5.
砂と石で構成された所謂道をグローヘルエ家の令嬢とグローヘルエ家当主をのせた馬車?が通る。
「おーあれが境界線…」
馬車…?の窓からは魔族の住まうアズィーザカと人族クーグレイスとの境界線が見える。アズィーザカ、面倒臭いから魔族の国と呼ぶね。魔族の国と他の諸国の大きな違いはここは常に夜の国ということだ。この国には朝から夜という概念がない。常に真夜間である。なので境界線近くに昼間来るとくっきりと昼と夜の違いをみることができるのだ。あと他国との違いをあげるとしたら明かりをつける必要が無いことと他の国よりも上下関係が厳しいということだろうか。魔族には特有の夜目のような機能が備わっている。猫みたいな感じのやつが。ちなみにこの世界には猫は存在しない。いるのは犬だけだ。ワンコ最高!ワンコ!ワンコ!ワンコ!
「そういえばせーれーさんはアズィーザカに入れるの?」
以前、エルフの長老に精霊は魔族の国にだけは入れないというのを聞いたことがある。なんでも精霊と魔族は相性が悪いらしいのだ。精霊は身体のまわりに微細な光を放っている。光は魔族にとっては天敵だからね。あ、でも魔貴族は大丈夫なんだっけ。光。
いつもわたしに付いてくる精霊に問いかける。
(ハイレルヨ フェーテガイルカラ)
「どういうこと?わたしが二アドだから?」
(イェース 二アドノチカラ!)
ふむ、思ったよりも二アドの力というのは役に立つのかもしれない。前世では出来なかった勇者の旅…とかができちゃったりして。
「てか、この世界に勇者なんて存在しなかったわ。忘れてたあぶねー…」
「…?フェーテ?」
「なに?」
「その、ユウシャってなにかな?」
聞かれていたのか。
「…うーんとね?悪を倒して世界を救う中心的存在のこと?かな。物語の中でよく出てくるんだよ。魔王を倒すユウシャっていう存在がね、最近エルフ族の子供たちの間ではやってるんだって!」
お父さんはへぇと相槌をうつ。あーこれお父さんはあんまり興味ない話なのかも。
「っとそれよりお父さん、今からアズィーザカに行くのはまぁわかるんだけどなんで?」
実を言うと領地から出たことがない。お察しの通り王都にも行ったことがない。理由はふたつ。ひとつは面倒臭いから。家では基本なんでも出来るから外に出る必要がない。あと、前世でニートではなく自堕落な生活を送っていたことがあったからというのもある。ふたつめはエルフの森まではゲートという扉から行くことができるためだ。お母さんは純血だし。ゲートは…どこでも○アと考えてもらえればいい。以上の理由から外に出る必要がなかった私なんだけれども今回は何故なのだろうか。
「言い難いんだけど国王からの命令でね、今年から使節を派遣するっていうのが貴族会議で決まったみたいでね。たまたまその会議行くの面倒くさくて欠席してたお父さんが使節に選ばれちゃったんだよ。フェーテを連れてきたのはいい機会だなって思ったから。外のことについても知っておいて損はないからね。」
半分くらい嘘をお父さんはついているんだけどふーんそうなんだーと相槌を打った。どうせ「国」としては大事なことだろうけどわたしには関係の無いことだろうから。ただの校外学習とでも思えばいいだろう。あぁ、遠足…いや旅行でもありかも。一泊はするってお父さんから聞いたし。
「アズィーザカは大陸一の鉱石保有国なんだ。それにあちらの国王は今のクーグレイス国王と同じような平和主義者だからね。この平和な時代に国交を深めておくのもいいと思ったんじゃない?」
「ふーん。」
鉱石、鉱石と言えばダイヤモンドや孔雀石を思い浮かべるのだがこの世界にもそんなわたしの知る鉱石はあるのだろうか。
「マラカイトとか石英とかってお父さん知ってる?」
「ん?よく知っているね、流石フェーテ。勿論知っているよ。といっても有名どころしか知らないんだよね。石英からクォーツとか?アメジストも石英からだったはず…うーんごめんフェーテお父さんそういう知識なかった…」
「んーん大丈夫だよお父さん。聞いてみたかっただけだから!でもすごいねお父さん!ママは知らなかったことでもお父さんは知っているんだね!」
「ママ?」
しまった。口が滑った。でも慌てず焦らず落ち着いて訂正すれば大丈夫。この世界に転生した時から前世の記憶があるとはいえ流石に記憶がこんがらがりすぎじゃないかね。
「言い間違えちゃった お母さん のこと!」
なるほどと納得したのかこの話題はすぐに終わりまた馬車?の中では沈黙した空気がその場を支配した。
あー早くアズィーザカつかないかな。スマホがないから暇すぎる。お父さんと車でお出かけとはいえいつもだったら助手席に座って「パパ」と話したり「愚妹」と話したりしてたからな。今は話すこともないしほんとに暇!スマホで麻雀したい!
電車に乗っているような馬車?の揺れとまだ太陽が登る人族エリアにいるからか歳相応の欠伸がでてしまう。こくりこくりと赤べこが首を揺らすように頭が揺れる。あともう少しでアズィーザカとの国境線を越えるというのに通るところを見られなくて残念だ。瞼がゆっくりと閉じていく。
あぁ、これ死んだ時と同じような感じだ、
「…おやすみ。フェーテ。」
リターは窓に頭を預けて寝ている自分の娘を見て笑い足元の籠に置かれた毛布をフェーテに掛けた。
アズィーザカまであと20分。
馬車?ですが馬に羽がついているため馬車?になっています。これは王家からの使者を表しているよ。
いきなり話飛びすぎって思うと思います。その通りです。時系列の補足をしておくと
お父さん、大事な会議をサボる
↓
その罰で魔族の国への外交を命じられる
↓
1人で行きたくなくてフェーテを連れていく
↓
魔族の国へ向かう←イマココ!
です。