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ヤツら

 騒がしい教室のドアがガラリと開く。

 三人は入ってくると、一人は教卓につき、二人は席についた。

 この時間の題目は『魔法史』である。


 平たく言えば歴史について学ぶ時間であるが、先生はまず魔法とはなにか、加えて転生者とな何かというところから授業を開始した。


「まず、我々が魔法を発明した直接的な原因とは、魔物にあって人間にないもの。魔力を操る器官である『核』が存在しないことが直接の原因である。その器官を持つ魔物は人間のように杖がなくとも、自在に魔力を操ることができる。」


 先生は自分の心臓を指差すと、


「…人間で言うところの心臓の付近にその器官は存在し、そこから血液のように全身に魔力を供給することができる。」


 『核』、と黒板に書き出すヘンダーソン先生。

 その横に、『人類にはない器官』という説明も追加した。


「人類の定義を知っているか?」


 ふと、生徒たちに質問を投げかける。

 ピリっとした空気がながれ、生徒たちは皆必死になって先生から目をそらした。

 

 先生が誰か適当に当てようと教室を見渡していたところ、町の子供達のリーダーであるスミスが率先して挙手した。


「えー…っと、他の動物よりも賢い存在のことだと思います。」


 曖昧な回答であったが、先生は否定することをしない。


「それは、確かに人間の説明としては正しい。ただし、『定義』ではない。いいか、人類とは『核を持たない生物』の総称だ。神代の歴史家アザールはそのように人類を定義した。」


 人類の定義とは核を持たない生物であること。

 もちろん、例外はある。先生はそのように前置きを挟んだ上でさらに続ける。


「歴史家アザールの時代にはまだほとんど存在しなかった、核を持ってこの世界に現れる人形の生物。その存在を我々は『転生者』とよび、人類とは異なるものとした。そして、今日に至る。」


 ちらり、リーゼとラケルの方を覗き見る。

 二人は転生者という単語に反応して表情がすこしだけこわばった。


「転生者は核を持ち、魔物たちと同様に強大な魔力を杖無しで自由に変化させることができる。当時の人類は彼らを人類ではないものとして決めつけ、抑圧し、奴隷のごとく扱った。ただ核を持っているだけで、抑圧され、迫害されていた。」


 ラケルの父親や、リーゼの母親が受けてきたであろう抑圧の原因を先生は説明する。

 

 神代とはとどのつまり、神々が人類と魔物を支配していた時代だ。

 先生は神代から魔物と人類の二強時代への変遷といった歴史を語るより先に転生者の話を生徒にしたのだ。


 そして、


「ではお前たちに再び聞こう。人類とは一体何ものだ?核を持っているだけで街には住めず、生涯を奴隷や使い捨ての兵士として終える。転生者は人類ではないと思うか?」


 今の子供達はラケルやリーゼを含めて、転生者の出てきた当初の迫害などは知る由もない。

 

 しかし、魔導師であった先生だったからこそ、転生者の存在に思うこともあったのであろう。

 ましてや、転生者の子供がクラスに二人もいるからこそ、先生は生徒に再び問いかけたのかもしれない。

 

「……」


 沈黙と夕焼けがクラスを包み込む。

 

 そこでスミスは再び挙手した。

 今度ははっきりとした意思表示をもって。


「僕の両親は転生者に殺されました。」


 スミスの発言で場が更に凍りついた。 

 とはいっても、クラスの皆はスミスの家庭事情を知っている様子で、知らないのはラケルとリーゼくらいの様子であった。

 

「……転生者に殺された?」


 ラケルがスミスに思わず声をかける。

 スミスは頷き、行き場のない憎しみや恨みを瞳に宿した。


「……。一年前、突然の来客が家に来たんだ。両親がドアに迎えに行って、不審がることもせずにドアを開けた。『どうせモエナ町の人間だろう』ってな。」


 スミスはそう言って拳を握りしめた。 

 そして、


「その男は、自分が商人だと言った。それで商品を見せに来たと言って、両親に握手を求めたんだ。そして、なんの疑いもしなかった母さんと父さんは、両方が同時に焼かれた。杖なんて持っていない相手だったから、魔法を使って攻撃してくるなんて誰も疑わなかったんだ。」


 言い終わったスミスを横目に、リーゼが教室から出ていこうとしているところがラケルの視界に入る。


「おい。どこへ行く。リーゼ・フースイ。」


 ヘンダーソン先生がすぐに呼び止める。

 リーゼはあくびを一つして、


「だって……ふぁぁ……もう授業の時間は終わりじゃないですか。スミス君の親が燃やされた話は、授業でもなんでもないじゃないですかぁ……。」


 いかにも寝不足だと言わんばかりのリーゼに周りは呆れ果てている。

 スミスも例外ではなかったようで、自分の親が侮辱されたように感じた様子だ。


「お前……俺の親が殺された話じゃ眠気覚ましにもならなかったってのか?あ?お前はどう思うんだよ!転生者なんて全員クソくらえだ!畜生!」 


 机を蹴り上げんと立ち上がるスミスに、教室中が注目する。リーゼも例外ではない。


「転生者が全員悪い人だったら、今頃私達がこうやって自由に暮らせる時代なんて来てないでしょ。私の親だって転生者なんだ。でも、誰かを傷つけているところなんて見たことないし、お母さんは絶対にそんなことはしないよ。ねぇ、ラケルも親が転生者なんだったらわかるんじゃない?」


 ラケルに突然、火の粉が降りかかってきた。

 火の粉というよりこれはもはや爆弾だ。


 転生者を心の底から憎んでいるスミスに対して、転生者の子供であるとリーゼが一人でカミングアウトする分には別にラケルもどうでも良かった。

 

「……?リーゼとラケルは、親が転生者なのかい?」


 スミスが、いやクラス中がラケルとリーゼの言動に注目している。

 もとよりこの町の人間ではなかった二人ということもあり、それが二人が転生者の子供であるという証拠となっていた。

 

「ああ……そうだよ。俺の父親は転生者だ。だからって、お前の父親を殺した犯人と同じにしてほしくはねぇよ。俺の父さんだって、普段は近所の子供に魔法を教えたり、昼間で寝てるだけのただのグータラ人間だからな。」


 スミスは驚いた表情を浮かべるも、すぐに平常心に戻って言った。


「すまないが、魔法を教えて貰う約束はなしだ。キミが転生者の子供だとわかったら、もう口をきく気も、関わる気も失せたよ。転生者に良いも悪いもない。奴らは単に『クソ』だ。あいつらは前町長を……僕の両親を生きたまま燃やして殺したんだ。この世界になんの思い入れもない転生者やつらが、この世界の人間を大切に思っていると思うかい?」


 ラケルのことを指さして、スミス。


「そこまでだ、スミス・ミクセル。授業はここまでにする。お前たちはとっとと帰れ。」


 先生の一言で授業は半ば強制的に解散となった。 

 ただ、スミスとラケルの間に決定的な隔たりが生じることになってしまったのであった。

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