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白翼のハルピュイア  作者: 依空 まつり
二章 新人教師と見習い魔術師達の日々
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【幕間】ポッポーダンス

 あぁ、やだやだ靴は汚れるし、〈水晶鋲〉にもヒビが入ってるし気分最悪ぅ〜……とボヤキながら、森を歩く一人の男の姿があった。

 何もない森には不釣り合いな、華やかな服。手入れの行き届いた艶やかな金髪に白い肌の美貌の男──〈水晶領域〉を出てきた上位種の魔物ジルは、帰る帰るとボヤキつつ、結局はジャックと共に行けるところまで南下していた。

〈水晶鋲〉を刺した魔獣が、どの程度動けるか見てみたかったし、いざとなったら夜になるのを待って、飛んで帰れば良い。

 なにより、久しぶりに〈水晶領域〉を離れたのだ。できることなら、人間の一人ぐらいは攫って血を吸いたい。若くて美しい生娘だとなお良い。ついでにジルの容姿に見惚れて、うっとりしながら愛の歌を捧げてくれたりしたら最高だ。

 ところが、なかなか人間が見つからない。人里離れた森なのだから、当然と言えば当然だった。


(ジャック坊やは、人間見つけられたかな〜…………あら?)


 テクテクと歩いていたジルは、木々の向こう側に人影を見つけて足を止めた。

 人間だ。ローブを着た、三、四十歳ほどの男──ということは、〈楔の塔〉の魔術師だろうか。

 男は両手を天に掲げ、何やら叫んでいた。


「ポッポポッポポー! ポッポポッポポー!」


 必死の形相だった。


「ポッポポッポポー! ポッポポッポポー!」


 何あれ怖い、と魔物のジルは、人間の男にドン引きした。

 男はしばらく奇声をあげ続けていたが、やがて拳を握りしめ、「くぅっ……」と口惜しげな声を漏らす。

 その顔には、深い葛藤が滲んでいた。


「やるしかないか……ポッポーダンスを……」


(ポッポーダンス?)


 ジルは少しだけ興味を惹かれた。

 彼は歌や踊り、或いは絵画などの人間が生み出す芸術に目がないのだ。特に優雅で美しい作品をジルは好む。

 人間の男は苦渋の決意に満ちた顔でローブの裾を翻し、バッと片手を体の横に持ち上げる。

 そして、それなりに低く渋い良い声で歌いだした。


「アーユーレディー? (ポッポー!)


 ポッポ、ポッポッポポ(HEY!)

 ポッポ、ポッポポポポ(HEY!)」


 男はまるで前方に観客がいるかのように、持ち上げた指で自身の前方や左右を指さす。

 そしてリズムに合わせて体を揺らし、左右にステップを踏み始めた。


「ンッポンッポ、ポッポポー

 ンッポンッポ、ポッポポー


 ポッポ、ポッポッポポ?(OK!)

 ポッポ、ポッポポポ?(YEAH!)」


 ポッポポッポ鳴きながら、男がその場でターンを決める。

 輝く汗が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いた。


「ポッポロッ、ポッポ、ポポポポー

 ポルルッポッポ、ポッポポー


 ポッポー?(HEY!)

 ポッポー?(OK!)


 ポ〜〜〜〜〜〜〜〜……ウー、ワァーーーーオ!」


 男は天を仰いで「ウー、ワーオ」をし、ハァハァと荒い息を吐きながら前方を見据えた。

 そうして指を二本立てた右手を、額の辺りに持ち上げる。


「……センキュー、ポッポー」


 そこに空から鳩が一羽舞い降りて、男の頭にちょこんととまる。男が「三号〜〜〜!」と謎の奇声をあげた。

 ジルは虚ろな目で、自分がやって来た北の方角を眺める。

〈水晶領域〉を出て最初に出会う人間は、若くて美しい娘が良いと思った。

 ジルの容姿に見惚れてうっとりしながら、愛の歌を捧げてくれたらもう最高! ……と思っていたところでの、ポッポーダンスである。


(…………帰ろ)


 ポッポーダンスにやる気を削がれた魔物は、フラフラと来た道を引き返した。

帝国は英語圏イメージではないのですが、歌詞は英語っぽい何かの方が温度感が伝わりやすいかと思い、アーユーレディーしています。ご容赦ください。

なお、()内の合いの手も、〈煙狐〉が自分で歌っています。

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