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 「母上、聞いてくださいよ」

そういってまたルナマーリア達に会えなかった愚痴をこぼそうとやってきた側近の一人、侯爵家の嫡男は母親の部屋にずかずかと入って行った。

「母上」

だが、呼びかけられた母親は息子の方を見向きもしない。

当然だが声をかえすこともなかった。

「あのぅ、母上?」

「・・・」

何度声をかけても返事がない。

そばにいた侍女や侍従たちに声をかけるが、

「奥様は『お休み』中でございます」

「へ?『お休み』??」

またしても『お休み』に困惑顔の公爵家嫡男は、そのまま部屋から追い出されてしまった。

頭をひねりながら父親の執務室に行くと、取次に出てきた家令から

「旦那様は『お休み』中でございます」

と、またしても『お休み』。

茫然として立ち尽くす彼は執事に連れられて部屋へと戻らされていった。

この現象は側近たちの家庭すべてで起こっており、もちろん王家も同じであった。


「だいぶまいっているみたいですな」

「愚息は家令の後をつけまわっているみたいでしてな、家令も『お休み』したいとこぼしておりましたよ」

「ははは、我が家も上の息子にしつこく聞きまわってるみたいでしてな、【それが分からないから『お休み』されているんだろう?】なんて返されておりましたわ。

上の息子も『お休み』しようかな、なんてぼやいておりました」

「あはは」「それは気の毒に」

「どこの息子も同じだな、レイモンドも最近は警護の騎士にまで『お休み』の意味を教えてくれと詰め寄っているらしい、迷惑な話だ」

「陛下、そろそろ集まり始めましょうか?」

「そうだな、周囲に迷惑をかけ続けることもできんしな、頃合いか」

「では準備に入りましょう」


「時期が来たそうですわね」

「ええ、陛下からもこちらも準備をするようにと言われておりますわ。

皆さまそれぞれ準備していただける?」

「「「「かしこまりました」」」」

「まずは娘に話をしなければいけませんわね」

「まあ、それでは我が家でお茶会をしましょう。

皆で話した方が齟齬も出ないでしょうし、その方が楽しそうですしね」

侯爵夫人の提案に他の夫人たちも賛成した。

側近たちの母親たちももちろん参加だ。


その後、侯爵家から正式に招待状が届き、『お休み』中の令嬢たちとその母親、側近たちの母親が集まった。

天気も良く、侯爵家自慢の庭園を見ながらのお茶会は盛り上がった。

「『お休み』中のあなた達ってなんだか新鮮ね」

「本当にね、まあでも幼い頃はそんな感じだったかもって思いだしませんこと?」

「ああ、そうですわね、そう言われれば・・・」

「懐かしいわね」

「本当に・・・あれから頑張って淑女教育もマスターして、本当に素晴らしい淑女になられたというのに・・・我が息子ときたら!」

側近の母親は手にしたハンカチをぎゅうぎゅうと引っ張っている。

「本当ですわ、もちろん今のような素の表情もかわいらしいですが、幼い頃から教育を頑張って背筋を伸ばしている姿も本当に素晴らしくて・・・なのに、あの愚か者ときたら・・・」

普段は決してならないはずのカップがカタカタと音を鳴らしている。

「心中お察しいたしますわ」

そういって周囲の夫人たちはそっと彼女の肩に手を置いたり、ハンカチをそっと渡したりしていた。


「もうすぐこの『お休み』も終わっちゃうのね」

「なんだかもったいなくなってきたわね」

「うふふ、じゃあこのまま『お休み』しとく?」

「それもいいんだけどね、でもやっぱりね」

「うん、わたくしは母上のようになりたいのよね」

「わたくしは王妃様に憧れてるの」

「わたしも」

「あんなに勉強もしたんだものね」

「ずっと幼いままではいられないもの」

「ね」

「でも時々は『お休み』しましょうね」

ルナマーリアがそういってようやくできるようになったウィンクをすると、みんながわあっと嬉しそうに手をたたき合った。


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