閑話 あの頃の日常
結局書いちゃいました。閑話休題です。内容は最初から最後まで一ノ谷の戦いの話をしています。
ちなみに私は倶利伽羅峠の戦いも好きです。
「ねぇ。私さ、好きな武将がいるんよ。まぁ正確には平氏の貴族…なんだけど。その話していいか?」
「……唐突だね。まぁどうぞ。」
学校があった日の夕暮れの話。いつもの様に友人の一青夜と登校し寒い寒い言いながらいつもの様にヒーターの前に椅子を並べて座ったすぐのことだった。大抵は各々が好きなことをしてHRが始まるまで待つのだがその日はどうしても話したいことでもあったのだろう。マスクの下でにやにやしているであろうということが容易に想像できる。まぁ暇だし。話ぐらいなら小説を読みながら聞こうかな。
イヤホンはせず、スマホだけをポケットから取り出しさっきまで読んでいたサイトを開きつつ夜の話を待った。
「あのね、私が好きな平家の…貴族…やっぱ武士…?ま、どっちでもいいか。が、いるんだけど。なんで好きかって言われれば美少年だからっていうのがひとつとあとは生き様が好きというか。1人の人生を変えた人物だからというか、まぁ好きなんすよ。でね?名前はまぁ、平敦盛って言うんだけど諸説あるっぽいんだけど16、17歳くらいで亡くなってんだよね。一ノ谷の戦いっていう戦いでね。結構有名な戦いでさ源義経の話が有名。なにが有名かっていうと平氏は前は海!後ろ崖!ってところに布陣を引いたの。後ろはめっちゃ崖だから流石にってことで平家は油断しまくっててその地形に気がついた義経は少数精鋭…大体70人くらいを連れて後ろの崖に回ったんよ。で、馬を2頭崖に落として実験したんだよ。一頭は足くじいて倒れてもう一頭は下まで辿り着いた。ならいけるっしょ!ってことで馬に乗って崖すしゃーしてったわけ。で、奇襲は成功して平家大混乱。逃げようとしたけど別働隊がやってきて平氏ぼろぼろ。源氏の勝ちって戦いね。ざっとこんな感じ。」
「へー。」
「…ちゃんと聞いてよね。これテストにでるよ。…知らんけど。」
そんなマニアックな知識、この底辺高校のテストにでるわけないだろ!というツッコミを心の中でしつつ適当に合図地を返し小説を読み進めていく。このモードに入っている時の夜は話終わるまで止まらないから小説を読んでても問題ないんだよね。
「まぁこれ坂落としとも言われてんだけど朝廷側が書いた資料、玉葉ってのにはその話自体書かれてないっぽいんだよねぇ。だから逸話はあるけど真実かはわからんって話。平家物語と吾妻鏡には書かれてるみたいだけど。そもそも兵力差についてもコイツら食い違ってるみたいだしなにが正しい情報なのかわかんねーんだよね。こういうのがあるから歴史は面白いんよね。あー最高。」
「でもそういう歴史ってさ日々研究されて真実が解明してきてるじゃん?だから鎌倉幕府が発足したのだっていい国つくろう鎌倉幕府の1192年からいい箱つくろうに変わったわけじゃん?…あれこれ合ってる?」
「……合ってる…けどびっくり。鎌倉幕府発足の語呂合わせ御空覚えてたんだ。やばー」
そんなに驚くことだったのか私には分からないが拍手という名の称賛が夜から贈られた。冬のクソ寒い教室内に乾いた拍手音が鳴り響く。
そして夜が喝采の拍手を辞めたと同時に教室の扉が開き誰かが登校してきた。
「いまちょーど授業でそこやってるからね。」
「理解理解。」
「おはー。何の話?」
「はよ祐輝。いま平氏vs源氏〜一ノ谷の戦い編〜の話してた。お前も来いよ。聞かせてやるぜ。」
どうやら扉を開けて教室に入ってきたのは友人の市ヶ谷祐輝のようだ。小説から一旦目を離し祐輝を見ると外がそんなに寒かったのか全身防備の姿をしていた。マフラーに手袋にダウンジャケット…まだ11月なんだがそんなに寒いかっただろうか?
「あ、俺用事思い出したわ。じゃ、2人で仲良く続きの話でも…」
「お前に拒否権はねぇよ。リュック置け。早くこいや。続き話したいんだよ。」
「あハイ。スミマセン。」
夜によって強制的に椅子に座らされ暖房の前にやってきた祐輝に憐れみの目を向けておく。だがまぁ、本人も用事がとか言ってるがどうせ嘘だろうしやることなさそうだからいい暇つぶしになることだろう。だが私は小説を読むがな。
「それで私の好きな平氏の人の話、つまり本題に入るけど。信長も好きだった歌、人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け滅せぬもののあるべきか…は幸若舞の敦盛の一節だし。笛の名手って言われてるし、すげー人なんよ。」
「……うん。わからん。」
「お前にはまだ早かったか。でも聞いとけよな。」
「……ハイ。」
祐輝…逃げらんなくてドンマイ…でも諦めろ、夜はこの手の話をする時は結構執拗いぞ…
「一ノ谷の戦い…さっき先生には説明した戦いで敦盛は命落としてんだけど簡単に言うと源氏サイドの武士が逃げようとしてた敦盛に敵に背中を見せるな!戻ってこいや!っていったら戻ってきて源氏の武士が馬から落として抑えて顔覗いたらなんとめちゃ美少年!しかも自分の子と同じくらいじゃね?!ってことに気づくの。んで、首切るの躊躇っちゃって逃がそうとして敦盛に名前を問うんよ。したら敦盛は、君いい人だね。僕の名前?それは首を取って他の人に聞いたら分かるよ。だから首とりな。って言ったの。ここえぐポイントね。で、泣く泣くその武士は首を落とした。諸説あるけどこの事がきっかけでその武士は出家したんだよね。やばくね?17歳くらいの少年がひと回りも上の人間のその先を変えたんだよ?お前らと同じくらいの歳だよ?やばくね?私は絶対無理。そんな肝っ玉座ってないしだから好きなんだよね。生き様というか生き様が!」
夜が歴史の中でも特に日本史が好きだということは前々から知っていたがまさか1人の武士…?貴族…いや人間のことを知っていたとは驚きだった。とんでもない驚きだったという訳では無い。以前にもこういう事があった。その時は確かフランスのジャンヌ・ダルクの話だったような気がする。こういう事があってこの英雄はこう呼ばれるようになった、とか。気になったことは全て知り尽くしたい性分らしいから不思議ではないか、うん。それにしても本当に文系脳だな。数式なにそれ美味しいのとか普段言っているやつとは全く思えない。
「なるほどね。てかそれ聞いて思ったんだけどさ。夜は日本史でいうと何時代が好きなの?」
「…んー。明治より前は全部好きだよ?正確には幕末より前までは、かな。明治よりあとのはさ名前が長いやつが出てきたりあとは○○の戦いじゃなくて戦争に変わるのが好きじゃないから覚えてたくないんだよね。」
「なにその理由。俺なんて歴史のワード全部右から左に流れてくのに。」
「でも言うて歴代天皇の名前とか歴代将軍の名前とかは流石に分からんのも結構あるよ。ちゃんと覚えてるのは徳川家の将軍ぐらいかな。」
「……それでも凄いと思うけどね。」
「日本史の記憶力と本読むスピードと作文の才なら君たちには絶対負けない気がするわ。」
「うん大丈夫。その3つでキミに勝とうとなんて1ミリも思ってないから。」
「俺なんか日本史のテスト赤点ギリギリだったんだぞ。お前いつも100点じゃん。勝てねぇよ。」
「確かに。ふっ、わりーな。祐輝、私は一足先に次の境地に行ってるぜ。」
「何言ってんだお前。」
祐輝が挑発し夜がその挑発に乗り、よく分からないレスバが横で架空のゴングを鳴らし始まった。段々と大きくなっていく2人の声量がなんだか煩わしくなってきて制服のポケットからイヤホンを取り出して耳に装着。その後最近ハマっている洋楽をかけ小説を読むのを再開させた。
これが私と夜と祐輝とーーの4人の日常だ。祐輝が来れば夜か祐輝が私とーーの前でしょうもない話をし始めHRが始まるまでいつも通りを送る。高校を卒業するまで変わらなかった日常。とても楽しかった、あの日の想い出。
ーーー
次はちゃんと本編の続きですよ。大丈夫っす。次回はですね、フェーテさんにはまた地獄を見てもらおうと思っています。あ、そうだ。前回の最後にナデュラが出てきてましたがフェーテの頭の中にはナデュラがやばいかもしれないという言葉は一切思い浮かんでいないです。なぜならフェーテはナデュラが魔族だということを忘れているからです。前世は同じ人間でしたからね。