妖怪獣ファイターズ
1
「よし、俺の勝ちだ、カードか100円か、どっちにする?」
「・・・くっ!強いカードは惜しい・・・100円だ」
カードゲーム「妖怪獣ファイターズ」。
戦闘力のあるカードと特殊効果カードを並べて
ターンごとに攻撃、相手のライフをゼロにしたら勝ち。
小学生のカドマは、このゲームに熱中してカードを買い集め、
強いデッキを組んで、ほとんど勝つようになった。
ゲームショップのテーブルではもちろん賭け事はできないが、
誰かの家や学校の休み時間では、お金やカードを賭けるようになった。
相手の強いカードを取り上げ、不良を用心棒としてそばに置いて
ゲーム番長として威張り、恨まれるようになった。
大きい高級菓子の箱にびっしりと200枚以上のカードを集めるようになった。
「ヒヒヒヒヒ!」それを見るとカドマは笑いが止まらない。
周りの人間は恨みのこもった冷たい目で見ているのに。
やがてカドマと勝負する者は、どんどん少なくなった。
「ゲームってのは楽しく遊ぶもんだろ、お金かけるとか、
カードを取り上げるとか、ダメだろうが!」
クラス委員に注意され、不良が脅すと教師に密告されて
学校ではゲームができなくなった。
2
雨の日。
カドマはゲームショップで対戦相手を探した。
「よう、妖怪獣ファイターズか、対戦しないか?」
カドマと同じくらいの年齢の小学生が声をかけてきた。
帽子を深くかぶり、上着もズボンも黒一色。
「いいぜ」カドマは答えた。
五勝負ほど行って。カドマの圧勝。
カドマ
「おいおい、君は弱すぎだろ、デッキのカード、
しょぼいのばっかりじゃないか。もうやめようぜ、面白くない」
謎の子供
「ヒヒヒ、じゃあ俺が強けりゃ続けるんだよな」
「でもそのデッキでは無理だろ」
「もう一つ、別のデッキを持ってんだ」
ポケットから出し、テーブルにカードを広げる。
「あっ!」
その中にカドマでも持っていない超レアカードがあった。
「それ、よく手に入ったな」
「ああ、もしそっちが勝ったらあげてもいいぜ」
「本当か!嘘じゃないだろうな?」
「本当だ、神かけて誓うぜ。そのかわり、俺が勝ったら
そっちのカードを3枚もらうってのはどうかな?」
「・・・・」
「くれるのは、君が選んだ、しょぼいカードでいいぜ」
「・・・いいだろう。でも」
「ああ、この超レアカードはバトルには使わない。強すぎるからな」
「では。勝負!」
さっきまでとは違い、接戦になった。
ぎりぎりのバトル。しかしいつもカドマが間一髪で負け続けた。
悔しがりながらカドマは、箱から
重要ではないカードを3枚ずつ選んで渡していく。
(まあいいさ。箱いっぱいにあるんだから。
1回でも勝てればあの超レアカードが手に入る。
あいつの強さは俺とほとんど互角だ。何回もやってれば・・・)
3
「くっ・・・」カドマは失意の声を漏らす。
負け続けてカードを取られ、ついにデッキを組む枚数を下回ってしまった。
「いくら何でもおかしい。互角の勝負が続いてるのに1回も勝てないなんて」
「ヒヒヒッ。ゲームが終わるのは悲しい。もっと遊びたい・・・
取り上げたカード、返してやってもいいぜ~」
「えっ?」
「でも今度はこっちの超レアカードに対して、
そっちはスピリットカードを賭けてもらう。これだ」
カードをポケットから出してカドマに渡す。
「人魂のカード?」
「君はこのゲームの達人だろう?学校やこの地区で有名だ。
それがこのゲームでボロ負けしたって広まったら
後ろ指さされてみっともないよねェ~」
「・・・・・」
「君は1回でも勝てば超レアカードが手に入る。
こっちは君のカードをデッキを組めないほど減らしたら勝ちだ。
悪い話じゃないだろう~」
「・・・いいだろう。カードを返してくれ」
「ヒヒヒッ!そうこなくっちゃあ・・・」
200枚のカードを箱に戻してデッキを組む。
「今度こそ・・・絶対に勝つ」
ザアッ! 雨音が強くなって・・・
4
数日後。小学校。
「そういえばカドマは学校に来なくなったな。どうかしたのか?」
「行方不明になったらしい」
「ええっ、家出したのか?」
「神隠しか、誘拐かも。とにかく行方知れずだ」
「こういっちゃ何だけどあいつ嫌な奴だったからな」
「ああ、俺もカード取られちまって恨んでる・・・
何十人もの恨みのカード持ってりゃ、
ギャングラーに連れて行かれたのかもな」
「ギャングラーって「妖怪獣ファイターズ」の?」
「そう、ギャング(マフィア)とギャンブラー(賭け事をする者)を
合わせた言葉の妖怪獣。
ギャンブルに魅了された人間の前に現れて、その勝負を挑む。
そのうちに魂を賭けさせて奪う、死神みたいなモンスター」
手本は新井リュウジ「めちゃコワイ最凶怪談」(怪談集)。