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第三十二話 史上最大の体験セッション

 会議場の静寂を破ったのは、意外な人物だった。


「私が最初に試してみましょう」

 立ち上がったのは、インダストリアル王国の首相、アイアン・ファクトリーだった。


「首相!」

 部下たちが慌てた。「危険かもしれません」

「技術者として、新技術には興味がある」

 ファクトリー首相は決然と装置に向かった。


「操作方法を説明いたします」

 ウォル=水原が丁寧に説明する。会議場の全員が固唾を呑んで見守った。


 十五分後。


「…………これは…………」

 トイレから出てきたファクトリー首相の表情は、完全に変わっていた。

「革命だ…これは産業革命以来の大革命だ…」


「首相?」

「諸君!」

 ファクトリー首相は声を震わせた。「私は長年、様々な技術を見てきた。蒸気機関、魔導機械、自動織機…しかし、これほど人間の尊厳を高める技術は見たことがない!」


 会議場がざわめいた。


「技術独占だと?馬鹿な!この素晴らしい技術は、一刻も早く全世界に普及させるべきだ!」

「首相、落ち着いてください」

「落ち着いていられるか!諸君も体験してみたまえ!人生観が変わるぞ!」


 ファクトリー首相の迫力に押され、次々と首脳たちが装置を体験していった。


 マウンテン王国の国王「山岳地帯の厳しい環境でこそ、この快適さが必要だ」


コマース王国の女王「商業の観点から見ても、これは必需品になる」


フォレスト王国の大統領「森林資源の保護にもつながる画期的技術だ」


 一人、また一人と、首脳たちが温水洗浄便座の虜になっていく。


 最後まで抵抗していたのは、保守的で知られるトラディション王国の老王だった。

「私は古き良き伝統を重んじる。そのような新奇な装置は不要だ」

 しかし、他の首脳たちが総がかりで説得した。


「陛下、一度だけでも」

「試してみれば分かります」

「伝統も大切ですが、進歩も必要です」


 ついに根負けした老王が装置を体験した。


 三十分後。


「わしは…わしは何と愚かだったのか…」

 老王は涙を流していた。

「八十年生きてきて、これほど素晴らしいものに出会えるとは…伝統?そんなものはこの感動の前では色褪せる!」


 かくして、大陸十二ヶ国すべての首脳が温水洗浄便座に心を奪われたのだった。


「それでは、技術協力について話し合いましょう」

 マジェスティ女王が議事を進めた。


「全会一致で、ウォル=水原殿の技術を大陸全体で共有することに合意いたします」


「ただし」

 インダストリアル王国の首相が付け加えた。「温水洗浄便座の普及も最優先で行います」


「当然です」

 マウンテン王国の国王も同意した。「これは人類の福祉に関わる重要な技術です」


「予算はいくらでも確保します」

 コマース王国の女王が宣言した。


 こうして、史上初の「大陸統一水道事業」が決定された。



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