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第二十九話 砂漠の国の事情

 デザート王国の使節団は、予想以上に大規模だった。

 団長は厳格な表情の中年女性で、砂漠の民特有の日焼けした肌をしていた。


「私はデザート王国外務大臣、サンド・ドライネスです」

「アクアティック王国首相のエクセレンシーです。ようこそお越しくださいました」

 しかし、ドライネス大臣の表情は険しいままだった。


「挨拶は後にしましょう。我々は抗議に来たのです」

「抗議とは?」

「海水淡水化技術の開発を即座に中止していただきたい」

「理由を聞かせていただけますか?」

「我が国は水不足で苦しんでいます。貴国がさらに大量の水を確保すれば、地域の水バランスが崩れます」


 エクセレンシー首相が困惑した。

「しかし、海水淡水化は海の水を使うのです。貴国の水源には影響しないのでは?」

「それは表面的な見方です」

 ドライネス大臣は地図を広げた。

「この地域の降水量は限られています。貴国が大量の水を使用すれば、気象パターンが変わり、我が国の少ない雨がさらに減る可能性があります」


 なるほど、と思う一方で、ウォル=水原は疑問を感じた。

「大臣、失礼ですが、デザート王国の現在の水事情を詳しく教えていただけませんか?」


「あなたは?」

「技術開発者のウォル=水原です」

「技術者が外交問題に口を出すべきではありません」


「でも、技術的な解決策があるかもしれません」 

 ドライネス大臣は不機嫌そうだったが、エクセレンシー首相が仲裁に入った。


「大臣、彼の話を聞いてみませんか?建設的な解決策があるかもしれません」

 渋々、ドライネス大臣が説明を始めた。


「我が国の人口は五十万人。しかし、利用可能な水源は年々減少しています。井戸は枯れ、オアシスも縮小している」

「現在の水供給システムは?」

「水商人が遠方から水を運んでいます。しかし、輸送費が高く、庶民は満足に水を使えません」

「水質は?」

「正直、良くありません。病気の原因になることも多いです」


 話を聞いているうちに、ウォル=水原はデザート王国の深刻さを理解した。

「それでは、我が国の海水淡水化技術を提供するのはいかがでしょう?」

「何ですって?」

 ドライネス大臣が驚いた。


「デザート王国にも海岸線がありますよね?そこに淡水化プラントを建設すれば、水不足が解決します」

「そんなことが可能なのですか?」

「はい。しかも、アクアティック王国で開発した新技術なら、維持費も安く抑えられます」

 エクセレンシー首相も賛成した。

「それは素晴らしいアイデアですね。技術協力により、両国の問題を同時に解決できます」


 しかし、ドライネス大臣は疑い深そうだった。

「なぜそんなことを?何か裏があるのでは?」

「裏はありません」

 ウォル=水原が答えた。「私の目標は、異世界を楽園に変えることです。どこの国の人でも、清潔な水を使えるべきです」


「綺麗事を…」

「綺麗事ではありません」

 ウォル=水原は立ち上がった。

「実際に見ていただきましょう。デザート王国の技術者の方はいらっしゃいますか?」


「います。副団長の技師長がそうです」

「では、一緒に実験装置を見学してもらえませんか?百聞は一見にしかずです」


 渋々、デザート王国の技師長エンジニア・サンドストームが実験に参加した。


 海水淡水化実験装置は、確かに驚異的な性能を示した。

「一日で一万リットルの真水を生産できます」

「維持費は従来技術の十分の一です」

「しかも、操作は簡単で、特別な技能は不要です」


 サンドストーム技師長は目を見張った。

「これは…本当に実用化できるのですか?」

「はい。既にアクアティック王国では運用が始まっています」

「我が国でも導入できるでしょうか?」

「もちろんです。設計図もすべて提供いたします」


 サンドストーム技師長は興奮していたが、ドライネス大臣はまだ懐疑的だった。


「技術提供の代価は何ですか?」

「代価はありません」

「そんなはずはありません」

「本当です。ただし、一つだけ条件があります」


 「やはり」

 ドライネス大臣が身構えた。


「デザート王国でも、温水洗浄便座を普及させてください」


「は?」

 一同が唖然とした。


「それが条件です」

 ウォル=水原は真顔で言った。


「異世界を楽園に変えるためには、清潔で快適な生活環境が必要です。温水洗浄便座は、その第一歩なのです」


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