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魔力計測器

 ラケルは一旦父親と別れ、町外れにある小さな魔法学校の校門に立っていた。

 魔力が外にもれないように、結界で封鎖されている空間の中ではラケルより少し年上の子どもたちが魔法を練習している。


「ラケル、またせたな!」


 振り返るとそこに父親がいた。

 右手に目線を移すと、父親はそこにパンパンになった革袋を持っていた。


「それ、何が入ってるの?」


「ああ、見てみるか?びっくりするぞ―」


 父親はかがんでラケルの前に革袋を差し出した。

 中を覗くより先に、ジャランという金属音が耳に飛び込んでくる。


「これって、全部お金?」


 驚いた様子のラケルを見て父親はニヤリと笑うと、


「そうだよ。これでお前の入学準備を全部終わらせる。任せとけ!」


 ポカンとしているラケルをよそに商店街の方へとあるき出した父親を小走りで追いかける。

 ラケルは一抹の不安がよぎったので、思い切ってそれをぶつけてみることにした。


「まさか、今の一瞬で強盗とかしてないよね?」


 それを聞いて父親は一笑、ラケルの頭をポンと触って、


「そんなわけがなかろう。ただ冒険者やってた頃にどっかで手に入れた素材を売っただけだよ。『天使の羽』って知ってるか?この世界には天使ってやつがいて、そいつの翼から落ちてたの拾ったんだよ。」


 先程の問答を思い出して、もう一度父親はニヤリと笑って、


「天使の羽を素材ショップで売ったら、店主の目玉が飛び出してたぞ。『家宝にしますー!!!』とかいってな。」


 ラケルもホッとしたと同時に、申し訳ない気持ちも少しだけ抱くと、


「それ、大事なものだったんじゃないの?」


 タクに問いかける。

 すると、父親タクは特に考えるでもなく即座に返答する。


「息子の入学準備より大事なものはない。父さんの素材コレクションを舐めるなよ?こんなもんじゃないんだからな。」


 いつもヘラヘラとして掴みどころのない父親がここまで言い切ることは珍しかった。

 ラケルもそれ以上は詮索することもなく、


「じゃー、まずはここから行こうかな!」


 そう言ってラケルが立ち止まったのは、この町一番の魔導具ショップだった。


「お、まずは魔導具か!まー、なにか欲しい物があったらじゃんじゃん俺に伝えてくれ。そういえば、こういう店に入るのは久しぶりだなぁ。」


 いざ入ってみると、そこはタクの前世で言うところの「土産物屋」のような雰囲気で、なにか不必要なものまで買ってしまいそうな、独特の雰囲気を醸している。

 薄暗い店内に所狭しと並んだ道具は、魔法の杖から怪しげな細工をされた石、道具以外でも謎の生物が暗闇からこちらを覗いていたりと、『一見さんお断り感』が凄まじい。


「らっしゃい!入学おめでとうございます、ってところですかい?旦那?」


、奥からふくよかな店主がのそのそと出てきた。

 聞くと、ラケルのような子がこの時期はよく来るらしい。


「ま、そんなところだな。ちょっとはサービスしてくれよ?」


「当店、品揃えはモエナ一番を自負してますんでね。まあ見てって下さいや。たくさん買ってくれたらサービスもするかも?」


 それを聞いてタクは無造作にカバンを物色し、ラケルにクシャクシャになった入学資料を投げ渡すと、


「お前のほうが色々わかってるだろ?後は任せるよ。」


「人任せだなぁ…ちょっとは探すの手伝ってくれてもいいんじゃない?」


 不満を垂れ流すラケルに不敵な笑みで返し、


「でも、お前その入学のしおり、滅茶苦茶読み込んでるだろ?」


 ラケルは頬を少し赤くすると、きまり悪そうに黙って店内を見回していった。


「旦那はいいので?」


 暇そうな店主が横に来て父親に話しかけてくる。


「あー、俺はいいや。間に合ってる。」


 そーですか、と店主はうなずく。

 しかし、ちょっと時間をあけるとすぐになにかの瓶みたいなものを持ってきてタクの方に見せる。


「これとかどうですかい?その名も女神の微笑み。この魔法瓶を飲めば三時間はカチカチで奥さんも大満足。」


 このセクハラ店主が。

 子供の前じゃないだけまだよかったと思いながら、


「あいにく妻とは別居中でね。勘違いすんなよ?仲は良好だ。」


「へえへえ。詮索はしませんよ、と。」


 やれやれ、と言わんばかりのジェスチャーを示す店主をよそに、


「それより、その魔法瓶。その色にその匂い。察するにフィオナの涙を使ってるだろ?どこで手に入れたんだ?」


 店主は驚きを隠せない表情で、


「よ、よくご存知ですね。旦那。俺も昔はこう見えて魔導師やってましてね。そのときに知り合いから手に入れたんでさぁ。しかし、色欲心フィオナ。見ただけで男はみな生気を吸い取られてしまうとか…俺もひと目見てみたいですねぇ…」


 店主は絶世の美人を想像してお腹をポンと叩いた。

 タクは、店主が魔導師をしていたことが半ば信じられない様子で、


「おいおい。魔導師ってのは超優秀な魔法使いがなれる、エリート職業だぞ?とっとと酒を抜いてこいよ、おっさん。」


 店主は笑って、


「そういうあんたも、フィオナの涙なんて代物知ってるってことは、神話時代の戦争経験者でしょう。戦場に出て戦ってたんですかい?」

 

 何気ない様子でタクに尋ねる。

 タクはいつもどおりの様子で、飄々とした態度を崩すことなく、


「まあ、そんなとこだ。フィオナも見たことあるけど、そこまでかわいいもんじゃなかったぜ。」


「まるで戦ったことがあるみたいな言い草ですねぃ。フィオナは大勇者タクが倒したって噂ですけど、まさか本人さんで?」


 冗談めいた口調で店主が言う。

 タクは急に焦った様子を見せ、


「あ、いや、フィオナがどんだけ可愛かろうが、うちの嫁さんには敵わないって話をしてたんだ。」


 店主はそれを聞いて何やら満足げにうなずいて、なにやら困った様子のラケルの方へ向かっていった。


「坊っちゃん、大丈夫ですかい?」

 

 何やら困った様子のラケルに店主は優しく声をかける。

 ラケルは店主の存在に気がつくと、目の前においてある魔法の杖を指さして、

 

「この表示ってどういうことなんですかね?」


 ラケルが指していたのは、魔法を使うための杖に貼り付けられたタグである。

 そこには「M30~50」と記されていた。


「あー、これは推奨されるマナの値ですな。個人の持ってるマナの量がだいたいこのくらいの人向けの杖ってことでさぁ。」


 ラケルはなおピンと来ていない表情をしている。

 

「よかったら、測ってみますかい?マナの量。」


 店主の提案にラケルは静かにうなずく。

 すると、店主は店の奥からアーケードゲーム機のような見た目の装置に、水晶が取り付けられたものを引っ張り出してくると、


「しっかし、今どき自分の魔力量を測らない子もいるんですねぇ。」


 少し驚いた様子で父親に声をかける。

 すると、奥から父親が、


「最近だと自分の魔力量を測るのが普通なのか?」


 店主はこくりと頷き、


「まー、神代でもない限りみんな生まれたときにでも測ってると思いますよ。旦那や俺の時代には知っていようが知るまいが、全部同じ規格の杖を使ってましたから。」


 言いながら、店主は装置の設定を終えたのか、ラケルに椅子に座るよう促した。


「じゃ、坊っちゃん。この水晶に手をかざしてくれるかい?」


 ラケルはいわれるまま手を振りかざす。

 水晶はしばらく白く光り輝くと、4つほどついているなにかの指針が激しく動き始めた。


「おい…大丈夫なのかこれ?」


 アーケードゲーム機で言うところの画面に当たる部分に埋め込まれた計器が全てグルグルと目まぐるしく回っている。


「若干時間はかかりまさぁ。あと十秒もすれば…」


 言っている間に装置が落ち着きを取り戻した。

 計器の指針を読み取り、横に付属していた早見表に書かれた数値を何度か見比べる。


「ほい…マナ値は80ってところですねぃ。」


 計器とマナの早見表を見ながら店主がつぶやく。


「それって、どうなの?高い?」


 ラケルが椅子に座って床に届かない足をパタつかせて聞く。

 店主は首を横に振ると、


「だめでさぁ…」


「ありゃー…結構低い感じ?」


 タク本人でさえも自分の魔力量など知らない。

 不安になって店主の顔を伺うと、


「こいつは、もう故障してますなぁ…。」


 装置をバンバンと叩いて店主は言い放つ。

 マナ値ってのはね…とはじめ、


「子供の頃は良くて30とかですよ。普通は5から20ってところです。そこから学校で魔法を練習して、マナ値は上がっていくもんでさぁ。80なんてそんなの…魔法院卒業クラスになっちゃいます。」


 魔法院というのは現世で言うところの大学院のようなところである。

 ラケルと父親は、マナ値の話はひとまず先においておいて、店主が勧めた初心者用の杖を購入することにした。


「ま、ここ数年使ってなかったんで仕方ないでさぁ。坊っちゃん、なにか必要になったらまたおいで~」


 ラケルは加えて他の入学装備一式を揃え、店をあとにした。

 父親タクはお釣りでもらった数枚の硬貨をチャラチャラしながら、

 

「しっかし、適当なおっちゃんだったなぁ…。」


 一方で、ラケルは満足げな顔でいっぱいの商品袋を両手で持ちながら、


「でも、楽しかった。父さん、ありがとう!」


 …ま、良しとするか。


 夕日を背中に受けて、二人は買い出しを終えて街を出た。


 

 一方で、ラケルを見送った後店主は鼻歌交じりに先程の親子のことを考えていた。

 せっかく時間を取ったのにもかかわらずマナ計測装置が故障していたのは申し訳なかったなぁ、と。


「…どれ、せっかくだし、な。」


 店主も自分のマナ値を計測する。

 結果。マナ値、40。数年前測ったときからマイナス2を記録。

 

「…フフッ。俺も衰えたもんだ。あんなキッズにマナ値で負けちまうなんて。」


 笑って装置を店頭に再び配列し、店主は腹をポンと叩いた。

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