第二十二話 市民の声
クリーン・ヘルスィの協力を得て、ウォル=水原たちは王都の実態調査に乗り出した。
最初に訪れたのは下層街区の住民たちだった。
「水商人組合から買う水は高いんです」
話してくれたのは、三人の子供を抱えた若い母親だった。
「一日分の水代だけで、パン二個分の値段になります。でも買わないわけにはいかないから…」
「水質はいかがですか?」
「正直、あまり綺麗じゃありません。でも、選択肢がないので」
子供の一人が咳をしていた。水が原因の病気かもしれない。
次に訪れた商店街でも、似たような話を聞いた。
「組合の水は高すぎる。商売に使う水代だけで利益が飛んでしまう」
「井戸を掘ろうと思ったことは?」
「組合の許可が必要なんです。しかも許可料が法外に高い。個人では到底払えません」
アクアが調査データをまとめた。
「ひどい状況ですね。王都市民の七割が水代で家計を圧迫されている」
「病気の発生率も異常に高い」
ヘルスィが追加した。「特に子供の下痢や発熱は、明らかに水質が原因です」
エクセレント様は憤慨していた。
「これは人道的な問題だ。一刻も早く解決しなければ」
しかし、調査が進むにつれて、組合の妨害も激しくなってきた。
「技術評価委員会の連中が、余計なことをしているらしいな」
水商人組合の幹部会議で、ビジネマンが苛立ちを隠さなかった。
「このままでは我々の利益に影響する」
「対策を考えましょう」
別の幹部が提案した。「貴族院に働きかけて、研究を中止させることは可能です」
「それもいいが、もっと直接的な手段もある」
ビジネマンの目が険しく光った。
その日の夜、研究室に異変が起きた。
「大変です!実験装置が破壊されています!」
アクアの叫び声で、ウォル=水原は駆けつけた。研究室は荒らされ、試作していた浄水装置が粉々に壊されていた。
「明らかに何者かの仕業ですね」
「警備はどうなっていたんだ?」。エクセレント様が怒った。
「見張りの兵士が眠らされていました。おそらく睡眠魔法でしょう」
「組合の仕業に間違いありません」。ヘルスィが言った。「彼らは魔法使いも雇っています」
しかし、ウォル=水原は意外にも落ち着いていた。
「幸い、設計図は無事です。装置は作り直せます」
「でも、また破壊される可能性が…」
「なら、破壊されない場所で実験しましょう」
「どこで?」
「市民の家々でです」
ウォル=水原の提案は大胆だった。
「小型の浄水器を各家庭に配って、実際に使ってもらうんです。組合も市民の家一軒一軒を破壊するわけにはいかないでしょう」
「なるほど…民衆の力で組合に対抗するということですね」
「そういうことです。技術は人々のためにある。なら、人々の手で守ってもらいましょう」
翌日から、極秘の家庭用浄水器配布作戦が始まった。最初は十世帯だったが、効果を実感した住民たちの口コミで、希望者は日に日に増えていく。
「水が美味しくなった!」
「子供の体調がよくなった」
「水代が半分以下になった」
喜びの声があちこちから聞こえてきた。
しかし、組合も手をこまねいてはいなかった。
「貴族院緊急議会を招集する」
ビジネマンは最後の手段に出ることにした。政治的圧力で、技術評価委員会そのものを潰すつもりだった。
「ウォル=水原とかいう田舎者の技術など、所詮は子供だましだ。我々の組織的な商業活動の方が、よほど王国のためになる」
政治の世界での最終決戦が迫っていた。果たして、水道革命は実現するのだろうか?




