『転生・大魔法』
タクが放った渾身の一撃は、たしかにドラゴンを捉えていた。
ドラゴンの巨体を覆い尽くさんばかりの魔法の光線は、強靭な鱗を貫通するというよりも、ドラゴン全体をこの大地から切り取らんばかりの勢いであった。
「やった……か?」
魔法が放たれたことで生じる風が周囲の砂を巻き上げ、ドラゴンの巨躯は視認できない。
しかし、リュブリナがフラグを立てたことからもタクは決して油断することはなく、
「そういうことは倒したときまで言わないお約束だろ!とりあえずは、ドラゴンの様子を確認したい。リュブリナ、あたりの風塵をどかしてくれるか?」
タクに頼まれ、リュブリナは杖に魔力を込めて突風を巻き起こす。
そして、二人の先に現れたのはやはりドラゴンだった。
しかし、見るからに手負いである。むしろあの一撃をもって耐えることができているドラゴンの生命力に驚かされるが、鱗は剥がれていて随所から黒い血液が流れ出している。
「……仕留めきれなかったか。」
タクは悔しそうに舌を打った。
手負いのドラゴンはこちらを見つめ、なにか言いたげなようすだが、魔物は何も話すことはないし、そもそも話せない。
しかし、リュブリナにはなんとなく言いたいことがわかるような気がしていた。
「待ってろ。今楽にしてやる。」
再び杖をギュッと握りしめるリュブリナ。
今度はドラゴンも黙って魔法を受けることはしそうもない。
翼をひらりと地面に打ち付けるように上下させ、一気に上昇した。
「待て!『大魔法』!」
しかし、思ったよりもドラゴンが飛び去るスピードは早く、すでに見上げるほどの高度まで彼我の距離は遠ざかっていた。
リュブリナもドラゴンがあまりの速度で飛び去るために距離感を履き違えたのか、ドラゴンに到達する前に魔法は収束して消え去ってしまった。
「無理するな。慣れない防御魔法で魔力を使いすぎた。俺がやる……ってなんだ、この杖!?」
タクもリュブリナにならって杖を構えるも、魔力を魔法に変換するための魔導石は砕け、さらには木製の杖は先端から花弁のように4つに裂けてしまっていた。
「……無理もない。あれだけの魔法を撃ったんだ。杖だって砕けるだろう。問題はあのドラゴンだ。手負いの状態でおそらく放っておいても死に至るだろうが、最期に何をしでかすかわからん。実際、あいつは今モエナ町の方へ向かっている。」
リュブリナに言われてタクも我に返る。
杖が砕けたショックにまさる衝撃が走り、ドラゴンの方をみるとたしかにモエナ町の方へ向かっていた。
「最期にモエナ町を地図から消して、自分も消えるってか?ハッ!冗談きついぜ、全く。」
レイジからの通信はない。
こうなっては、自分たちで判断するしかないが、
「リュブリナ、杖を貸せ。ここからでも届く魔法があるか試してみる。」
そう言ってリュブリナから杖を半ば強奪するような形で借りて、タクは魔力を込めた。
魔導石がぼうっと赤く光った後、
『大魔法』
『貫通』
タクはやはり、放たれた魔法に属性を追加する。
先程は『貫通』に加えて『拡散』も加えていたが、流石に疲れているのかそこまでの余裕はなさそうだ。
今度は遠距離用に焦点を絞り、細い魔導弾を持ってドラゴンに着弾することには成功した。
しかし、貫通属性をもってしてもドラゴンの飛行速度が落ちるくらいで、決定打に至ることはなさそうである。
「……厳しいか。タク、お前も先程の魔法で魔力を消耗しているのだろう?急いでレイジと合流しよう。そこから策を練って少しでも被害が抑えられるように……っておい、あのドラゴンを見てみろ。」
リュブリナが指差す先のドラゴンは、すでに肉眼で視認できるギリギリのラインであったが、何をしようとしているのか一目でわかった。
「モエナ町に向けて魔法をぶち込もうとしてるのか?」
ドラゴンが向いている方向は間違えなくモエナだ。
すでにモエナまで向かう体力もないと自覚したのか、ドラゴンは上空からモエナ町を吹き飛ばそうとして飛行する傍らで口を大きく開け、魔力を循環させている。
「これは……まずいな。」
リュブリナはポツリと呟いた。確かに、これはマズい。
レイジとがこちらに魔法で通信してくることもないし、そもそも通信があったところでどうこうできるような問題でもなくなっている。
片膝をついたリュブリナ。そこに、タクから杖が返された。
まるでタク自身にはもういらなくなったものであるかのように。
「お前……わかっているのか?杖を使わずに魔法を撃ったら、私はお前を本当にお前を捕まえて、牢屋に送り込まなくてはいけなくなってしまうんだぞ?」
リュブリナは鬼気迫る表情で言った。
これまではなんとか杖ありでやってきたタクであったが、タクの杖はもう砕けてしまっている。
「……仕方ないだろ。これ以外にどうやってドラゴンを殺す?モエナ町を守る?」
タクは覚悟を決めた様子でリュブリナに返す。
「……。」
リュブリナは何も言えなかった。自分にあのドラゴンまで届く魔法があれば。そもそもの魔力量がもっと高ければ。
後悔にも似た自責の念が脳内でこだまする。
「……いいんだな、本当に?」
リュブリナは最後に確認する。
「限定解除。」
リュブリナを振り返り、タクがうなずく。
タクが体内で魔力を循環させている証拠に、その瞳は黒から薄い黄色に変色していた。
「息子に学校に行かせる。父親として当然の義務を果たすまでだ。だから、モエナ町は潰させねぇ。」
右手をドラゴンの方に向ける。
すると、五重の魔法陣が生成された。
一つ一つの魔法陣にはそれぞれ、『貫通』『衝撃』『爆裂』『腐敗』『拡散』と刻まれている。
「五重の属性攻撃なんて、人間業じゃないな。」
リュブリナは呟いたが、その声はタクには届かない。
『転生・大魔法』
タクが杖を使わずに放つ最強の魔法が、今度は確かにドラゴンを塵へと返したのであった。




