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白翼のハルピュイア  作者: 依空 まつり
四章 空を飛ぶ
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【29】ハルピュイアもドン引き


 レンは魔法戦のルールを聞いて即座に、堅実な守備方法に気づいたのだという。


「ピヨ……それって、どんな方法?」


 訊ねるティアに、レンが眼鏡をクイと持ち上げて言う。


「こっちは人数いるだろ? だから、デカくて軽い盾を沢山用意すんの。それだけ」


 これに疑問の声をあげたのはセビルだ。

 セビルは眉をひそめて考えこむような顔で呟く。


「大きくて軽い盾? 鉄の盾ではなく、か?」


「そう。でっかい木の板に持ち手をつけたようなモンでいいの。大事なのは強度じゃなくて、面積と軽さ──だって、魔法戦って物理無効じゃん。なら盾の強度は関係ないだろ?」


 なるほど、と一番最初に呟いたのはルキエだ。続いてゲラルトとセビル。

 ユリウス、ロスヴィータ、エラは特に反応しない。この三人は魔法戦に関する知識があるので、レンが考えたのと同じ結論に辿り着いたことがあるのだろう。

 当然に、ティアは分からなかった。

 ティアだけじゃない。フィンとゾフィーもだ。


「ピロロロロ……えぇと……?」


「ううう、ごめん、オイラもよく分かんない……」


「アタシ、魔法戦はよく分かんないんだよぉ」


 更に大人二人もウンウンと頷く。


「ごめんなー、オレもよく分かんないぜ!」


「解説を頼む」


 オリヴァーに素直に解説を求められ、レンは言葉を選ぶような顔をした。

 そこにルキエが立ち上がり、黒板の前に立つ。


「私が答えていい? 自分の考えが合ってるか確認したい。違ったら指摘して」


 そう言ってルキエは、答えを知っているユリウス、ロスヴィータ、エラを見る。

 三人が頷いたのを確認し、ルキエは言葉を続けた。


「魔法戦の結界は、人だけでなく、ある程度周囲の物も保護する性質があるわ。例えば会場の森の木ね。木に火が燃え移ったら大変でしょう? だから、魔法戦では会場の木や岩なんかに隠れながら戦うのが一般的と言われている」


「あ、そっかぁ。アタシ分かった。木も盾も同じなんだよ〜」


 ゾフィーがポンと手を打って声を上げる。

 ルキエは「そう」と頷いた。


「森の木同様に、盾の類も魔法戦用結界で保護されるのよ。しかも物理無効だから盾の強度は関係ない。被弾面積を減らすよう広範囲をカバーできて、持ち運びしやすい盾が理想的」


 ルキエが黒板にチョークで絵を描く。

 集まっている見習い達が、グルリと円陣になって盾を構えている絵だ。

 中心に数人配置して、その者達が上空からの攻撃に備えれば、ほぼ完璧な守りが完成する。

 しかも、防御結界を使わずに、だ。

 魔法戦用の結界が盾を保護してくれるから、こちらはただ盾の陰に隠れていればいい。


「広範囲の雷属性魔術に弱い、風の魔術で体勢崩されたら隙ができる、氷の魔術で地面とくっつけられたら身動きがとれない、っていくつか弱点が思いつくけれど……守備方法としてかなり手堅いのは事実ね」


 そこまで説明して、ルキエはチラリとエラ達を見た。


「……と、レンが思いつくぐらいだから、当然、とっくに知れ渡ってるんでしょ。このルールの抜け道」


 エラがコクリと頷き、談話室の小さめの机に手をついた。


「ヘーゲリヒ室長に確認したところ、魔法戦に持ち込みできる盾は大きさの制限があるそうで……この机ぐらいで一人一つまで、です」


 その大きさだと、掲げても上半身を隠すのが精一杯だろう。

 やはり、そういうルールの抜け道に指導員達は気づいているらしい。

 あー……と残念そうな声をあげるローズとフィンを横目に、オリヴァーが静かに言う。


「盾を持ち込むというアイデア自体は悪くない。被弾面積を減らせるし、防御結界を使えぬ者には心強いだろう」


 ティアも思いつき、元気良く挙手をして発言する。


「ピヨップ! わたしとオリヴァーさんが合体飛行をしながら、盾を装備するのはどうかな?」


「でも、おんぶ飛行方法だと、二人とも手を自由に使えないんだろ? おんぶ紐導入すんの?」


 レンの指摘に、ティアはペタペタと前に進み出て、チョークを借りる。

 そして黒板に絵を描こうとして、ちょっと迷う。上手く描ける自信がなかったのだ。


「ルキエ、ここに人の絵描いて。オリヴァーさんのイメージ!」


「こう?」


 ルキエがカツカツとチョークを鳴らして絵を描く。簡素だが分かりやすい絵だ。


「あのね。盾は一人一個でしょ。だから、わたしの盾と、オリヴァーさんの盾をここに、こう……括りつけて」


 ルキエが描いたオリヴァーの絵──その胸と股間の辺りに、ティアは四角を描き足す。この四角は盾のイメージだ。


「ペフフッ、これならオリヴァーさんが安全!」


 レンの眼鏡がズルリと傾いた。


「お前、美少年の仲間なんだからさぁ、絵面に気を遣えよ。上半身と下半身に盾括りつけたオリヴァーさんがティアをおんぶして飛び回るの、シュールすぎるだろ……」


 レンはヒクヒクと笑いを堪えるみたいに頬を震わせている。

 黒板の前に立つルキエは特に笑うでもなく、真剣にティアの案を検討しているようだった。


「仮におんぶ紐を採用して、オリヴァーの両手が空いたとして……両手に盾を持てば、敵の攻撃を抑え込むことはできるかもね。ダメージにはならないけど」


 現状、オリヴァーとティアに攻撃手段がない。

 なので、ティアとしては、なかなか悪くないアイデアに思えたのだが、レンには不評だ。

 肝心のオリヴァーは、真剣な目で黒板の絵を見ている。それが実戦に通用するか考えているらしい。

 その時、ローズが明るい声を上げた。


「あ、そうだ! こういう時のあれだな!」


「ピヨ? あれってなぁに?」


「防御結界を前方に張って全速力で突っ込む、結界で敵を轢く戦法さ! これなら魔法攻撃に含まれるから、ダメージを与えられるぜ!」


 シーンと教室が静まり返り、そして次の瞬間どよめきに支配された。

 主に「何言ってんだこいつは」というどよめきである。

 真っ先に声をあげたのは、セビルだ。


「ローズ、それは決死の特攻の話か?」


「えっ、いや、普通に攻撃手段にならない……かな?」


 しどろもどろに答えるローズに、魔術に詳しいロスヴィータとユリウスが突っ込む。


「防御結界張って、敵に突っ込むのが攻撃手段? 馬っっっ鹿じゃないの?」


「クク……正気の沙汰とは思えんな。言うほど簡単なことではないぞ? 飛行魔術にしろ、防御結界にしろ、極めて高度な技術がいる」


 続いてエラが遠慮がちに、ルキエは容赦なく言い放つ。


「えぇと、流石にそれは……危険すぎると言いますか……あの、ご冗談ですよね?」


「技術を過信した馬鹿の所業って感じね」


 レンは呆れ顔で、ゲラルトは目元が隠れているけれど、こちらも非難の空気をにじませている。


「無駄に高度な技術を駆使した自爆じゃん。もうちょい、美少年の仲間っぽい戦い方してくれよ」


「それは捨て身の突撃です。断固反対です」


 更にはゾフィーとフィンまでが、若干の恐怖を滲ませてローズを見た。


「うひぃぃ……ローズさん、なんでそんな怖いこと言うのぉ?」


「オイラも、それはちょっと、どうかと思う……」


 非難轟々、ついでに年少二人に怯えられ、ローズは「あれ? ……あれぇ?」とオロオロしている。

 実際に飛行魔術を使う側のティアとオリヴァーは、下にティア、上にオリヴァーと縦に頭を並べて、ローズに詰め寄った。


「あのね、ローズさん。飛行用魔導具で空飛ぶの、すごく難しいんだよ? ドカーンってぶつかるの、痛いし怖いよ?」


「ローズよ、魔法戦では物理攻撃は無効化されるが、木に衝突したり、転落して地面に衝突した時は、こちらがダメージを受けるのだ」


「ペヴッ! ペヴッ! だからね、防御結界を張って突っ込むんなら、こっちに衝撃が来ないように、直前で飛行の制御をしなきゃいけないの」


「うむ。兄者ほど飛行魔術を使いこなし、かつ防御結界を完璧に使いこなしていないと、まず無理だろう。そうでなくば、ただの自殺行為だ」


 高速飛行で体当たりなんて、ハルピュイアでもやらない無謀な凶行である。

 縦に並ぶティアとオリヴァーに真顔で詰め寄られ、ローズはしおしおと萎れるように、椅子の上で大きな体を縮こめた。


「あの……なんか……ごめん……」


結界で敵を轢く戦法は、ハルピュイアもドン引きの危険行為です。

良い子は真似しないでください。

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