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「ルナマーリア!お前というやつは!」
いきなりそう怒鳴りつけてきたのはレイモンド王子だ。
「レイモンド殿下、ごきげんよう」
ルナマーリア達はそういってスカートのすそをもって挨拶しようと思ったのだが、
「そんなくだらないことしなくてもいい!」
そういって手に持っていた本を投げつけてきた。
「っ・・・・」
投げられた本はルナマーリアの肩にあたってしまった。
さすがにルナマーリアは少しうめき声を漏らしたが、さっと扇を広げて顔の半分を隠してそのまま王子に向かい合った。
王子は本が当たってしまったときには少し(しまった)という顔をしていたのだが、ルナマーリアが何事もなかったかのようにこちらに向き合ったため、動揺を隠すために舌打ちを漏らした。
「ちっ、い、痛いなら痛いって言えよ」
「何か御用でしょうか?レイモンド殿下」
レイモンドと対峙するルナマーリアの周囲にはマーガレットたちが静かに立ってこちらをじっと見ている。
「お、お前ら、ララにひどいことを言ったんだってな」
レイモンドの後ろから側近の一人、侯爵家嫡男がそう叫んだ。
「はて?記憶にございませんが?ねえ、皆さま?」
「ええ、ひどいことなど何一ついっておりませんわ」
「嘘をつけ!みんなで寄ってたかってララに意地悪を言ったそうじゃないか」
「しかも誰もララに味方できないように権力まで使ったそうじゃないか、なんて卑怯な」
「かわいそうに、ララは泣いていたんだぞ」
「その扇でいたぶられたからって、ものすごく震えていたぞ!」
ララは自分の都合のいいようにレイモンドたちに泣きついたらしい。
レイモンドたちはそれを丸っと信じてしまっているようで、ルナマーリアたちへの怒りを抑えず文句を言い募るばかり。
「ルナマーリア様とわたくしたちは貴族令嬢としてマナーを守って学園生活を送っていただくようにおはなししただけですわ」
「学園の他の生徒たちからの不満もありましたから、令嬢にふさわしい行動をしていただくためにお声をかけただけです」
マーガレットやエリザベスたちがそう言ったのだが、レイモンドたちは聞く耳を持ち合わせていない。
「これだから貴族令嬢は」
「まったくだ、いつもすました顔ばかりして、内心は腹黒だとか」
「いやになるよな、高位貴族になればなるほどお高くとまってさ」
「それにあの扇、いつでもどこでも持ち歩いてて、厭味ったらしいよな」
「そうそう、あれでララをいじめたらしいじゃん、扇は令嬢の武器です、ってか?」
「そうそう、わたくしたちは完璧な令嬢ですぅ~ってか、見ていて痛いわ」
「ララみたいに自分に素直になればいいのに」
「無理じゃね?山より高いプライドの塊だもんな」
勝手に話をしてゲラゲラと下品に笑っている。
ララと一緒に過ごしていくうちに、堅苦しいマナーや貴族としての振る舞いに反抗したい気持ちにでもなったのだろう。
少し下品な態度を低位貴族や平民に寄り添う俺たち、くらいに思っているようだった。
「とにかく、俺たちの友人関係や交流に口を出さないでくれ」
「迷惑だ」
「お前らとは単なる幼いころからの知り合いってだけだ」
「「「口うるさくするなよ、婚約者でもないくせに」」」
最後のレイモンドたちの一言に、ルナマーリア以外の令嬢たちもバサッと扇を広げ、顔の半分を隠した。
「よくわかりましたわ、殿下、皆さま」
ルナマーリア達はそういって静かに立ち去って行った。
なんの反論もせずに。
それがかえって不気味に感じてしまったが、レイモンドたちはルナマーリア達をやり込めたんだ、と思い込むようにしてララの待つところへと向かった。
その日、ルナマーリアは学園のそばにある公爵家の経営する店に皆を連れて行った。
「皆様、もうわたくしどうしたらいいのかわかりませんわ」
流石にルナマーリアもどうしてよいのかわからず、愚痴を吐きたくなったのだろう。
マーガレットたちもどうしてよいのかわからず、珍しくお茶のカップをじっと見てるだけで何も言えなかった。
「あの、お話ししてもよろしいでしょうか?」
そういったのはルーナリア。
彼女は男爵令嬢。
本来ならこの場に一緒にいることはないはずだ。
入学式の日、ルーナリアは教室が分からず迷っていた。
そこに通りかかったのがルナマーリアだ。
「あの、教室が分からないんですけど、助けてもらえます?」
などといきなり声をかけたのだ。
ルーナリアもララと同じように田舎から出てきて学園に入学した。
まさかルナマーリアが公爵令嬢だとは知らずに声をかけてしまったのだ。
ルナマーリアの侍女は驚き、ルーナリアの袖をそっとつかんで廊下の端に連れて行き、公爵令嬢にいきなり声をかけてはいけないことを教えたのだった。
ルーナリアは真っ青になって謝ったのだが、入学式の初日でもあり、しかも名前がよく似ていることからルナマーリアが興味を持ってくれたことから仲良くなっていった。
もちろん、ルーナリアが間違ったマナーをすれば注意をされるが、彼女はそれをしっかりと覚えて同じ間違いを繰り返さないように頑張った。
ルナマーリア達もどちらかというと平民に近いルーナリアの感覚に興味を持ち、さらにルーナリアの謙虚さや素直さに段々と打ち解けていったのだ。
精神的に疲れていたルナマーリア達はララと同じ身分だがきちんとしているルーナリアにも話を聞こうと思い、店に一緒に来てもらっていたのだった。
「あの、ルナマーリア様たち、一度令嬢をやめてみてはどうでしょうか?」
「「「「え?」」」」
「ルーナリア様、お話の意味が分かりませんわ」
「ですから・・・」
ルーナリアの提案は、王子達が貴族令嬢というだけで勝手に悪口を言うならば、ルナマーリア達が本当はどんな女性なのかを知ってもらえばいい。
そのためには、令嬢のマナーなどは少し忘れて、多少羽目を外してみたらいい、というものだった。
ルーナリアとしては、ルナマーリア達が一方的に悪口を言われたことに腹が立ち、仲良くなって時々見せる彼女たちの素の素敵さを見せつけてやりたいと思っただけなのだが。
「面白そうね」
そういってルナマーリア達は令嬢を休むということはどういうことになるかを楽しそうに話し合い始めた。
「勝手にやってしまっては精神を病んでしまったかと家族も心配されるでしょうし」
「そうね、家族にきちんと許可を得てからやらなければ、あの方たちと同じになってしまうわね」
「そうなるとわたくしの両親は今領地ですから手紙を書かなければ」
「王家の許可も欲しいところですわね」
着々と話を進めていく様子をぽかんと眺めていたルーナリアに、
「令嬢お休み中はルーナリア様に先生としていろいろご教授していただくわね」
そういってルナマーリアがニコッと微笑んだ。
え?と思ったルーナリアだったが、あの王子達がルナマーリア達の真の魅力に気が付いて悔しがればいい、最後はざまあみろと言ってやりたい!そう心に誓い、
「皆様を完璧な お休み令嬢 にして差し上げますわ」
そういって握りこぶしを作って見せた。