26.
主人公は頭のネジが何本か外れていると思ってください。
時間というのは早く過ぎて欲しいと願うほど遅く流れもう少しこのままでと願うほど早く流れるものだ。そう何が言いたいかと言うと時間ほど平等なものはないということ。もう国王の葬儀から半年たった。前国王が崩御してからすぐに新しい国王が即位したみたいだけどわたしにとっては結構どうでもいいことだったから半年間は割とニートみたいな普段通りの生活を送っていたよもちろん。その間になんとわたしは誕生日を迎えて10歳になってしまった。誕生日会は普通に楽しかった。自分の誕生日会なんだそれはそうだろう。
「私」も自分の誕生日の3ヶ月前ぐらいには友人たちにあと何ヶ月と何日で誕生日だから絶対祝えよ!と言っていたからね。会う度に言ってたから結構ウザがられてたような気がしなくもないけど!お父さんは頭がちょっとかたいエルフたちに認められている唯一の人間だから誕生日会にはエルフたちが来てくれた。本当はマリも来たかっただろうけど御神木なんだからもちろん来れない。御神木が普通に動くわけにはいかないからね。だからエスメラルダ様にお願いしてマリの枝を持ってきてもらって参加してもらった。あ、そうそう。陛下とキシュレッテさんも来たんだよ。2人からは3つもプレゼントを貰ったんだ。まぁひとつはナデュラからのだったけど本当に嬉しかったんだよ。まさかいまのわたしの誕生日を知ってるなんて思ってなかったからね。わたしの知っているわたしの大切な人がたくさん集まった誕生日会は何度も言うようでくどいけど本当に楽しかったんだよ。…本当に。だから、だから、いま、目の前で起きていることがどうしても理解できないんだ。
「………、」
月夜が空に輝く夜。家中から悲鳴が聞こえてくる。剣を構えて戦っていると思われる音。斬られて最後の呻きを上げる人の声。そして家中が炎によって燃える音。燃えてる。全部が、燃えているんだよ。廊下が燃えている。廊下に置いておいた本棚も、そこにしまっておいたお気に入りの本も、わたしとよく遊んでくれていた使用人たちも。みんな、燃えていた。
このよくわからない状況は何度考えても、何度頭を回しても答えはひとつしか思い浮かばなかった。襲撃だ。なんで?って思うよ。世間知らずっていうのはあるかもしれない。けどお父さんが誰からか睨まれるようなことはしていなかったはずだ。お父さんは人との争いが人より嫌いなんだから。
「…あ、お父さんとお母さん。探さないと、燃えてないかな、だって燃えるの熱いから。痛いから、探さなきゃ。」
わたしの部屋は家の最奥だ。その最奥に通ずる廊下が燃えているということは他のところは火の海なのだろう。昔読んだ本には火災が起きたら5〜10分で室内温度は500℃以上になるって。人がそんな温度に耐えられるわけが無い、火が回ってから何分経ったのか今まで寝ていたわたしにはわからないけどまだ生きていると信じて探そう。
「…ははっ、ここにいるみんなは「私」と同じように死んでるんだぁ。あーおかしっ。でも仲良くしてくれた人達が死ぬのはちょっと寝覚めが悪くなる気がするな。クソがっ、首謀者とっ捕まえられたら絶対に皮膚全部剥がしてやる!」
今のわたしの中に面白いと面倒くさいが混在している。例えばいまここでわたしが逃げたとしても誰も文句は言わないだろう。それどころか心配されるはずだ。逃げてもいいんだ。だって中にいる人がみんな燃えたら面白い。けど。だけど、逃げるという選択肢は最初から無い。だってお父さんがまだいるんだよ?大好きなお父さんがもしもここで死ぬというのならばわたしも一緒に心中してやる。
人がたくさん溺れている火の海へと歩みを進める。カーペットが焼けている。きっと死体から燃え広がったのだろう。若干熱い。あと焦げ臭い。「私」は死んだ後に燃やされたけどこの人たちは死ぬ前に燃やされたのかな。人は火あぶりが1番きついって言ってた。じわじわくる痛みも逃げられない熱も。
「…苦しかったかな。痛かったよね。全部終わったらちゃんとみんなのお葬式するね、ごめんね。」
廊下に溺れる人たちにそう告げてわたしは両親を探すために走り出した。
ーーー
2人がいるとしたらどう考えても寝室だろう。襲撃してきた敵がアホでおバカであるならばまだ安心していいだろう。お父さんは国の騎士団長だし並大抵が100人単位束になったとしてもお父さんには勝てないってライくんのお父さんが言っていたからね。
「……っ」
ここの角を曲がってまっすぐに行けば寝室だ。襲撃してきた敵がどちらさんかは知らないけれどとりあえず声は出さない方がいい。多分というか使用人も殺しているのならば皆殺しの命令でもくだっているんだろうから。
というかそうだ。わたしには空間の移動最強チート魔術を持っているんだった。とりあえず寝室の中にある衣装棚に入って中の様子を伺おう。前にお母さんが衣装棚は燃えない素材で作り直したのよ!って言っていたし多分大丈夫なはずだ。
「……よし。」
目を閉じて。行きたい場所を思い浮かべて。前に1歩、2歩進む。そして目を開ける。目を開ければほら。もうわたしはお母さんの衣装棚の中だ。音をたてぬように片目が辺りを見渡せる程度開く。ほんの数センチだけ。そうすればわたしは、わたしの世界全てが見えるから。
「……?」
飛んだあとから若干声が聞こえると思ってたけど外で誰かと誰かが話している。1人は、お父さんだな。特徴的な「私」の好きなボイスしてるからすぐに分かる。もう1人は…誰だ?
全神経を集中させて気配を消して耳を傾ける。
「…し…なぜ兄さんの…なぜ俺を、消そうとする?…継承権の戦争に俺は関係ないじゃないか!兄さんの邪魔をしないように立ち回っていたはずだ!」
「それに答える義務はありません、ですが答えるならばあの御方のお言葉を。人気者が邪魔だからだ。」
「俺は兄さんの地位を脅かすことはないだろう!?」
「その可能性があるから貴方と奥方を消せとの御命令が下ったのです。我々は貴女方を国賊として処刑しなければなりません故に。」
国賊?!何もしていない人に罪を被せるって本当に言っているの?!日…も上部は中々だったけれどここも中々アフォォオ!だな。領民に優しいと人気のお父さんを国賊扱いってアホすぎる。どうしよう。飛び出して飛び膝蹴りでも食らわすべきかな?
「…」
いやいや飛び膝蹴りなんかしても体格差がありすぎる。こちとら普通の人よりちょっと小さい10歳のクソガキであっちは鍛えてそうな筋肉が洋服に中世っぽい鎧を着てるオジサンだ。脳内シュミしても勝率は40パーセントぐらい。40ならゲームだとしても育成踏まないレベル、それなら手を出さない方が、いいはずだ。わたしにはあのオジサンとお父さんのどちらが強いかなんかわからない。それに大丈夫、両親がわたしよりも「私」よりも先に死ぬなんてありえないんだから。「パパ」は強かった。自衛隊員だったし。それにいまのお父さんは騎士団長なんでしょ?負けるわけないから、戦力外のわたしは、手を出さないほうが、いいよね。例えそれがどんな結末を向かえようとも。
ーーー
友達’sクエスチョン
主人公はチートキャラですか
Answer
人に刃物を向けたことがないのでわかりません。ただし、領地を丸ごと更地にはできます。
わからないですけどもしかしたら次回表現注意