表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/73

プロローグ

 気温21度。湿度51%。天気は晴れ。

 麗らかな小春日和に行き交う人々もどこか気怠げだった。

 そんな平和な日に、突然フッと超大型宇宙船が飛来する。

 雲一つない快晴に不気味なくらい無音で浮かぶ。

 あまりの静けさに人々は気付かないで、いつも通りの日常を過ごしているぐらいだった。

「人類諸君。初めま死ネ」

 宇宙船から聞こえる声にようやく人々は空を見上げる。地面に落ちる巨大な影が雲ではないことに気づく。

 声の主は女性。

 朗々と響く威厳に満ちた声で三流SFみたいな宣言をする。

「我らは侵略国家『ディスランダー』! 低脳な貴様らでもわかるように言うと、宇宙で一番エラいのだッ! 今日から地球はディスランダーが支配する!」

 響き渡る高笑いは緊張感に欠ける。

 見上げる人々も同じで、あまりにも現実離れした光景に呑気な様子だった。

「……すごーい。プロジェクションマッピング?」

「初めま、シネ?」

「……噛んだ?」

 とあっちこっちでクスクスと笑い声が上がる。

「……」

 そのリアクションは彼女が欲しいものと違ったのだろう。

 ダン! と台パンがマイク越しに聞こえる。

「噛んでない! 翻訳機の調子がおかしいだけ!」

 直後宇宙船下方の砲台からレーザーが発射されてサクッと山を削る。

 人々の間に緊張が走る。

 あまりにも気が短くて暴力的。

 癇癪を起こして山を吹き飛ばす。

 流石にそんな独裁者は人類史にはいない。

「良いか人間ども! 今日からこの星は余のものだ! 名誉ある死か奴隷として生き延びるか選ぶが良い!」

 砲台が音と光を放ちながらエネルギーの充填を始める。

 次は威嚇では済まない。

 恐怖に人々は逃げ惑うが、当然逃げられる場所はどこにもない。

「ハッハーッ遅いわ! 死ネエエエエええええッ!!!」

 ようやく人類は理解する。

 彼女は最初から殺すつもりだ。

 轟音と共に極太のレーザーが放たれる。

 光の速度で地表に到達し人類を焼き払う……はずだった。

 だがいつまで経ってもその時は訪れない。

「諦めないで!」

 一人の少女が人々の前に立ちはだかる。

 袖の膨らんだフリフリのドレスを着た少女が、ピンクの長髪をなびかせながら手に持ったステッキでレーザーを受け止めている。

 宇宙人の次は魔法少女……?

 人類は呆然とすることしかできない。

 一瞬華奢な少女の腕が、何倍にも膨れあがったように見える。

 彼女は手に持ったステッキを思いっきり振り抜く。

 カキーン! と胸のすくような快音と共にレーザーが翻る。

「一本足打法……」

 と目撃者は呟くが、彼女が何をやったか定かではない。

 とにかく打ち返したレーザーは宇宙船を直撃する。

「何だッ!? 何が!? ぎゃああああああ!」

 ボカーン! と大爆発とともに音声は途切れる。侵略者を乗せた宇宙船は右に左に蛇行しながら逃げていく。

 ……なにがなんだか、わからない。

 ものの数十分の間に色々なことが起こって、終わった。

 当事者なのに人々は何も理解できない。

 一方少女はクルクルとステッキを振り回す。

 するとキラキラ光る粒子が辺りを包み込み、山が元に戻り転んだ人々の傷が癒える。

 魔法としか思えない光景に人々は尋ねる。

「あなたは一体……」

 少女は決めポーズとともに答える。

「遍く命に感謝を込めて……。カレイド・メルシーッ!」

 ワッと上がる歓声。

 メルシーはビクッと一瞬驚いた後、少し困ったように笑って手を振る。

「こんなポーズ初めてしちゃった……」

 ようやく命を救われたことを理解した人々は「メルシー!」「メルシー!」と暴力的なまでの感謝を彼女にぶつける。

 人々の感謝を一身に浴びながらメルシーは逃げるように空の彼方へ飛んでいく。

 それでもメルシーコールはいつまでも鳴り止まない。

「……メルシー?」

 だが一人このお祭り騒ぎに飲み込まれない男がいた。

 有賀太輔(41)だけは得体の知れない不安に素直に喜ぶことができなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ