12.
青春群像劇
「これで20戦17勝3敗でわたしの勝ちだね。」
コマが完成してからゲームルールを教えて20回の試合を行った。結果は私の勝ち。なんというか飲み込みはめちゃくちゃ早かった、というかルールを知っているかのようだった。少しの違和感。
でも、弱いところも一緒、か。
「……全染め、このゲーム難しすぎるんだよ。第一頭使って戦うとかわたし苦手だし。ゲームはいつでも脳筋プレイ!銃を手に取りガガガガッ!って敵に弾丸をお見舞い!とりあえず弱点攻撃しとけば属性攻撃とか関係ない。って感じで。」
ナデュラは片手を銃の形にして虚空に向かって空気の弾を撃つポーズをとる。この大陸に銃なんてものは開発されていない。じゃあなぜ知っているのだろうか。
目を見開き少し前のめりになりながらも疑問を問いかける。
「……ナデュラ、さ……、あぶねっ。あの、聞きたいんだけど、そのぉ、銃ってなに?」
なに馬鹿なこと言ってんの?と言わんばかりに首を傾げながら問は返答になり返ってくる。
「銃?銃って言ったら江戸より前に種子島に伝来した……種子島、?種子島ってどこだっけ、ていうか江戸……?」
「安土・桃山時代に現鹿児島県に属する種子島にポルトガル人が伝えた火縄銃のこと、であってる?」
「もしかしたら……それかもしれない。」
まさか、とは思ったけどわたし以外にも転生者(仮)がいるなんて。想像もしてなかったし想像できなかった。できてたら神と呼んでくれ。しかも前世日本人と来た。安土桃山時代のことを理解しているということは少なくとも昭和期以降の人間だろう。前世の記憶とかいうご都合設定を思い出してくれればもっとラッキーなのだが。
「でも、なんで知ってるの?この大陸にはタネガシマもヒナワジュウも存在しない、のに。」
一言置いて覚悟を決める。ふっ、スマホがあったら録音して鬼リピしたいところだね。
「……わたしは、ーーーー年〇月〇日生まれ。地球という惑星にある日本という国の〇〇県出身、享年20、名前は…一青 夜、。火縄銃とか種子島を知っている理由は、日本史の授業で習ったから。わたしは一度死んで再び生を得た、転生者なんだよ。」
「てんせいしゃ?」
「うん。1回日本って国でわたし死んだの。で、生まれ変わった。これが転生。多分ナデュラも転生者の類だと思うんだけど、元は日本人っぽいし。転生前の名前とか死んだ場所とか思い出せたりする?」
こんなん賭け以外の他ならない。さて、問の答えはいかに。
ーーーーーー
日本。現代。高校生。大学生。絵。イラスト。大学。入学式。両親。マンション。1人。バイト。車。夜。事故。轢き逃げ。じゃあ、わたしの名前は……?
「……」
幾度考えても思い出そうとしても「前世」というものは思い出せない。
正確には自分の名前と顔とかなんだけど。友達……はいたのだろうか。家族構成は、何人だ?事故、轢き逃げ……「私」の死因は事故死?ダメだ。これ以上は頭が破裂してパンクする。考えるのやめよう。けど。
「……ー。」
「私」の名前を呼ぶ声がする。死ぬまでの4年間大体ほぼ毎日聞いていたあの声が「私」を呼んでいる。誰?アイスを片手に持っている貴方は誰?ちょっと不機嫌な時に見せるその表情の貴方は誰?冬なのにめちゃくちゃ寒いのに2人分のアイスを買ってくれる貴方は誰?それは一人の友達。同じ駅で降りても違う方向に住む友達。テストではいつも高得点を取る友達。ひとつ年上のくせに童顔の友達。休んだだけで鬼電をしてくる友達。「私」の為にと18禁の同人誌を買ってきてくれる友達。どれも全てが大事な記憶なはずなのに。「私」は貴方がわからない。
放課後、帰り道、暗い夜、路地裏、制服、友達、帽子、自分よりも大きなリュック、小さな背丈、振り返る君は。
キミは
誰?
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あぁ、君だったんだ?
懐かしいよねー放課後に寄ったコンビニで3人でウエハース買って開封してめっちゃ食べたよね。
私は確か10枚くらいで君が5枚、アイツも8枚くらいだっけ?
懐かしいねえ。
てかあの時君が別で開けたウエハースで作ったクッキー?クランチ?めっちゃ美味しかった。また作ってあげるって……ここにウエハースなんてないよ?忘れてたの君。