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「うぅ、全然ルナマーリア嬢たちと会話もできん」
「なんでだ?」
「会いたくない時は向こうが近寄ってきたのにな」
「声をかけようとすると何故か学園の生徒たちが湧いてくるんだもんな」
「近寄ろうとしても近寄れない、どういうことだ」
王子達は悩んでいた。
「そうだ!定例のお茶会にならくるんじゃないか?」
「あ、その手があったな」
「俺たちが参加してない日もちゃんと開催されてたらしいしな」
「え~っと次の開催場所は、と」
「いい、王宮でやる」
「え、いいんですか?」
「ああ、久しぶりのお茶会だからな。
ちょっと珍しいお茶を手配しよう」
「いいですね、きっと喜びますよ」
「久しぶりのお茶会だし、皆きっと着飾ってきますよ」
「そうだな、ちょっと大げさに誉めてやろう」
「そうだな」
(え~、絶対喜ばないと思う)
(ね、今更よね)
周囲にいた使用人たちはルナマーリア達が迷惑がるだろうな、と思っていた。
もちろん表情には出さないが。
ところが、
「え?断られた?」
「はい」
「どういうことだ?」
「お茶会の招待状をお届けに行ったのですが、『お休み』中なのでお断りすると」
「『お休み』?ってなんだ?」
「体調が悪いってことか?」
「いいえ、ちょうど出かけられてるところだったようで、お元気そうでいらっしゃいました。
私にもちゃんとお声をかけてくださいましたので、ルナマーリア公爵令嬢様で間違いございません」
当然だが、マーガレット達からもお断りされてしまい、王子達は混乱を深めている。
「喜んで来るんじゃなかったのか?」
「なんで全員断るんだよ」
「『お休み』って何なんだよ?」
「病気じゃないらしいが・・・」
「王族からのお誘いを断るだなんて、貴族令嬢としてあり得ないだろう。
それを快諾している公爵達も何を考えているんだ!」
「あ、そういえば、今日は定例会議じゃなかったか?」
「お、そうだな、公爵達も来ているはずだ」
「皆で抗議しに行くか」
「「「いいな」」」
王子達はぞろぞろと会議の行われている場所へと向かっていくと、ちょうど会議の休憩時間だったらしく、公爵達が歓談しているところに出くわした。
「ホーライ公爵!ちょうどよかった」
「ドドル辺境伯、タリーズ伯爵、コメダス子爵も、ちょっと伺いたいことがありました」
「ほう、殿下たちが我々に?」
「何用ですかな?」
「あいにくと次の会議まであまり時間がありませんでな、手短にしていただけるとありがたい」
「ああ、すまない、その、貴殿たちの娘の事なのだが」
「ルナマーリアが何か?」
「いや、定例のお茶会に招待したのだが断られてしまって・・・」
「ほう、それで?」
「え?あ、使いに行った侍従の話だと『お休み』中だとか」
「そうですな、今娘は『お休み』中ですな」
「だが、元気そうだったと。病気でもないのに『お休み』とは?」
恐る恐る王子が訊ねると、公爵はワハハ、と笑ってこう言った。
「『お休み』は『お休み』です、それ以上でもそれ以外でもないだけの事です」
「そうそう、うちの娘も『お休み』ですからお茶会には不参加ですぞ」
「うちもですな」
「我が家も」
「あの、公爵?」
「ですからその『お休み』とは?」
「言葉そのままですよ」
「公爵、そろそろ時間です」
コメダス子爵がそういって懐中時計を確認すると
「おお、すまない、殿下、それではこれで」
そういって会議室の方へ歩き始めた。
「あ、ちょっと」
そういって引き留めようとした王子の肩を辺境伯がそっとつかんだ。
「殿下、我々は会議がありますので、これ以上は困りますぞ」
「だが」
「それに側近の君たちもぼんやりしておらずにしっかりと考えるがいい」
「そうそう、『お休み』の意味をな」
辺境伯たちはそういって公爵の後に続いた。
残された王子達はそれをじっと見送るしかなかった。
「ふっふっふ、殿下たちのあの様子」
「面白いくらい困惑しておりますな」
「まったく、うちの娘を無下に扱うからです」
「同感です、もっと悩めばよろしい」
公爵達はそういって笑いあうのだった。




