領邦魔導師
『タクさん、リュブリナさん、ドラゴンの詳細な位置が判明したっス!』
目先の魔物二匹を討伐したあと、レイジの声が頭に反響した。
「おい、頭の中で響いてるこの不快な声は誰だよ?」
リュブリナは静かに、という意味を込めた人差し指を口の前で立てるジェスチャーを見せた。
それに従い、タクは口をつぐむと、再びレイジの声が頭に響く。
『件のはぐれドラゴン『エンゼル』は、二人の居るところから一キロ前方に着地したっぽいっス。そのまま真っすぐ進んでください。もしドラゴンが動けばこちらから連絡しますんで~!』
そう言って頭の中での声は途絶えた。
「あれはレイジの遠隔魔法だ。一方的に声を届けることしかできないから、お前の声はレイジには届かん。」
そう言ってリュブリナは前にあるき出した。
「俺の知ってるテレパシー魔法よりも音質が良くなってるなぁ……。これが技術革新ってやつか。ドラゴンが前方一キロにいるっていってたっけ?」
タクはレイジが言っていたことを確かめるように、前方を見て目を凝らす。
ドラゴンの姿は流石に視認できないものの、何匹かの魔物が周囲をうろついているのが見える。
タクはあぐらを崩して立ち上がり、リュブリナの歩いた後を追っていく。
しかし、また歩くのか。足取りが重いタクの心象を知ってか、
「ここまでの山登りと歩きが一番つらかったと、私に思わせてくれよ?ドラゴンを討伐するほうがお前にとっては簡単だろう。早く任務を全うして、息子に魔法でも教えてやれ。あれは逸材だ。天才と言っても過言じゃない。」
唐突にラケルのことを褒めだしたリュブリナ。
タクは自信満々で胸を張って、
「当たり前だろ。俺の息子だからな。」
嬉しそうな表情を隠すこともせずに言い放った。
「そういえば、お前の息子が言っていた。父は周りの家の子供達には魔法を教えるが、自分には教えてくれない。と。それにはなにか理由でもあるのか?」
リュブリナは、魔法の授業をしに学校へ行ったとき、授業後にラケルと話したときのことを思い出した。
タクはぎくり、と身をふるわせ、
「い、いやー。やっぱりラケルは一人で魔法の練習をするのが最近のマイブームっぽい感じだし?俺としても、ラケルには一人でできるところまで試行錯誤してほしいわけだし?」
タクは内心ビクビクしながら、リュブリナに対して返答する。
リュブリナはギラリ、と目を光らせて、
「そして、こうも言っていた。『父は周りの子供達に魔法を教えて、その代わりに報酬として小遣いをせびっているんです』と。『その金で酒屋へ言っては飲んだくれているんです』とも言っていた。」
ビクビクしていたタクの肌に、鳥肌がざわざわとたつ。
リュブリナはため息を大きくつき、
「……まあ、たまには魔法を教えてやれ。魔法の教育は、早ければ早いほど優秀な魔導師になれるからな。それよりも、前方の魔物を殲滅するのが先だ。先程と同じ要領で、私が前衛、お前がサポートだ。いくぞ!」
リュブリナが杖を構えて走り出すのを見ながら、タクは考える。
自分がラケルに教えた魔法は、一体いくつあっただろうか、と。
今思えば、ラケルと別れる前に見せた晴天・奇跡を含めても、右手で数える程しか教えてやった魔法がない。
もちろん、ラケルの才能は父親であるタクが最もしっている。
それにラケルは転生者タクの息子であるから、当然『核』を持っている。
つまり、核を持たない人間よりも遥かに魔力を運用する能力が生まれながらにして発達している。
その上に、生まれ持った魔力量も申し分ない。
しかし、タクは、
「……関係ないさ、魔法ができるのと、魔導師になることは。」
ぼそり、とつぶやく。
その発言はトスカ盆地の吹きすさんでいる風にかき消されてしまった。
「なんだって?」
リュブリナの問いかけにわざわざタクは本心を話すわけもなく、
「いーや、なんでもねぇよ。ラケルに魔法の才能があるとおもってんなら、お前がラケルに魔法をおしえやがれ。俺は近所のガキどもから小遣いを巻き上げるほうが得意なんでなー。」
迫りくる魔物からの攻撃を捌きながら、タクはリュブリナに話す。
同じく、魔物に対して攻撃魔法を叩き込みながら、リュブリナは、
「バカが!魔導師はな、忙しいんだ!特に領邦魔導師は魔法の研究に犯罪者の取り締まり、それに加えて……」
鳥の魔物三体がリュブリナの上を取り、一斉に襲いかかった。
リュブリナは焦ることもなく、ただ杖を構えて、
『大魔法・拡散!!』
セーブしていた魔力放出をここで解放、拡散した魔法弾が魔物に対して絶大なダメージを与えた。
それを見て致命傷を逃れた魔物がリュブリナと距離を取る。
そして先程のように、後ろで鼻をほじっているだけのタクに襲いかかる。
しかし、そこはリュブリナ。先程と同じ失敗はしないと、自分が発した魔法をうまく曲げて魔物に当てることで対処する。
戦闘が一段落したのち、
「……こうやって、領邦に暮らしている人々が安心して暮らせるように、魔物を狩り続けなければならん危険な職業だ。もちろん、それが転生者であろうと、鼻をほじっているだけのズボラなやつであろうと、領邦内でルールを守っている限りは、我々領邦魔導師はお前を守る義務がある。」
決め顔をバッチリとするリュブリナを見て、タクは鼻をほじる小指をポンと抜いて、
「いやー……そもそも、俺はさっきお前が逃した魔法で死にかけたし、そもそも俺、その『危険な職業』である領邦魔導師が危険認定してる任務に参加させられてる時点で守られてなくない?」
リュブリナはギクリ、と一瞬焦りを見せたものの、すぐに取り繕って、
「ま、まああれだ。必要とあらば使えるものは何でも使う。これもまた領邦魔導師だ。」
「答えになってねぇよ。」
こいつ、ちゃんとしているようにみえてツメが甘くないか?
タクは疑いの目をリュブリナに向けながら、ドラゴンへの道のりを急ぐのであった。




