17
その後の王子達は王宮の一角、騎士団見習の寄宿舎に入れられた。
自分たちの身の回りの事は当然だが自分たちでしなければならない。
それに加え、自分たちの食い扶持を稼ぐために騎士団の宿舎の掃除、洗濯、食事の用意などをして稼がねばならなかった。
働かざる者食うべからず である。
貴族を『お休み』中な王子達は平民として扱われており、貴族としての生活を懐かしく思い出しているのだった。
「毎日清潔な水が用意されていて・・・」
「朝から湯気の立つおいしいお茶を飲みながら・・・」
「きれいでふかふかの布団に風呂上がりのさっぱりした体を投げだしたい・・・」
「馬車に揺られながら学園でゆったりとした時間・・・」
「「「「あぁあ『お休み』をやめたい~」」」」
そういっているらしい。
だが彼らはまだ仲間がいるだけましなのだ。
腐っても王子と高位貴族。
今後の処遇はわからないが、いずれは貴族の一員として生き延びることができるはずだ。
今後の彼らの態度次第だろうが。
勝手に街に王子達を連れ出したララはというと、あれから学園には来ていない。
当然だが退学処分にされていた。
ついていった王子達も悪いが、何よりも貴族のルールをまったく学ばず、だれの注意も聞かず自分勝手にしていたララを擁護するものは誰もいなかった。
あの日、スラム街から強制連行されてタウンハウスに連れ戻されたたララは、
「どうしてよ~~~~~~。
レイ達をスラムで楽しませたら何か買ってもらうつもりだったのに~」
プリプリしながら部屋のものに当たり散らしていた。
「お嬢様、旦那様がお呼びです、急いでいらしてください」
伯爵家の家令がそういって嫌がるララを連れて行った。
男爵家のごり押しでタウンハウスを貸すことにしたとはいえ、伯爵家にも面子がある。
学園に入る前にララと面会をした伯爵夫妻はそのまま学園に入学させるわけにはいかないと家庭教師をつけ、学園へは編入という形をとるくらい常識を持っている人物だ。
勉強嫌いで怠け者のララにとっては厳しい伯爵夫妻は苦手だ。
そんな人物の呼び出しなんて行きたくないに決まっている。
いやだいやだと暴れるララだったが、結局伯爵たちの前に連れ出された。
「なんてことをしてくれたんだ」
「わたくしは貴女にいいましたわよね?
学園では勝手なことをしないように、と」
「勝手なことなんてしてないわ。
庶民の生活を知りたいっていうから案内してあげただけだもん」
「貴女は庶民の生活なんて知らないでしょう。
それに、王都に来てまだ1年にも満たないのに何を案内できるというの?」
「よりにもよって隔離中のスラム街に連れていくとは・・・。
使用人ですら近寄らないように通達が出ていただろう!
ちゃんと朝ミーティングで話があっただろうが!!
あれほど朝ミーティングは貴族として大事な情報だからと言っておいただろうが!!!」
伯爵夫妻はララが貴族として生活していくうえで必要な情報を毎朝伝達させるようにしていたのだが、ララは聞き流していたらしい。
顔だけは神妙にして見せていたのだろう・・・。
「フェンダー男爵が来るまで伯爵邸の北の部屋にいなさい」
「え?パパが来るの?なんで?」
「こんな問題を起こしたのだ、呼んで当たり前だ」
「タウンハウスじゃなくて伯爵邸に住むの?そこから学園に行くのね?
タウンハウスよりちょっと遠くなるじゃない、ま、我慢するか」
ララのそんなつぶやきに伯爵夫妻はため息を漏らした。
伯爵家の使用人たちも伯爵夫妻を気の毒そうに見ていた。
当然だがララは学園に行くことはなかった。
「なんで?どうしてよ??」
ララは毎朝そういって部屋から飛び出そうとしたが、メイド長直々に見張られることになり、男爵が到着するまで数日軟禁されることになったのだった。




