3.
今より昔の記憶がふと脳裏をよぎった。
日本、○○県。午後22時39分。
「…ママ、?待って、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!置いてかないで、わたしを置いていかないで、」
両親が4年前に建てたここら辺では大きな一軒家。少し広めのリビング、キラキラと光り輝くはずの星が1つも浮かばないそんな黒が空を覆う。
「パパ」は静岡県に出張している。大きいようで小さく広いようで居場所がない家には「ママ」と妹、あと犬と猫。「ママ」は激怒していた。だから「ママ」は妹を連れていつものように家から出ようとしている。こういう時は私が100%悪いのだ。今回のはわたしの嫌いなナスが夕食にでたからこっそりゴミ箱に捨てようとしてたのが原因。その前はネギマのネギを串ごとティッシュに包んで捨てたら普通にバレた。バレた後は単純な話ゴミ箱に1度捨てた汚い食材を口にねじ込まれティッシュペーパーごと胃の中にバイバイする羽目になった。ねじ込まれた時は本気で死ぬかと思った程である。これらは確か8歳くらいの時の話だったはず。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!わたしが食べ物を粗末にしようとしたから、ごめんなさい、もうしません、だからわたしを置いていかないでください、お願いします…」
頭を、額を砂が撒き散らされた玄関の床に擦り付けて懇願する。それでも無視して玄関から出ていこうとするのだから1人になりたくなくて「ママ」の足にしがみついて目から鼻から口から水を生み出して同情を誘う。産声より大きな泣き声を上げれば「わかった。ごめんね。」って言ってくれるはず。だって親は子供を愛するものなんだろう?子供の懇願する姿をみて愛情が湧くものなんだろう?子供が産まれた時愛しいって思うものだって学校の先生は言っていた。
そうだとしても、それでも。
わたしの「ママ」は違うみたい。
「邪魔。汚いしさっさとどきなさいよ。」
今日聞いた声の中でいちばんドスの効いた声だ。女の人が出せるような声じゃない。わたしの知っている「ママ」のはずなのに。泣く声は止まり涙も瞼という堤防でせきとめられてしまった。
「もう22時なんだけど。ーーを寝かせる時間だししがみつかないでよ。気持ち悪いウザイ。」
ねぇ、
「はぁ。なんでこんなの産んじゃったんだろ。」
ねぇ、おかしいと思わない?
「めんどくさ。」
子供のわたしよりも血が繋がったわたしよりもお腹を痛めてでも産んだわたしよりも自分で拾ってきたペットを大事にするんだよ?友達は両親に大切にしてもらっているんだって。愛してもらっているんだって。わたしは?どうしてわたしは大切にされてないの?愛してもらってないの?わかんないよ。小学生だからわからないの?それとも、わたしが。
「…はぁ。」
「ママ」は右手を振り上げて自分の子供ではないなにかの頬を腫れ跡が残る強さで叩いた。
パンッ
ーーーーーーーーーー
「フェーテ?」
「…どうかしたの?ぼーっとして。」
どうやら棒立ちで虚無を見つめていたらしい。思い出したくない思い出その1を思い出していたからだろう。ほんと、なんで前世なんか思い出すんだろう。よく小説や漫画で見るような私(または俺、僕)小説の中の〜!みたいな展開はない。まぁ、異世界ではあるけど。いらないものはやはりゴミ箱に捨てておくべきだった。永遠にDeleteだ。前世の存在すらもDelete!
「ううん。何もないよ!えーっとね、フェー疲れたからもう寝ようかなぁって考えてたんだ!」
「そうなの。確かにもう夜も遅いし、フェーテ1人で部屋に戻れる?」
「うん!おやすみ〜」
「おやすみ。」
この世界のお母さんは優しくてこれが「家族」なんだと確認する。部屋は「家族」で暖かい。
そんな賑やかで暖かい部屋をでて静かで冷たく静かな部屋に戻る。自分の部屋に戻る途中の廊下はステンドグラスのような窓で埋めつくされている。日中だとまるで宝石がそのまま硝子になったかのように光り輝くステンドグラス、そこに映る空。今日は星降る空。とても綺麗な空だ。流れ星が落ちてくる。キラキラと、ゆらゆらと。
そんな夜空を見上げて一言思った。
「…眩しすぎる、な。」
精神年齢20歳の転生した人間がなぜ自分のことをフェーと呼ぶのか疑問だと思います。実はフェーテは前世の時から「〇〇は〜」と話していたのでその名残りです。因みにですが普通に私呼び出来ます。家族に対しては一人称が変わるということなんですね。