第三十五話 技術学院の設立
故郷の町での技術学院設立計画は、予想以上に大きな反響を呼んだ。
「世界各国から入学希望者が殺到しています」
エルナが入学申込書の山を見せた。
「こんなに?」
「はい。大陸十二ヶ国すべてから応募があります。東大陸からも多数の希望者が」
「定員は何人にしましょう?」
「最初は百人程度が妥当でしょう」
町長が提案した。「宿舎や教室の問題もありますから」
「でも、これだけ希望者がいると、選考が大変ですね」
その時、リリィが面白いアイデアを出した。
「選考試験の課題を『温水洗浄便座の改良案』にしてはどうでしょう?」
「それは…斬新ですね」
「技術への理解度と創造性、両方を測れると思います」
「面白いですね。やってみましょう」
かくして、史上初の「温水洗浄便座改良コンテスト」による入学選考が行われた。
応募作品は実にバラエティ豊かだった。
「砂漠仕様の節水型装置」
「山岳地帯の高地対応型」
「船舶用の揺れに強い設計」
「魔法効率を極限まで高めた超高性能型」
どれも創意工夫に富んでいる。
「採点が困りますね」
「でも、どの作品からも技術への真摯な姿勢が感じられます」
最終的に、百人の合格者が決まった。各国から様々な背景を持つ学生たちが集まった。
学院の開校式では、大陸各国から来賓が参加した。
「ワールド・テクニカル・アカデミーの開校を宣言します」
ウォル=水原が式辞を述べた。
「この学院の目標は、世界を楽園に変える技術者を育成することです」
「技術は人々の生活を豊かにするためにあります。利益や名声のためではなく、人類の幸福のために技術を使える人材を育てたいと思います」
「そして、最も重要なことは」
ウォル=水原は微笑んだ。
「清潔で快適な生活の素晴らしさを、世界中の人々に伝えることです」
会場から大きな拍手が起こった。
授業が始まると、学生たちの熱意は想像以上だった。
「水魔法と機械工学の融合理論」
「効率的な配水システムの設計法」
「各地域の気候に応じた技術調整」
「温水洗浄便座の構造と改良方法」
どの授業も満席で、学生たちは真剣に学んでいた。
特に人気が高かったのは、実習授業だった。
「実際に装置を分解して、構造を理解しましょう」
「次に、各自で改良版を設計してください」
「完成したら、実際に使用してみて効果を確認します」
学生たちは目を輝かせて作業に取り組んだ。
半年後、最初の成果発表会が開かれた。
「極寒地仕様の凍結防止装置を開発しました」
「高温多湿地域での防カビ機能を強化しました」
「船舶用の省スペース設計を実現しました」
どの作品も実用的で、即座に各国から導入したいという依頼が舞い込んだ。
「学生たちの成長が素晴らしいですね」
エクセレント様も視察に来ていた。
「技術者としての基礎だけでなく、人々のニーズを理解する姿勢も身についています」
「教育の成果ですね」
一年後、最初の卒業生たちが世界各国に旅立った。
「私は故郷の村に帰って、井戸の改良に取り組みます」
「僕は商船の設備改善をやりたいです」
「私は新大陸の開拓事業に参加します」
それぞれが明確な目標を持って巣立っていく。
「みんな、世界のどこにいても、清潔で快適な生活の大切さを忘れないでください」
ウォル=水原が送辞を述べた。
「そして、温水洗浄便座の素晴らしさを、一人でも多くの人に伝えてください」
「はい!」
学生たちの元気な返事が響いた。
こうして、ワールド・テクニカル・アカデミーから巣立った技術者たちが、世界各地で活躍を始めた。
「異世界を楽園に変える…着実に実現していますね」
町長が感慨深げに言った。
「はい」
ウォル=水原も満足そうだった。「でも、まだ始まったばかりです。これからもっと多くの人々に、清潔で快適な生活を提供していきたいと思います」
かくして、一人の水道工事職人から始まった小さな夢は、世界規模の教育事業へと発展し、異世界に新たな文明をもたらし続けるのだった。
そして今日も、世界のどこかで新しい温水洗浄便座が設置され、初めてその快適さを体験した人が感動の涙を流しているのである。




