第三十話 砂漠に咲く清潔の花
「温水洗浄便座を普及させる?」
ドライネス大臣が困惑していた。
「はい。清潔な水の供給と、快適な衛生環境はセットです」
ウォル=水原は真剣だった。
「砂漠という厳しい環境だからこそ、衛生管理は重要です」
サンドストーム技師長が興味深そうに尋ねた。
「その温水洗浄便座とは、どのような装置ですか?」
「実際に体験していただくのが一番です」
「体験?」
「はい。アクアマックス所長、例の魔法強化型をお借りできますか?」
「もちろんです」
三十分後。
「これは…これは…」
トイレから出てきたサンドストーム技師長の目には涙が浮かんでいた。
「革命です!これは完全なる革命です!」
「どうでした?」
「砂漠では水が貴重で、満足に体を洗うこともできません。でも、これがあれば…常に清潔でいられる!」
ドライネス大臣が眉をひそめた。
「技師長、たかがトイレ装置で大袈裟な…」
「大臣、ぜひ一度お試しください」
「私は結構です」
しかし、サンドストーム技師長は必死に説得した。
「大臣、これは我が国の衛生問題を根本から解決する可能性があります」
「そんなわけが…」
「お願いします。一度だけでも」
押し切られたドライネス大臣は、渋々トイレに向かった。
二十分後。
「…………」
ドライネス大臣は放心状態で戻ってきた。
「大臣?」
「私は…私は何を反対していたのでしょう…」
「大臣?」
「これは…これは砂漠の民にとって福音です」
またしても温水洗浄便座の威力が発揮されたのだった。
「技術提供を受け入れます」
ドライネス大臣は深々と頭を下げた。「海水淡水化プラントと、温水洗浄便座の両方を、我が国に導入させてください」
「喜んで協力いたします」
エクセレンシー首相も笑顔だった。
「これで両国の関係も改善されますね」
かくして、アクアティック王国とデザート王国の間で、史上初の「水技術協力協定」が締結された。
一ヶ月後、ウォル=水原はデザート王国の首都オアシスポリスにいた。
「こちらが建設予定地です」
案内してくれたのは、すっかり協力的になったサンドストーム技師長だった。
「海岸から五キロ内陸の平地です。ここに淡水化プラントを建設します」
「良い場所ですね。海水の取水も、真水の配送も効率的にできそうです」
建設工事は、両国の技術者が協力して進められた。アクアティック王国の水魔法技術と、デザート王国の砂漠工学技術の融合である。
「砂嵐対策の建築技術は参考になります」
「こちらこそ、水魔法の効率化技術を学ばせていただいています」
国際的な技術交流が活発に行われていた。
そして三ヶ月後、ついに砂漠初の海水淡水化プラントが完成した。
「稼働開始!」
巨大な装置がうなりを上げて動き出す。海水が吸い上げられ、魔法と技術の力で清潔な真水に変わっていく。
「成功です!一日一万リットルの真水を生産できます!」
デザート王国の人々は歓喜した。
「もう水不足で悩まなくて済む!」
「子供たちに清潔な水を飲ませてやれる!」
「商売でも安心して水が使える!」
しかし、真の革命は別のところで起きていた。
「温水洗浄便座の普及率が九割を超えました」
サンドストーム技師長が報告した。
「砂漠の民にとって、これほど歓迎された技術はありません」
「それは良かったです」
「おかげで、感染症の発生率が八割減少しました。医療費も大幅に削減されています」
「経済効果も絶大ですね」
「はい。水関連の病気が減ったことで、労働生産性が向上しました。国全体のGDPが二割増加しています」
ウォル=水原は感慨深く思った。
「異世界を楽園に変える…少しずつ実現していますね」
しかし、彼はまだ知らなかった。この成功が、さらに大きな注目を集めることになることを。
「ウォル殿、緊急の連絡です」
エクセレンシー首相から魔法通信が入った。
「何でしょうか?」
「大陸会議から正式な招待状が届きました」
「大陸会議?」
「各国の首脳が集まる国際会議です。貴殿の技術について説明を求められています」
「私が?」
「はい。どうやら、アクアティック王国とデザート王国の技術協力が大陸全体で話題になっているようです」
ウォル=水原の技術は、ついに大陸レベルで注目されることになった。




