31.
表現注意かも
先程まで考えていたことが頭からすぽーんと抜けたかのような気分だ。つまりこう言いたいのか。お父さんが国に叛逆しようとしたから実る前に潰した、と。
「……じゃあ、お父さん殺したの…は、この国の王…ってこと、」
お父さんの敵、お父さんをよく思わないゴミ貴族。いや、そいつらは絶対ない。この選択肢しか有り得なかった。騎士団長を長年勤め上げて国民から人気のあるお父さんを恨めしく思う人間はもうこの世に一人しか居ない。あぁそうか、その考えなら納得がいく。思い出したくもないあの日、おじさんの口からでた言葉、2人を国賊として殺す。国賊と決めつけられるのはいまのところこの国の王だけ。つまりこの国の王…いや愚王はお父さんを戦争の火種に仕立てあげたというとか。邪魔だから殺すってそうか、どの時代にもあることなのか。たまたま、それが、今回はお父さんだったってだけの話で…
「……」
殺しを命令した人物が分かったところで今すぐ殺しに行こう!とは不思議とならなかった。結構自分自身のことを短気でめんどくさくてゴミ人間だと認識しているのにだ。理由は簡単なはなしで単にそれが正しいことなのか判断がつかないから。復讐したいという気持ちはなくはない。けれど…お母さんはわたしを火事から逃がすために探して戦って死んだ。お父さんはわたしを守るために戦ってーーだ。両親はわたしを生かすためにーーだ。なら、いつでもできる復讐は後回しにしていまのわたしがするべきなのは逃げて生き延びることなのではないだろうか。
「………生きる…か。」
つか生きてなにになるんだよ。この世界は前とは違って全てが新鮮で「楽しい」。けどそれは両親が近くにいたからであっていない今は「楽しい」って言えるのか?「私」は「パパ」から離れて「妹」から離れて不安が楽しいを塗り潰して死にたくなったんだ。じゃあ今回は?パターンは前とは違う。だけど両親がいなくなったのは大切な人が消えたのは前と同じじゃないか。なら、わたしにとっての楽しいの基準ってなにになるの。考えれば考えるほど自身の中にある全ての問いの答えがなにが正しいのか分からなくなっていた。
「…とりあえずお嬢。今日の夜にはここを出ましょう。というか夕食を食べたらすぐにでも。ここはグローへルエに比べたらアズィーザカよりも遠いですが、いつ戦火がここまでやってくるかわかりません。一刻も早くネイストジェルに参りましょう。」
「…うん。」
モヤが…残っているような気がしてならない。考えても答えが出ない問だから仕方ないのに割り切ることができないのは「私」の悪い癖だな。
「とりあえずお嬢、買ってきた果物ここ置いておきますね。まだりんごだけですがうさぎ型に剥いてありますよ。」
いつの間にか椅子に座ってりんごの皮を剥きながらウルクが言った。綺麗な手捌きだなって…ん?
「……それ言わなくていいから!」
ついいつもの様にツッコミを入れてしまう。そのツッコミに連動するかのように表情筋が勝手に緩む。その笑みは張り付いた笑顔で作り笑いの気持ち悪い笑いだった。
ーーーーー
…ソレはまるで映画を観ているかのようだった。例えるなら一ノ谷の戦いだろうか。「夜」が好きな武将がこの戦いで死んだとかいう話を昔永遠に聞かされたからよく覚えている。断崖を背にし布陣を引いた平家軍の裏をついた源義経ら少数精鋭が馬で崖を降りて奇襲をかけた戦いだ。この近くには山もないし崖もない。けど、これは完全に不意打ちだった。
「……」
「……殺せ!一匹残らず殺し尽くせ!汚らわしき魔族に裁きの鉄槌を!」
あぁ、まわりが明るい。火が……付いてるのか、燃えているんだ……積み上げた軌跡も生活も何もかも燃えている。
「……ッ………」
顔が熱い目が痛い。足がなにかに挟まれて動かせない。喉が焼けそうなほど痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい。顔が当然のように歪み息が荒くなる。
落ち着け、落ち着け、息をしろ。呼吸をしろ。痛みを消せ。まわりをみろ。状況を把握しろ。焦る前にやるべきなのはそれだ。
「すぅーっ、はぁー…ッ喉……い…った、」
深呼吸をして目を開く。顔が動かせる範囲でまわりを見渡せばほら、そこには地獄絵図が広がっているじゃないか。
「ママぁ!ママぁ!!!マ。」
「近寄るな人間!閃光!なんで?ッ閃光!なんでだよ!なんで魔術が使えないんだよ!剣を向けるな!来るなァァァァ゛」
親を失った子供を後ろから刺し殺し幼き少年の首が落とされる。魔術が使えないと叫んだ同胞は断末魔を上げて斬り殺された。けど同胞が殺されているというのに私の足は、手は動かなかった。死にたくなくてただ怖くて。足が動かないなら切り落としてでも逃げればよかったのに。それだけではない。綺麗に舗装されていた石畳の道路は今や原型を留めず赤色に染色されている。魔族にだって臓器がある。心臓がある。内蔵がある。血が体内を流れている。身体の構造は人間となんら変わらない。だからこそ、見るに堪えなかった。人間が、人間を殺しているような景色にしか見えない。私は、私には、グロ耐性なんかないんだ。なんなんだ、これ。
誰の心臓?なんで食い破られてるみたいになってんの?誰の腸で同胞の首は絞められているの?生まれたばかりの赤ちゃんの目だけがくり抜かれた頭がどうして落ちてるの?ただ死んだだけなら服が切り裂かれて素肌が露呈されるはずがない。じゃあ、誰がやったんだよ、これ。…吐き気がする。なにこれ、ここ現実世界のバイハだったっけ、?
呆然としているこの間にも風に乗って悲鳴が聞こえてくる。その大半は死にたくないという声で。当たり前の事だった。「私たち」は何もしていない。人間たちになにもしていないのに。どうして、どうして、どうして…
「……とりあえず足痛いから、は、かい。」
足の痛みが増していた。同じところを永遠と押し潰されていると感覚が麻痺してくる。せめてそれさえ壊せればとの想いで魔術を使おうと詠唱を口にした。だが、不発だった。魔力が足りないわけでもないのに、なぜ。いや、もうどうでもいいか。身体中が痛みで大変なのに足だけ楽にしてもなにひとつ変わらないから。
「………目痛いし、足も痛い。頭から、血流れてるしこれ、死ぬのかな。」
掠れた声でそう呟く。前は即死だった。けど今回は違うみたいで苦しみながら息絶えるのを待っていないといけないみたいだ。そう考えると呼吸が荒くなったような気がしなくもない。わからない。もう本当に何も分からない。分からないまま死んでいくのかな、それはそれでなんか嫌だな。けどこれ最初から勝負は決まっていたように思えてしまってしょうがない。なら、もういいか。
視界がぼやけてきた。ちょっと、休もうかな。
「……ふぅ、」
ーーーーー
次回は一青夜と橋部御空の日常…書こうかなと思ったけど面倒くさすぎてやめました。いつかね。生きてたら書きます。久々にナデュラさんが登場ですね。登場と一緒に死にかけと。なんとも素晴らしいシチュエーション!




