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「じゃ」
と言って立ち去ろうとするルナマーリア達に
「ま、待ってルナマーリア嬢」
レイモンドが震える声で引き留めた。
振り向いたルナマーリア達の表情はうんざり、と書かれていた。
「あ、あの時のことはすまなかった。
君を傷つけるつもりはなかったんだ。
ずっと僕の事を思っていてくれた君に僕はなんてことを・・・」
「はあ?」
(なんか急に僕になってるけど)
(君って呼びだしたぞ)
(あれって自分に酔いしれてるんだよな)
(キモ)
「そんな君に対して僕は・・僕は・・・」
「レイモンド!君の気持ちはルナマーリア嬢にも届いてるさ」
「そうだよな、リーリア嬢」
「エリザベス嬢もそう思うだろう?」
「マーガレット嬢、俺も同じ気持ちだよ」
(えー、なんか増殖してる?)
(どうしよう、だれか止めて~)
(寒いよ~寒いよ~)
「ルナマーリア=ホーライ公爵令嬢、ずいぶんと遠回りをしてしまってね、僕たちは」
そういってレイモンドはさっと両手を広げた。
「ずいぶんと待たせてしまった。
さあ、照れずに僕の胸に飛び込んでおいで
これから二人で幸せになろう」
(うっわ~、決まった!ってドヤ顔してるぅ)
(わ、仲間たちもそれぞれ告白しはじめたぞ)
(や~め~て~~~寒い~~)
レイモンドたちはルナマーリア達が飛び込んでくるのを今か今かと待っていたが、いつまでたっても動く気配がない。
それどころか周囲の視線も冷ややかであることにようやく気が付き始めた。
「あ、あれ?」
「ちょ、なんで」
「みんなこっち見てるけど・・・視線冷たくない?」
「ね」
「ルナ、だいじょうぶか?」
そういってかけよってきた男性を見てレイモンドたちは驚いた。
「おおおお叔父上!?」
「今愛称で呼んでなかったか?」
「どういうことだ?」
「き、きっと皆が今愛称するのが流行ってるんだよ」
「そうだって、さっきリーリア嬢たちもそうだったじゃないか」
そんな混乱中のレイモンドの前でルナマーリアとミーセン公爵は話を続けている。
「そんなに慌ててこなくても大丈夫よ」
「いや、ルナが心配で」
「相変わらずルナが一番で素敵ね」
「愛されてるわね、ルナ」
「いつまでも恋人同士みたいね、うらやましいわ」
「やだ、みんなしてからかわないで!恥ずかしいじゃない」
ルナマーリアはそういって顔を赤くした。
「そんなかわいい顔を皆に見せないで、ルナ」
ミーセン公爵はそういって皆から隠すようにルナを抱きしめている。
(はぁ~ルナ様とアレス様素敵~)
(眼福、眼福)
(絶対見られない貴重な場面だ~)
(『お休み』に感謝~~)
「ちょちょちょ、ちょっと叔父上!!!何してるんですか!人前で!
彼女を離してください」
レイモンドがそういってミーセン公爵に手を伸ばすと、バシッとその手を振り落とされた。
「!!」
いつのまにかレイモンドたちの前に数名が立ちふさがっていた。
「お、お前たちは」
彼らの顔に見覚えがあったレイモンドたちは驚いた。
「お久しぶりですね、兄上」
「ああ、いとこ殿、息災で何より」
「元気そうでよかったよ」
レイモンドの側近候補として一緒にいた令息たちの弟や従弟などがいたのだ。
「なんでお前が?」
「ああ、お前が跡継ぎから外れたからな、今は俺が跡継ぎだから、かな?」
「え?」
「自分もだ」
「ちなみに俺たちは王太子殿下の側近だ」
「王太子・・・」
「側近・・・」
「あの・・・王太子って誰?・・・」
ぽつり、とつぶやいたその疑問は何故か周囲によく響いた。
「まさか、本当に知らないの?」
「ありえないわ」
「もしかして、まだ自分たちが返り咲けると思っていた、とか?」
「まさか、いくら何でも花畑じゃすまないぞ」
「元王族とその側近候補だったのに知らないってやば」
ざわつく周囲の状況に、おろおろとするだけのレイモンドたち。
「あ、あの叔父上、王太子って」
ようやくレイモンドが勇気を振り絞ってミーセン公爵に声をかけた。
ルナマーリアを抱きしめたまま、ミーセン公爵は顔だけレイモンドの方に向けて
「ああ、王太子は私だ」
そういった。
「な、なんで叔父上が?それにルナマーリアは私の「ルナは私の婚約者で王太子妃だ」」
「ちなみにエリザベス嬢は自分の婚約者だから」
側近の一人がエリザベスの横に立ち、彼女の腰に手を添えた。
「リーリア嬢は俺の婚約者だ」
彼もリーリアの横に立ち、彼女の肩を抱き寄せた。
「メグは「わたくしは彼の婚約者よ」」
マーガレットだけは自分で言いたかったらしく、婚約者の彼はそんな彼女を微笑ましく見ながら頭をなでている。
(はぁ~次代の皆さまのこんな姿、絶対もう2度とみられないわ~)
(なんて幸せオーラ満開なの)
(幸せな気分~)
(まぶしい、まぶしいわ)
((((『お休み』ばんざ~い))))
どん底に落ちたレイモンドたちなどまったく眼中になく、周囲は『お休み』中だから見られる婚約者同士の姿に盛り上がるのだった。