

レインが医療班に運ばれていく。

静寂が、訓練場を覆っていた。


さっきまでの狂気の嵐が嘘のように、空気は重く冷たい。

誰もが言葉を失い、ただ茜坂シルファの背を見つめていた。

彼女の頬にかかった金の髪が、微かに揺れる。

だが、もうその瞳には狂気の色はなかった。

――ただ、ケイの姿を追う静かな光だけ。


「……次だ。」


天草キョウの声が、静寂を裂くように響いた。


「第二試合、代表を出せ。――コードⅠ、コードXIII。」


その声に、訓練場の空気が再びわずかに動いた。


ケイが一歩前に出る。

背筋は伸び、瞳は凪いだ湖のように静か。


「次は俺だな……行ってくる。」


「はい……頑張ってくださいね♡」


シルファは顔を赤らめ、そう答える。その表情はまるで物語の英雄をみるかのよう。

ケイは彼女の頭を軽く撫で、前へ進む。


同時に、反対側から一人の少年が歩き出す。

コードXIII――月野ヤヤ。


ヤヤは後ろに立つカイトとユウヒに視線を向けた。

表情はいつも通り冷静だが、その声にはわずかな優しさが混じっていた。


「カイト、ユウヒ。……レインの側にいてやってくれ。俺が行く」


「……おう。任せろ。頑張れよ。ヤヤ」


「……ヤヤ君、気をつけてね。」


ヤヤは軽く頷き、ゆっくりとフィールドの中央へ進んだ。

ケイと向かい合う。

青いラインの光が、二人の足元を照らす。


ケイが静かに息を吐いた。

その表情には怒りも焦りもない。

ただ、どこかに滲む“誇り”と“責任”。


「……さっきは、うちの嫁がすまなかった」


ヤヤは少しだけ目を細め、そして小さく笑った。


「いや気にしなくていい……勝負の世界だからな」


ケイもまた、微かに口角を上げる。


「……そう言ってくれると助かる」


二人の間に、短い沈黙が落ちる。

その沈黙の中で、互いの“本能”が相手を測っていた。


やがて、ケイが言葉を続ける。


「聞いたよ。君も《アウトロートリガー》使いなんだってな」


「……ああ。あんたも、なんだろ?」


ケイは口元に笑みを浮かべた。

それは柔らかく見えて――どこか底知れない笑みだった。


「そうだな。たぶん、“最強”のアウトロートリガー使いだと思う」


空気が、わずかに震えた。

ケイの背後に、目には見えぬ“圧”が広がる。

まるで、彼の存在そのものが“起動準備”に入ったようだった。


ヤヤは少しだけ口元を歪めて答える。


「……それは楽しみだ。色々と指導よろしく頼む。先輩」


「ああ。失望させないよう全力でいかせてもらう」


二人の視線が、完全にぶつかる。


その瞬間、訓練場全体の温度が下がった気がした。

空気がきしみ、青のラインが再び脈動を始める。


――《模擬戦 第二試合:コードⅠ vs コードXIII》


天草キョウが右手を上げ、静かに告げる。


「……両者、準備はいいな」


ケイは頷く。

ヤヤもまた、無言で構える。


「――では、第二試合、開始」


電子音が鳴り響く。

床の青が閃光を走らせ、二人の影が伸びる。


そして――

二つの《アウトロートリガー》が、同時に起動するのだった。空気が重く、熱を帯びていく。


ヤヤがゆっくりと右腕を前に出す。

その手の中に、闇の粒子が集まり始めた。

まるで夜の水面が波打つように、黒い波紋が広がり、そこから銃の形が浮かび上がる。


「――出ろ。《蜻蛉のかげろうのつつ》」


闇が凝縮し、輪郭が定まる。

漆黒の銃身には、淡く紫がかった稲光が走った。

それは“影”そのものを象ったような銃――どこまでも冷たく、静かな殺意の形。


一方で、ケイもまた右手を掲げる。

掌の中心に赤い光が集まり、やがて炎の渦となって弾ける。


「――燃えろ。《紅蓮のぐれんのつつ》」


その名を告げた瞬間、空気が一変した。

紅の炎が螺旋を描き、彼の腕にまとわりつく。

現れた血のように真っ赤な銃は、灼熱の金属が生きているかのように脈動していた。

銃身の奥では、マグマのような光がゆらめいている。


互いに一歩も引かず、ただ相手を見据える。


ヤヤが口を開いた。


「……それが、あんたの《アウトロートリガー》か」


ケイは軽く銃口を上に向け、唇の端を上げた。


「炎の《アウトロートリガー》――《紅蓮の銃》って名前だ。そっちは……闇の《アウトロートリガー》だな?」


「そうだ。――《蜻蛉の銃》。」


闇と炎が、音もなく対峙する。

二人の視線が交差した瞬間、フィールド全体の空気が震えた。


――そして、先に動いたのはヤヤだった。


「――行くぞ!一気に勝負を決めてやる!!」


銃口が閃く。

黒い稲妻を帯びた弾丸が、空を裂いた。

その軌道は蛇のようにしなやかで、同時に雷のような速さを持つ。


ヤヤの頭の中で、ひとつのイメージが描かれていた。

“触れたものすべてを焦がす雷”。

その想像を現実に変える――《蜻蛉の銃》の力。


黒い雷を纏った弾丸が一直線にケイを貫こうと迫る。

空間が軋み、訓練場の照明がチカチカと瞬いた。


だが――ケイの瞳は微動だにしない。


「……悪くない。」


低く呟き、紅蓮の銃をわずかに傾けた。

次の瞬間、赤い閃光が閃く。


――ドンッ!!


炎の弾丸フレアバレットが、ヤヤの黒雷弾と正面から衝突。


閃光と爆音。

衝撃波がフィールドを走り抜け、床のラインが一瞬で波打つ。


煙が晴れたとき、二人の間に残っていたのは――ただの熱気だけだった。

ヤヤは思わず息を呑む。


「……俺の弾丸に自分の弾丸を当てて防いだ……だと?……あ、あり得ない。読んでたのか?」


ケイは微笑を崩さず、紅蓮の銃をゆっくりと回した。


「いや?動体視力には自信あるんだ。たまたまさ」


その声音は穏やかだが、確信に満ちていた。

ヤヤの眉がわずかに動く。

ケイの立ち姿――それは炎のように熱く、しかし一切の無駄がない。

ただ一撃で、彼が“只者ではない”と理解できた。


「……たまたま?……嘘だな。本当は百発百中なんだろ?」


「おっ、バレたか。ははっ……そうだな。狙ってたよ。意外と簡単だぜ?」


「天才は嫌いだ。……だがなるほど。やっぱり“最強”の名は、伊達じゃないな」


ヤヤの唇に小さな笑みが浮かぶ。

その瞳の奥に、戦意が灯った。


――この男を本気で倒したい。


そして、戦場に再び火花が散った。

黒い煙が消えるよりも早く、再び銃声が鳴った。


ヤヤの《蜻蛉の銃》が、次の弾を装填する間もなく闇の弾丸を放つ。

ひとつ、またひとつ。

ヤヤのイメージにより性質が異なる弾丸が次々とケイを襲い――だが。


そのすべてが、届く前に焼き潰された。


赤い閃光が走り、ヤヤの弾丸を正確に撃ち抜く。

同時に生じる火花が宙を舞い、訓練場を照らす。


「……っ!」


ヤヤの眉が跳ねた。

反応速度が尋常ではない。

こちらの射撃タイミングを見切るどころか、

“弾道そのもの”を先読みして撃ち落としている。


「闇の弾丸は噂で聞いたことがあるからな。イメージが弾丸に代わる。恐ろしいね」


「くそっ……!」


「だが君のイマジンバレットだっけ?多分当たったら効果を発揮するものが大半なんだろ?当たる前に撃ち落とせば問題ない」


「……普通の人はそんな芸当できないはずだが」


「俺は普通じゃないからな。常識に当てはめないほうがいいぞ」


「たしかにな」


そんな会話をしながらヤヤは次々と撃ち込む。

闇のイマジンバレットが雨のように降り注ぐ。

だが、すべてが赤い閃光に焼かれ、弾け散る。


――まるで紅の炎が闇そのものを拒絶しているかのようだった。


ケイはその嵐の中でも一歩も動かない。

ただ腕を軽く振り、淡々と引き金を引くだけ。

その動作に焦りも、迷いも、余裕すらあった。


そして――ヤヤの動きに隙が出た瞬間、彼がふっと姿を消した。


「っ……!?」


ヤヤの視界から、ケイの姿が掻き消える。

空気が一瞬、熱で歪んだ。


――遅れて、背後に“熱”が走る。


「……後ろか!?」


振り返ったときには、すでに遅かった。


ケイの紅蓮の銃が、至近距離でヤヤの腹部に突きつけられていた。

銃口が、まるで心臓の鼓動と同じリズムで脈打っている。


「――遅い。」


紅の閃光が弾けた。

轟音。

炎が花のように咲き、衝撃がヤヤの身体を吹き飛ばす。


彼の身体は床を転がり、壁際で止まる。

服は焦げ、口元から息が漏れた。


「が……っ、あ……!」


ケイは銃口を下げ、静かに言った。


「……フィールドに助けられたな。本来なら死んでるぞ」


彼の言葉に、ヤヤは苦笑を滲ませる。


「……フィールド……ボスがなんか言ってたな」


「そうだ。この訓練場は特別製だ。攻撃のダメージは肉体じゃなく、精神に変換される。つまり、“痛み”はあるが、“死”はない。安心して燃え尽きろ。」


「……どんな安心のさせ方だよ、それ……」


ヤヤは腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。

足元がふらつきながらも、その瞳はまだ死んでいなかった。


「……それにしてもなんだ……その身体能力は?異常だろ、本当に人間なのか……?」


ケイは軽く紅蓮の銃を掲げ、笑う。


「――この《フレアバレット》の力さ。」


「……フレアバレット?」


「こいつはな。撃てば撃つほど、“熱”が高まる。

威力も、反応も、身体能力も比例して上がっていく。要するに――撃つほど強くなる銃だ。」


ヤヤの瞳がわずかに見開かれる。


「……つまり……無限に撃てば、攻撃力も無限……か。」


ケイは頷くように唇を歪めた。


「ご名答」


その笑みは、どこか狂気を孕んでいた。

炎のように燃え上がり、だが不気味に静か。


ヤヤは奥歯を噛みしめる。


――この男、撃てば撃つほど“怪物”になる。


「……なら、止めてやるよ。その熱が暴走する前にな」


「!!」


ヤヤは自分のこめかみに銃を突き付ける。これからヤヤがしようとすることをケイは直ぐに察する。


「へぇ……トリガーモード、知ってるのか……面白い!!」


それからケイもヤヤと同じ行動にでる。それからケイはヤヤにはっきり伝える、


「ここからお互い本気というわけだ。最高じゃねーか。俺はまだ、半分も燃えてない。いいぜ。第二ラウンドといこうか……!」


紅と黒。第二幕の火蓋が切られる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ