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『スーパーかぐらや』
駅から歩いて五分という好立地に店を構えたスーパーマーケットで、主婦から仕事帰りの人まで幅広い客層に親しまれている。
ただ利用者に対して圧倒的に敷地面積が狭い。マンションの一階部分を丸々使った店内は、いつも人でごった返している。
客が来すぎるのが問題という今時贅沢な悩みを抱えた店だ。
「いらっしゃいませー!」
有賀太輔はそこの店長だ。
店長になってもう六年、バイトの期間を考えると二十年近くここで働いている。
「ご来店ありがとうございます! 本日は国産若鶏が100グラム98円! 98円! お買い得です!」
店長の仕事内容としては基本的に他の従業員と殆ど変わらない。レジ打ちもするし品出しもするしパック詰めもする。
人手が足りない部分を補う、何でも屋みたいなもんだ。
プラス中間管理職としての仕事や責任がのしかかってくる。とにかく忙しいし人間関係は面倒だし万引きは減らない。
だが太輔はこの仕事に誇りを持っていた。
お客さんと生産者を繋げるなくてはならない仕事だ。
こんなにも色々な人の役に立つ仕事は他に無いのではないかと割と本気で思っている。
万引きは本当に勘弁してほしいけど……。
「ありがとうございました! またよろしくお願いします!」
ふぅと昼の波を超えて太輔は一息つく。
ここから夕方の混雑まで僅かだが休憩がとれる。
今日の昼食はどうしようかと考えていると、
「……」
視界の端にずんぐりむっくりの背中が見える。棚の隙間で隠れてスマホを見ているバイトの関内勇太(23)だ。
関内くんは目を離すとすぐにサボる。何度注意しても悪癖は一向に直らない。
店長として舐められているなーと思う反面、今時の子はすぐ辞めるのであまり強く注意はできない。
「メルシー負けるな! がんばえー!」
関内くんは動画に熱中していて太輔の視線に気付かない。
「……関内くん、君はどうして営業時間中におれの目の前で堂々とサボれるんだ?」
「だって今メルシーが戦ってるんですよ!? ほら!」
関内くんが突きつけるスマホではメルシーが戦っている。
相手はディスランダーの恐ろしい宇宙怪人だ。
画面右上『LIVE』の文字は現在進行形で地球が守られていることを意味している。
「………」
だが太輔は無言で関内くんからスマホを没収する。
興味がないわけじゃないが、結果はわかりきっている。
「ああー……」と悲しむ関内くんに太輔は言う。
「どうせまた彼女が勝つ」