11.
「できた。これでどう?キミの要望には答えられたわよね?」
はっと振り返りナデュラ様の目線の先を見ると研摩はされていないがわたしがオーダーした通りの者が机に並べられていた。
「…完璧です!ありがとうございます!そうしたらわたし最終の仕上げに入るのでナデュラ様は休んでいてください。」
「わかった。」
ナデュラ様は了承したというように頭を縦にふると長椅子に腰掛け目を閉じた。魔術の使いすぎでさすがに疲れたはずだ。たかがゲームのためにありがとうございますと言いたい。言えたら苦労してないけど。静かな沈黙が部屋を場を包み込む。いや、わたしの作業音がカチャカチャと小さな音を立てているから正確には沈黙ではないのだが。
「私」の嫌いなことのひとつ。1人だけまだ終わっていないこと。それはなぜか。極度のプレッシャーと焦りが「私」を襲うからだ。プレッシャーは手汗を生成する、歳を幾つ重ねても慣れることはないし何年経っても治る気配はなかった。なんでもかんでも1番が1番好きなんだよ。ほんと。愉悦感とか味わえるし。あーだから性格悪いとか言われてたのかな。まぁいいや、もう…昔のことだし。
「よっし、あとはさっきの草花を潰して染料にして水加えて染めるだけ、と。」
そういえば、とふと大事なことを思い出す。紙に、線書いてしもてたわ、なにやってんだろ。染めようと思ってたのにばかみたーい。緑に染めたら黒なんて見えなくなるに決まってんじゃん…あーやらかした。
「新しい紙…紙、できればさっきのと同じのがいいな、和紙っぽい紙、これペンで書いたなら消せばいいって思うじゃん、消しゴムという概念がこの世界にないんですよねぇ、てかインクだし、これ、はぁ。クソな世界だ…シャーペンという概念もないから余計オワコンオワコン…。」
(オワコン オワコン オワコンッテ ナニ?)
「終わったコンテンツの略称のことだよ…あー紙、紙、」
「…」
とはいえだ。人様の家でガサゴソとどろぼーみたいなことをしてなにかやばいものでも押したり踏んだり蹴ったり殴ったりしても困るし、あんまり気乗りしないけどナデュラ様に聞くのがベスト…なわけでして、あーすごくやりたくないけど待たせるのも自分が許せなくなるし…
「え、あ、その、あの、えっ、と、」
「…ナニ?」
コワイ。カエリタイデス。
「その…さっきの材質のような紙ってまだ残ってないですか、ね、ホントはナデュラ様の御手を煩わせまいと自分で探していたんですがちょっと見当たらなくて…」
「…まぁそうよね?貴族の、ましては魔王様の住まう城なんて役人風情が住めるような場所じゃないものね?失念でしたわ。紙はっと、先程染めると言っていたしちょっと材質は違うけど色が染まりやすい紙よ。これ使って。」
どこにそんなものが入るスペースがあったのかよくわからないがナデュラ様はポケットからポーチのようなものを取り出し絶対に中は四次元であろうポーチから和紙っぽい紙を1枚引っ張りだした。というか、さっきからナデュラ様の口調が迷子になっているようだが今のところは気にしないでおこうと思う。
「ありがとうございます!では早速作業に取り掛かります!もしよろしければ見て頂いても大丈夫ですよ。」
「…そこまで言うなら見てあげる!」
苦笑いを浮かべながらも早速作業に取り掛かろう。まずは先程召喚した野花をすり潰すのだが手でやると時間も労力も使うのでせっかくだし魔術を使ってみることにしよう。
「…よし、」
【緑の大地に散る無数の命よ、
その色彩を精霊の力に委ねよ。
いたずらに繁る雑草たちよ、
その命を甘く、優しく潰し、
魔術の染料に姿を変えよ。
風よ、私の囁きを運び、
虹色の彩りを紡ぎ出せ。
ティネロ・エン・ラー・アシューウルズ】
……魔術とは本来こういうものなんです。厨二っぽいセリフを並べて媒介を介してどやぁぁぁあって言う。めっちゃ恥ずかしいけどこの世界ではこれが普通だから無の顔でやり遂げる。
そうだ、媒介の説明をしようか。魔族という例外中の例外をのぞいて魔術を扱う際は媒介を必要とする。これがないと魔術陣を発動できない。いくら魔力あろうとも、これ超重要。テストにでます。特にこれでないといけないという制限はないから自分の気に入ったもので全然OK。私の場合はその時近くにいた精霊が媒介だ。ま、二アドなので精霊に魔力を送ってもは怒らない。だから全く問題はない。獣人族なんかは自身の身体を媒介にするやつが多い。ちなみに人間はなんもできないじゃん!と思われがちだが魔石を用いた魔導具を作り扱うことができる。これは予め陣が組み込まれたものであり使用回数には限りがある。街灯なんかはほとんどが魔導具で作られているし火をつけるのだって火打石の進化系みたいな魔導具があるから生活になんも支障はない。説明が下手くそで申し訳ないけどはい戻りますよ。
「おっけ、あとは水に染料を溶かして…」
両手を絵本のように広げ唱える。
『わたしは 両手いっぱいに水が欲しい
それは宙に浮け』
(ハイヨッ)
精霊は水の色の粉を撒き散らしながら踊る。
(オイデマセ!…デ アッテタッケ?フェーテ?)
「あってるあってる。」
昔教えた言葉をさっそく多用する精霊。うーんめっちゃかわいい。
空中に穴が空いたかのように枯れた泉から水が湧くように,もしくは滝が上から流れ落ちてくるように,水が溜まってゆく。徐々にたまりゆく水は願ったとおりに宙に浮きその空間だけ無重力となる。形を丸に保ち浮いているのだから無重力状態でないというならなんというのだ。魔法?奇跡?魔術でも浮遊はあるにはあるが液体状のものは持ち上げることはできない。
第一この大陸に魔術師とかいうのが何人存在しているのか。使える種族は人間以外、となるとエルフ、魔族、獣人、シュテアン、オートマティアとなるわけだ。この中でもエルフは精霊術が使えるから魔術とかいう非効率なものは使わないということで論外。魔族は下級魔族は1種類しか使うことが出来ない。が、使うことは使う。獣人は使うには使うが血の魔術だ。自身に流れる血に魔力を流し身体強化をする。人間離れした跳躍力、人間離れした攻撃力、人間離れしたetc…。攻撃は物理なことが多いから対象だけど論外に近いグレーゾーン。無意識に使用していることが多いと聞くしね。シュテアンとオートマティアは生態すらわからないからなんとも言えない。勝手な推測だけどオートマティアはからくりの種族だと予想。うんありそう。なんとなくだけど。魔術は…使うのかな。わからん。機械があれば色々と魔術よりも上回ってるだろうし。シュテアンは天使と予測。最早願望。天使の美少女、美女はよくアニメとか漫画でみてきたけどイケメンは見たことないし。気になるからね。
結論だけどきちんと魔術を使う種族は今のところ魔族だけである。魔族はそんなに数が多いわけでもない。人間と同じくらいだから大体300万くらい?私が死んだ時の東京都の人口が1,400万人くらいだったから1/5くらいか。こう考えてみたら結構多いかも。すみませんでした。
宙に作り出した水池に先程作った染料のモトを入れて混ぜる。完全に色が混ざったら昔御空に教えてもらったように紙をそっと色液にひたす。あとは待って風で乾かしたら出来上がりだ。この感じだと5分ぐらいでできそうだからナデュラ様が作ってくれたコマの裏面に色でも塗って待ってよう。机の上に置かれたペンを手に取りインクを付けて石を塗る。工作っぽくて懐かしい、この感じ。
「……わたしも手伝う。どうせ一緒にこの後ゲームするんでしょ?だったらわたしもやるのがマナーだからね。」
「あ、りがとうございます、」
「あと、さっきまではごめんなさい。なんかよくわからない喋り方とかして。別に君のこと小馬鹿にしてるとかじゃないから。人間ってどういう種族なのか気になってたから試してみたくて。なんかもうわかったから辞めた。あとわたしに様は不要よ。で、これから友達ね。」
「あ、はい。ナ、デュラ……さん。と、友達……」
先程からキャラがブレてたナデュラはめんどくさくなってお貴族アピールはやめたようだ。喋りにくいし面倒くさそうな性格だしやめてくれて寧ろこちらからありがとうと言いたい。というか展開早いな。友達とかってこうやって作るものだったっけ、友達とか全然いなかったからわかんないや。
今やっていることをナデュラに教え、作業を2人で進める。色を石に落として机に置く。また色を、と何度も何度も。無言になるような作業だから作業ASMRのような空間がうまれる。
「夜!」
ふと、脳内に再生された「私」の名前。それは彼女が呼ぶ「私」の名前。なんで今ここで?ホームシックなのかな。友達が呼ぶ自分の名前でホームシックとか馬鹿だろそんなわけない。とか色々考えてやがてひとつの答えに辿り着く。言葉遣いとかは今のところ似ている要素はないん、だけど。似ていて欲しい、そんなことを思うのはダメなことだろうか、と。
わたしは動かす手を止めて対面に座る似て非なる「友達」の姿を瞳に映した。
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自分で書いてて困ってくる内容。早く突破したい。
次回。ネタバレ。