第二十六話 王国を越えた注目
水商人組合の全面協力により、王都の水道工事は驚異的なペースで進んでいた。
「第一区画の配水管敷設、完了しました」
「浄水場の建設も予定より早く進んでいます」
「下水処理施設の基礎工事、順調です」
連日、良い報告が続いていた。そして工事開始から一ヶ月後、ついに第一区画での上水道サービスが開始された。
「蛇口をひねるだけで、清潔な水が出てくる!」
「しかも使い放題!」
「水代が十分の一になった!」
市民の喜びの声があちこちから聞こえてくる。
「子供の病気がぱったり止まりました」
「商売でも安心して水が使えます」
「生活が一変しました」
成功は明らかだった。
しかし、この成功は王都だけに留まらなかった。
「隣国のアクアティック王国から使節団が到着しました」
エクセレント様に報告が入った。
「アクアティック王国?水の魔法で有名な国だな」
「はい。『王都の水道技術を視察したい』とのことです」
現れた使節団の団長は、威厳のある初老の男性だった。
「私はアクアティック王国首相、ウォーターフロー・エクセレンシーです」
「首相自ら?これは恐縮です」
「いえいえ。貴国の水道技術は我が国でも大変な話題になっております」
「話題?」
「我が国は水魔法の先進国ですが、実用的な水道技術となると遅れていました。貴国の『温水洗浄装置』の噂は、国境を越えて広まっています」
ウォル=水原が前に出た。
「温水洗浄装置の開発者です」
「おお!あなたがウォル=水原殿ですか!」
エクセレンシー首相の目が輝いた。
「ぜひとも我が国でも技術指導をお願いしたい。報酬は十分に用意いたします」
「報酬?」
「金貨一万枚と、我が国最高の水魔法の秘術書を」
一同が息を呑んだ。金貨一万枚は、一般人の生涯収入に匹敵する額である。
「それに加えて、我が国の水魔法研究所での共同研究の権利も提供いたします」
アクアが羨ましそうな顔をしている。水魔法使いにとって、アクアティック王国の研究所は憧れの場所だった。
「どうでしょうか?」
しかし、ウォル=水原は即答しなかった。
「少し考えさせてください」
「もちろんです。ごゆっくりお考えください」
使節団が宿舎に戻った後、技術評価委員会では相談が始まった。
「これは絶好のチャンスですね」
アクアが言った。「技術を世界に広められるし、研究環境も向上する」
「金銭面でも申し分ありません」
ヘルスィも賛成だった。
しかし、エクセレント様は慎重だった。
「ウォル=水原、君の気持ちはどうだ?」
「正直、迷っています」
「何を?」
「確かに魅力的な提案です。でも、王都の水道工事はまだ途中です。ここを離れていいのでしょうか?」
「それなら心配無用だ」
突然、ビジネマンが現れた。最近は技術評価委員会の常連になっている。
「王都の工事は我々組合が責任を持って完成させます。設計図も手順もすべて把握していますから」
「でも、技術的な問題が起きたら?」
「その時は連絡すればいい。アクアティック王国なら、魔法通信で瞬時に連絡が取れる」
コマーシャルも賛成した。
「これは王国の外交にも関わる重要な案件です。断る理由はないでしょう」
ウォル=水原は迷っていた。確かに技術を世界に広めることは素晴らしいことだ。しかし、故郷を離れることへの不安もある。
その時、意外な人物が口を開いた。
「ウォル殿」
町長だった。いつの間にか王都まで来ていたのだ。
「町長!なぜここに?」
「君の活躍を聞いて、お祝いに来たのです」
「それで、アクアティック王国の話は?」
町長は笑顔で言った。
「行きなさい。君の技術で、一人でも多くの人を幸せにするのです」
「でも…」
「故郷は逃げません。いつでも帰ってこられます。それより、世界を楽園に変えるという夢を実現するのです」
ウォル=水原の心が決まった。
「分かりました。アクアティック王国に行きます」
かくして、水道革命は国境を越えて広がることになった。




