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「レイモンド様」
「ああ、どうした?」
「農作物の成長度合いが今一つで」
「今年もか・・・」
「いろいろと試行錯誤しているのですが」
レイモンドは海沿いにある小さな領地を治めている。
肩書は伯爵だ。
元側近候補たちも近くの領地を治めている。
どこも似たり寄ったりで貧しい土地ばかりだ。
もともとはとある侯爵が治めていた土地だったが、塩害がひどい上に当主が連続して無能なぜいたく好きだったことが災いし、没落して王家に返上されたのだった。
「なんで王族である私がこんなところにいなければならないんだ」
「本来ならもっと豊かな公爵領を治めて・・・」
「もっと自分の才能を発揮できるところにいたはず・・・」
などと愚痴り合うのが目下の習慣だ。
レイモンドたちは騎士団見習を経て、なんとか貴族としての地位には残ることができた。
決定的なことをしでかしたわけでもない、だが、このままその所業を許すことはできない。
貴族の「お休み」期間を騎士団見習としてはなんとか及第点がもらえる程度には頑張ってはいた。
それが認められた。
そして、レイモンドたちには婚約者はいない。
貴族に戻ったとはいえ、やらかしたレイモンドたちに嫁がせても何のメリットもないのだから、名乗りを上げる女性がいるわけないのだから当然だ。
領地の塩害も改善できず、貧乏な生活を余儀なくされている日々だ。
そんな中、王都で学園の100年祭が行われることになった、と案内が来た。
学園を卒業した全員に案内が配られているらしく、レイモンドたちの所にも届いた。
当然だが卒業生が全員集合すると学園には入りきらなくなるため、創立祭は半月程続けて行われる。
レイモンドたちは10日ほど王都に滞在するつもりで準備をしていた。
王都では宿に宿泊するような予算はなかったため、それぞれの親に何度も頼み込み、なんとか王都の外れにあるタウンハウス(解体予定)を借り受けることができた。
もちろん賃料は貸付として返済計画が決められている。
それでもレイモンドたちは王都に来たかったのだ。
自分たちの華やかで楽しかったころの思い出をもう一度味わえると信じていた。
そして
「彼女たちも来るよな」
「多分」
「いろいろイベントもあるみたいですしね」
「あれから婚約したとか聞いてないよな」
「実家からも何も聞いてませんね」
「と、いうことは?」
「そういうことですかね」
「だったらちょっと格好つけていかないとな」
なんだか勘違いが起こっているようだった。
「・・?」
「ルナ様?」
「いえ、なんだか嫌な気配を感じてしまって・・・」
「まあ、大丈夫ですか?」
「お身体つらいようでしたら侍医を呼びましょうか?」
「大丈夫よ、何か勘違いしたような気配を感じたような気がして」
「あら、それは怖いですわね」
「気のせいだと思うわ、もう大丈夫よ。
そんなことより創立祭の催しについてだけど」
「ええ、確認事項はこちらにございますわ」
「各年代で学園から依頼がありますものね」
「皆さまがお手伝いを申し出てくださって本当に助かるわ」
「久々にルナ様と一緒にお仕事ができてうれしいですわ」
「わたくしも」「わたくしも」
「実はほかの年代の方々の催しも楽しみですの」
「あら、わたくしもよ」
「あの、ルナ様、彼らも|来るという情報が・・・」
「ええ、王家からも各家からも連絡は受けているわ」
「それで、大丈夫だとは思うのですが、アレを準備しておかないかと思いまして」
「アレ、ね」
「アレ、ですわね」
「うふふ、準備しておくのもいいかもしれないわね」
ルナマーリア達はそういってアレの準備をする計画を楽しそうにし始めた。




