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入学準備

 息子が魔法学校へ入学するに当たって、父親であるタクは色々な準備を進める必要がある。


「えーっと、魔導具、近接武器、それに制服やら教科書…。父さんが使ってたもので使いまわせそうなものは再利用すればいいんじゃないか?ラケル?」


 ラケルはむすーっと嫌な顔をすると、


「えー……父さんが使ってた魔導具って、もうすごく型落ちしてるものじゃないの?そもそも父さんが勇者として活躍してたのって三十年前のことでしょ?そんな道具を使ってたら周りのみんなに笑われちゃうよ!」


 内心、ショックを受けつつもそれを隠しながら、父親は息子に落ち着いた口調で語りかける。


「息子よ。父さんが勇者の中でも、『大勇者』だったってこと忘れてないか?父さんの使ってた道具なんて、場合によってはお金を出してでも使いたいって人もいるんだぞ?いや、いるはずだ。」 


 勇者自体は数多くいるものの、その中でも自分は特別であるとラケルに誇示するようにタクは言う。

 しかしながら、その姿にはどこか自信がなさそうだ。


「ちょっと自信ないのやめてよ…っていうか、僕はどのみち新品がいいんだよ!」


 息子がここまでゴネるのも珍しい。

 そこまで言われてしまっては仕方がないので、すべての魔導具、近接武器、制服やら教科書やらを店で買うとしたらいくら掛かるのかを試算してみると……


(いや、桁、おかしくない???)


 ゼロが並んでいる。信じられないくらい。

 

 いくら元勇者といえど、もうすでに引退した身なので、収入もろくになく、貯金を切り崩してほそぼそ暮らしてきたラケルの家庭事情的に非常に厳しい。


「父さん…ごめん、ワガママ言っちゃって。うちにはあんまり、お金ないよね。」


 息子にそれを察されてしまうと、慌てたようにタクは取り繕って、


「な…何を言ってるんだ、ラケル!気にするんじゃないよそんなことを!」


 ポンと息子の方を叩き、ほっぺたをぷにぷにして言い放つ。


「よし、今からモエナへ行くぞ!父さんの財力を舐めるなよー?」

 

 モエナ、というのはラケルの家に一番近い町の名前だ。

 ラケルの家は小高い丘の上にポツンと一軒建っているだけなので、一番近いモエナへ行くにも三十分ほど歩く必要がある。

 

 支度を整え、二人で町へと歩いていると子どもたちが草原で遊んでいるのが見えた。

 そのうちの一人がこちらに気が付き、声を張り上げて、


「おっちゃーん!今度また魔法教えてねー!」


 手を振り返すタク。一方のラケルは子どもたちのことをよく知らない。


 父親の僅かな収入源は、近所の子供達数人に魔法を教えることだった。

 ラケルは周りの大人が皆牧畜や農耕で生活をたてていることをしっていたので、


「やっぱり父さんも牛を飼って牛乳を売ったり、小麦育てたりするべきなんじゃないの?近所の子どもたちから小遣いせびってないでさぁ~」


 我が家にも牛はいるものの、ラケルは自家用の牛乳やチーズを作るくらいしか活用していないことに不満をつのらせていた。

 というのは、父親であるタクが牛を飼うことを決めたくせに、


『なんか思ったより顔が長くて口が臭い』

 

 という理由で世話を放棄し、今ではラケルが餌やりや朝の牛乳を絞る作業をしているからだ。


「せびってないわ!ちゃんと了承の上でいただいてますぅ~!」


 タクは牛に関する話題を堂々とスルーした上でラケルに返した。

 そんなこんなで笑い合いながら歩いていると、気がつけば近隣のモエナ町へとついていた。

 

「父さんはちょっと寄るところがあるから、ラケルは学校の下見でもしといてくれ。すぐに父さんも向かうよ。」


 わかったと言い一旦父に別れを告げ、ラケルは自分が通うことになる街の小さな学校へとあるき出した。

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