9.
チクタクチクタク
とても静かなひとつの部屋。鳴り響くのは大理石の時計の秒針を刻む音。ゆらゆらと立ち上る紅茶の湯気。話し始めることを知らない少女が2人。そう、わたし達は取り残されたのであった。
5分前
「リターさんは是非こちらへどうぞどうぞ。友達ができたらいつか見せようと思っていた秘蔵のワインコレクションがあるんだが、…見ないか?」
「見ます行かせてください。」
即答。流石お酒好きのお父さん。ただ子供の前でOKなのかな?お母さんがいたら引っぱたかれてそう。お母さんに言っちゃうよという単語を喉元まで出しかけて静かに押し戻す。なんというか家から公務以外であまり出ない父に友達(?)という存在ができるのはいい事だと思うから。今回ばかりは目をつぶろうと思う。うんうん。
「あぁそうだ。フェーテちゃんにはナデュラ嬢をつける。あの者は人間に対して好奇心という感情を持ち合わせているから手出しはして来ないから安心してくれ。案内はキシュレッテにさせよう。」
なんかわたしちゃん付けされてる。久しぶりに聞いたなその単語、今世で言われたのは初めてだ、
前世ではあの子が呼んでくれてたな。「夜ちゃん」って。死んでしまったからもう二度と聞くことはできないけれど死ぬ前にもう一度会いたかったかも。感慨深い、けど今はそれよりもこっちのことを考えないと。とりあえず魔王様にお礼を。
「あ…りがとうございます。」
顔、引きつらないように言えたかな。うん、多分大丈夫なハズ。
「フェーテ様、ナデュラ嬢の元まで御案内致します。こちらへ。」
「あ、はい。お父さん!行ってきまーす。」
「え、あ、そっか。行ってらっしゃい。魔族の子と仲良くねー」
そう言って魔王様に腕を引っ張られどこへ連れていかれるお父さんに手を振りキシュレッテ様に連れられナデュラ様の元に来たのがついさっき。
部屋に入って座って紅茶が置かれメイドがいなくなり互いに一言も言葉を発さずとりあえず気まずい空気が流れているのが現状。
「…」
「…」
目が泳ぐ。宙を泳いで床を見て相手の手を見てまた泳ぐ。
嫌いなことはなんですか!と聞かれたら人に話しかけることです!って答えるほど人に話しかけるのが苦手だ。一度話始めれば話せるんだけどね。
それでいて沈黙はもっと嫌いだ。ムズムズするというかなんというか、早く沈黙を破ってくれ〜というか帰りたい!
「…あの!ねぇねぇフェーテちゃん。」
キター!話しかけてくれてありがとうございます。
「フェーテちゃんってなんのお菓子が好き?わたしはねーマカロンが好き!特にフランボワーズね。キミは?」
「ふ、フランボワーズ?あぁ、ラズベリーのことか。」
「そうだよ?知らないの?まぁそうか役人の子供だもんね?貴族が使う言葉とか知らないのも無理ないかー。それで?好きなお菓子は?」
時々言葉の節々に刺があるような言い方をするのは気の所為だろうか。この言い方、本当にあの人に似てるなって思う。
(ナンダコノクソガキ マゾクノ クセニ セイレイオウサマ イタラ シケイ カクテイダ )
わたしよりもせーれーさんの方がイライラしてる。まぁまぁせーれーさん落ち着いて。挑発には乗らない方がきっと今後のためだから。それに多分この言い方は多少意識はしてるだろうけどシラフだろうし。それでなんだっけ、あぁお菓子の話か。
「えっ、えっとバウムクーヘン、かな。皮?に砂糖が沢山ついてるのが好きだよ。ちょっと甘いのが好きなんだ。」
「へー甘党なんだ。奇遇だね?わたしも甘いの好きなんだよね。」
そういうとナデュラ様は目の前のテーブルに置かれている皿からクランベリーが塗られたクッキーを1枚手に取り口の中に放り込んだ。一応ラズベリーの塗られたクッキーもあったのだがそちらは食べないのだろうか。
「食べなよ。許可してあげるからさ?」
「あ、どうも…」
なんか高圧的な態度を取られてはいるが相手の気に触らぬよう恐る恐るクッキーに手を伸ばしチョコレートっぽい色をしたクッキーを食べる。サクサクしてる。中々の味ですね。食べる手と口が止まらない。病みつきになる味だ。
「あ、そうだ。この後はなにする?キミのお父さんが来るまで多分まだ時間あるしゲームでもする?」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
なんか変だなーって思い始めてきましたかね。あのね私が1番思ってる気がします。なんとか早くアズィーザカから帰りたいです。