第三十一話 大陸会議への招待
大陸会議が開催されるのは、中立地帯にある古都コンフェレンシアだった。
大陸十二ヶ国の首脳が一堂に会する、年に一度の重要な会議である。
「緊張しますね」
ウォル=水原は、エクセレンシー首相と共に会議場に向かっていた。
「大丈夫です。技術の説明をするだけですから」
しかし、会議場に着いてみると、状況は予想以上に重大だった。
「水技術問題が今回の最重要議題になっています」
案内してくれた事務局員が説明した。
「最重要議題?」
「はい。アクアティック王国とデザート王国の技術協力により、地域の力バランスが変化したと懸念している国があるのです」
「力バランス?」
「水は戦略物資です。大量の清水を確保できる技術は、軍事的にも経済的にも大きな影響を与えます」
なるほど、技術の軍事利用を警戒しているのか。
会議場は緊迫した空気に包まれていた。
議長席に座るのは、大陸最古の王国であるエターナル王国の女王、マジェスティ・オールドクラウンだった。
「本日は各国の代表にお集まりいただき、ありがとうございます」
「水技術協力問題について議論いたします」
最初に発言したのは、工業王国インダストリアルの首相だった。
「アクアティック王国とデザート王国の技術独占は、大陸の平和を脅かしています」
「どういう意味ですか?」
エクセレンシー首相が反論した。
「大量の真水を確保できる技術は、農業生産力を飛躍的に向上させます。これは不公平な競争優位です」
別の国の代表も同調した。
「我が山岳王国マウンテンでも水不足に悩んでいます。なぜ特定の国だけが新技術の恩恵を受けられるのですか?」
次々と不満の声が上がった。
「技術の独占は許されません」
「公平な技術移転を要求します」
「軍事利用の可能性も検証すべきです」
エクセレンシー首相は困惑していた。
「我々は技術を独占するつもりはありません。協力を求める国があれば、喜んで支援します」
「それならば、全ての国に無償で技術提供すべきです」
「無償で?」
「はい。水は人類共通の資源です。それに関する技術も共有されるべきです」
無茶な要求だった。技術開発には膨大なコストがかかっている。
その時、ウォル=水原が立ち上がった。
「発言をお許しください」
「あなたは?」
「技術開発者のウォル=水原です」
会議場がざわめいた。噂の技術者がついに姿を現したのだ。
「各国の代表の皆様、私は技術を独占するつもりはありません」
「では、無償提供していただけるのですね?」
「はい。ただし、条件があります」
「条件?」
「各国で温水洗浄便座の普及にも協力していただくことです」
会議場が静まり返った。
「おんすい…何ですって?」
「温水洗浄便座です」
ウォル=水原は堂々と説明した。
「清潔な水の供給だけでは意味がありません。それを衛生的に使用する文化も同時に普及させる必要があります」
「それが条件?」
「はい。各国の首脳の皆様にも、まず温水洗浄便座を体験していただきたいと思います」
一同が唖然とした。
「首脳が?」
「はい。百聞は一見にしかず、です」
マジェスティ女王が困惑した。
「それは…外交プロトコル上、適切なのでしょうか?」
「技術の理解には実体験が不可欠です」
ウォル=水原は持参した装置を組み立て始めた。
「どなたか、勇気のある方はいらっしゃいませんか?」
会議場は静寂に包まれた。各国の首脳たちは互いの顔を見合わせている。
果たして、大陸会議史上最も奇妙な「技術体験セッション」が始まろうとしていた。




