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第二十七話 水の王国での挑戦

 アクアティック王国の首都ハイドロポリスは、まさに水の都だった。


 街の中央を大河が流れ、無数の運河が街中に張り巡らされている。建物の多くが水上に浮かび、移動手段も主に船だった。


「美しい街ですね」

 ウォル=水原は感嘆した。しかし同時に、違和感も覚えていた。


「でも、なぜ上水道がないのでしょう?これだけ水が豊富なのに」

 案内してくれたエクセレンシー首相が苦笑いした。

「それが我が国の悩みの種なのです。水は豊富にありますが、すべて魔法で管理されています」

「魔法で?」

「はい。水魔法使いが各家庭に水を配達し、浄化も魔法で行います。しかし…」

「しかし?」

「魔法使いの数が足りないのです。人口が増えすぎて、とても対応しきれません」


 案内されたのは、王国水魔法研究所だった。巨大な建物で、多くの研究者が働いている。


「所長のドクター・アクアマックスです」


 紹介されたのは、長い白髭を蓄えた老魔法使いだった。


「ほう、噂の温水洗浄装置の開発者ですか」

 アクアマックスの目が好奇心で輝いている。

「早速、実物を見せていただけますか?」


 ウォル=水原は持参した装置を組み立てた。王都で改良を重ねた最新モデルである。

「ほう…魔石の使い方が独特ですね」

「はい。効率よりも実用性を重視しています」

「面白い発想だ。我々はつい魔法の純粋性を追求してしまいがちですが、実用性も重要ですね」

 アクアマックスは装置を詳細に調べた後、意外な提案をした。


「この装置を、我が国の水魔法と融合させてみませんか?」

「融合?」

「はい。あなたの実用的な設計思想と、我が国の高度な魔法技術を組み合わせれば、革命的な装置ができるかもしれません」

「ぜひやってみたいです」


 かくして、国際的な共同研究が始まった。

 しかし、研究が始まってすぐに問題が発覚した。


「これは…大変なことになりました」

 研究助手のアクア・アシスタントが青い顔で報告してきた。

「何があったんですか?」

「街の水魔法使いたちが、ストライキを始めました」

「ストライキ?」

「『機械に仕事を奪われる』と言って、水の配達を拒否しているのです」


 王都でも経験した既得権益との対立が、ここでも起きていた。

「街の様子を見に行きましょう」

 外に出ると、街は大混乱していた。


「水が来ない!」

「魔法使いはどこに行った!」

「今日は洗濯ができない!」

 市民の怒りの声があちこちから聞こえてくる。


「これは深刻ですね」

 エクセレンシー首相も困り果てていた。「水魔法使い組合は我が国でも強力な政治勢力です」


そ の時、組合の代表が研究所にやってきた。

「私は水魔法使い組合長、マジック・ウォーターです」

 現れたのは、威厳のある中年の魔法使いだった。

「あなたが例の技術者ですね。我が国に迷惑をかけるのは止めていただきたい」

「迷惑?」

「機械で水を管理するなど、水魔法に対する冒涜です。我々の神聖な仕事を奪おうとするのは許せません」


 ウォル=水原は冷静に答えた。

「私たちは仕事を奪おうとしているのではありません。より多くの人に清潔な水を提供したいだけです」

「それは我々の仕事です!」

「でも、現状では人手不足で対応しきれていないのでは?」


 マジック・ウォーターの顔が赤くなった。

「それは…それは一時的な問題です!」

「なら、協力してはいかがでしょう? 機械で基本的な配水を行い、魔法使いの皆さんはより高度な浄化や品質管理を担当する」

「協力?」

「はい。機械と魔法の融合です。どちらか一方ではなく、両方の良いところを活かすのです」

 

 マジック・ウォーターは困惑していた。王都のような単純な反対論では太刀打ちできない提案だったのだ。

「し、しかし…」


 その時、アクアマックスが口を開いた。

「ウォーター組合長、実はあなたにお見せしたいものがあります」

「何ですか?」

「新しく開発した、魔法強化型温水洗浄装置です」

「魔法強化型?」

「はい。あなたの水魔法と組み合わせて使用すると、従来の十倍の効果が得られます。試してみませんか?」


 またかよ、とウォル=水原は心の中で思った。

 しかし、この戦法の効果は絶大だった。


 十分後。

「これは…これは素晴らしい!」


 トイレから出てきたマジック・ウォーターは、完全に別人になっていた。

「魔法と技術の融合!なぜ今まで気づかなかったのでしょう!」


「では、協力していただけますか?」

「ぜひともお願いします!組合を挙げて協力いたします!」


 かくして、アクアティック王国でも温水洗浄便座の威力が発揮されたのだった。

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