37.
こんにちは。今回は夢を見る回です。ここまで両親死亡、知人死亡…?という絶望を見てきたフェーテさん、今回は幸せな夢だといいですね。ちなみに私は最近タコの頭に口があるとかいうよくわからない夢を見ました。
揺れる馬の背に乗り雲多き夜の中、馬は目的地に向かって走る。もう2日は馬に乗って移動していた。それでも人間というのは眠気が襲ってくるもので。電車の中で眠たくなるのと同じように少女はうとうととうたた寝をし始めた。従者は理解する。ここに至るまで色々なことがあったから相当疲れていたのだろう、と。
夢を、みた。昔の夢、過去の夢。それは泡沫の夢。「私」の壊れた時の本当にあった本当の話
「お姉ちゃん、今…なんて…?」
「…もう家には戻ることはないって言った。」
「私」はこの会話を覚えている。死ぬ2ヶ月前に起きた出来事。全て理解してなにもかもを妹達のために捨てようとしたあの日の話だ。○○県の…実家、それなりに広い家、それなりに広い庭、「私」や妹たちを捨てたあの人たちが建てた家。
「なんで?ママもパパももう星と宙をいらないって、言ったから…?」
この2人は「私」の妹、星と宙。あの人たちが産んだ正真正銘「私」の妹だ。その2人の顔が歪んでいる。お姉ちゃんも自分たちを捨てるのかと言わんばかりの顔で。
「…もうこの家は終わり、だから。自身の欲のためにあんたたちを捨てた人のことなんてもうまともに考えない方がいい。」
「…お姉ちゃん、答えになってない。ちゃんと答えてほしい。もう家に戻らない理由は本当の理由は、なに?」
「…」
本当の理由、一人暮らしをしている家に戻って決められた日が来れば私は自殺をしようと思っているって、そんなことコイツらに言えるわけがないでしょう。もしかしたら死後、御空と繋がれるかもしれないけど繋がれたとしても家族だった人達に伝える言葉なんてなにもない。そもそも繋がること自体強い縁が結ばれていないとできないのだから成功するかもわかんない。それに私の最大の罪は生まれてきたこと、だからね。私が生まれて来なければきっと恐らく多分この家は崩壊しなかった。生まれて来なかったもう1人の妹が長女だったらきっとこうはならなかったはずだ。
「お姉ちゃん、答えてくれなきゃ家から出さないよ。それ程この話は重要だからさ。」
「…わかった。家に帰ってこない理由が聞きたいんでしょ。なら答える。1つはこれから大学の授業色々とるつもりだから。課題に追われて多分そんな暇無くなる。もう1つは単純に…アンタらにじゃなくてあの人に会いたくないから。それだけ。」
「星姉、それならしょうがないよ。夜姉バイトしたりで忙しいじゃん。家からここまで遠いし時間かかるし。それにこんな見た目でも大学生なんだよ?」
「見た目関係ない。けどそれだけじゃない気がするから聞いてんの。あんたはちょっと黙ってて。」
「ごめん。」
どうしてそれだけじゃないと分かるのかすごく気になった。そんなに私の心は分かりやすいものだろうか?だがそんなこと今の私にはどうでもよくて。早くうるさいこいつらから離れたくてしょうがなかった。大丈夫、私は自身の死をこいつらに悟らせない。大丈夫、だから平気なフリをしないと。
ずっしりと荷物が詰まっているリュックの紐をぎゅっと握りしめ冷や汗をかいていることを悟らせぬように涼しい顔をする。内心は余計なことは考えずにただひたすらにどう受け答えすればこの場を切り抜けられるかを考えていた。大丈夫を言い聞かせて心の黒さを悟らせないように。
「…お姉ちゃん。それほんと?」
「なにが?」
「今の言葉。バイトしたり〜とかの話。」
「うん。」
百面相をしながらなにかを考える次女の星。というか元々今住んでいるのは実家のこの家ではない。電車の時間もあることだし早めに帰りたいのだがなにがそんなに引っかかるのだろう。理由なんてどうでもいいだろうに。ていうか私が自殺することもその理由すらも、そんなに知りたい?聞きたい?全部、全部全部全部全部!お前らを守るために、死ぬんだよ。涙を流して懇願しても、あの人たちは変わらなかった。なら、私が自殺をすれば、もしかしたらほんのちょっとでも子供にあの親共は目を向けてくれるかもしれない。私の遺書にはパパとママがした悪行全て書いてある。育児放棄したことも、児童虐待も、私たちの絶望も、なにもかも。きっと私が死んだら「ごめんね、2人とも、今まで放っておいてごめんね!」って言ってくれるはずなんだ。例えどちらかが帰ってこなくてもきっとそうしてくれるはず。だって親は無条件で子供を愛してくれるんだろ?!私と違って、コイツらにはまだ親からの愛情ってものが必要なんだよ。親には子供を、未来へ導く義務がある、それなのに両親が離婚していたとしてもどちらも子供を置いていくなんてのは絶対におかしい、絶対に間違っている!誰にも相談なんかできない、だってこれ以上家族というものを壊したくない、だから、だから死ぬんだ。そのための布石を打つんだ、そのための爆弾を投げる。親が間違った方向に進むのならそれを正すのは長女である私の仕事だって思っているから!
「…わかった。じゃあひとつだけ最後に聞かせてよ。」
「なに?」
「お姉ちゃんは、死なないよね?」
核心をつくな、馬鹿野郎。お願い、星、これ以上私をその顔で見るのはやめてくれ。
「…うんそれは、大丈夫。だって夜だからね。電車間に合わなくなるからもう行く。じゃあね。」
「違うよ、お姉ちゃん。おい宙も言え。またねって!」
「また帰ってきてね。夜姉!」
「…気が向いたらね。」
重く分厚い玄関の扉を開いて外に出て鍵をしめる。届くはずのない声がドアの奥から聞こえてくる。それは私の帰りは二度と来ないことを確信するかのような声だった。
私は最寄り駅へと歩き出す。深く帽子を被って地面を見つめながら。
前に御空と祐輝と通話した時に言われたっけ。「キミの大丈夫は全然大丈夫じゃないでしょ。」って。そんなの私が1番知ってるよ。自分の精神が壊れているのかもなにもかも分からない、きっと壊れてる、壊れてるけどこの大丈夫は魔法の言葉、私自身すらも欺くための言葉なんだから。嘘のために張り付ける笑みってこの世で1番醜い笑いだといつも思う。つきなれた嘘のために笑った数は一体どんくらいあるんだろうね。きっと、それは、分からないほどあるんじゃないかな。
しかもこれが家族との最後の会話だったなんて余計、家族なんてものにいい思い出ないなぁ。
ママにもパパにも色々酷いことされてきたはずなのにそれでも「夜」は2人のことを嫌いになれなかった。できることなら嫌いに、なりたかったよ。縁を切ろうと決心する程「夜」を憎んでくれればよかったのに。2人の彼氏/彼女じゃなくて「夜」を信じてくれていれば「夜」を見てくれていれば「夜」に話してくれていれば誰に批判されても味方でいたのに。世界中が敵でも、「夜」だけは味方だったんだよ?大好きなパパとママ、なんて馬鹿な人たち。ねぇ、きっと聞こえないけど届かないけど教えてよ。「夜」のこと本当に大切だった?本当に好きだった?「夜」はね…「夜」は…
…頬に暖かな風が吹き目を覚ます。寝てしまってから何時間経ったのだろうか。気がつけば見覚えのある道を馬は進んでいた。段々と見えてきた。ここは、そうか、もうネイストジェル…おじ様の屋敷の近くに来たのか。
「……お嬢、おはようございます。もうそろそろ着きますよ。」
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後出し情報のコーナーです。まずは夜の妹、星と宙ですね。星は高校1年生、宙は中学1年生と夜とは年齢が離れています。この家では自分自身のことを名前で呼んでいるため普段は私呼びしている夜も家では「夜」と呼んでいるわけですね。
最後に御空さんについてですが、あの人は家系上八百万の神がいるかいないかの存在を認識することが出来るという不思議な力をお持ちなようです。なので神社に行くと今神いるわというのが分かります。死者とは気合いで縁が強ければ強いほど相手と繋がることが出来るようです。オカルトじみていますね。私もそう思う。設定をつけたのはそう、この私なのだがな!




