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油断大敵

「世界の希望?どういうことだよ。一体。」


 ラケルが疑問をスミスに投げかけた。

 モエナ町の町長であるエリナが言った、


『転生者は世界の希望である。』という発言がどういう意味なのかがわからない様子だ。


 少なくとも、ラケルが住んでいるこの周辺地域ではそのような話は全くと言っていいほどない。


 どちらかといえば転生者は希望などという良いものではなく、忌み嫌われるものだ。

 転生者が普段から魔物たちと結託して人類を殺したり、積み荷を襲ったりする強盗団に転生者が関与していることが多いからだ。


「後は俺が話そう。」


 ヘンダーソン先生が話を挟む。


「俺が魔導師として働いていたのは、今から四十年ほど前になる。ちょうど神との抗争が表面化してきた頃だ。その頃は、神に抗うことができる人間は、一部の人間や魔物だけで、大多数の人類は戦闘にすらならずに死んでいった。」


 たしかに、ラケルが見た魔導師は大体が若かった。

 ベテランの魔導師になるはずだった人々は神話時代に若くしてなくなってしまったということなのであろう。


「ちょうどそこの頃、歴史を揺るがす大魔法が発明されたとの噂が広まった。それが、『異世界召喚魔法』と呼ばれるものだ。これは、他の世界から魔導適性があるものを無作為にこの世界に呼び出すという、本当ならば人智を超えた大魔法となる大発明だった。」


 先生は一呼吸おき、出された茶に口をつける。

 

 異世界召喚魔法。

 ラケルは未だに半信半疑の状態であった。

 

「そんな魔法が……」


「ああ。そんな魔法があるなんて、当時の人間はほとんど信じていなかった。」


 当時を振り返るヘンダーソン先生の瞳はラケルやスミスを捉えず、更に奥、数十年前の記憶を辿っていた。


 防御魔法を展開しながら、神が放つ魔導弾による雨嵐の中をがむしゃらに走る当時の自分の姿を回顧して、


「私は神の前にただ逃げるだけしかできなかった。防御するのがやっとな攻撃を、無限に撃てる神はやはり人間には到底敵わない存在だと決めつけていた。そして、やがて戦場で魔力が尽きて杖も折れ、死を覚悟したときに、空を覆ったのは味方の魔導弾だった。」


 先生は更に続ける。


「それが転生者を戦場でみた最初で最後の経験だ。そこから私は魔導師を引退し、教鞭を取っているわけだが、その時期から転生者に関する記事を新聞でよく見かけたのを覚えている。どれも彼らを英雄扱いするものだったよ。お前たちには信じられんかもしれんが。」


 確かに、ラケルやスミスにとっては信じられない事実であった。

 転生者が新聞で載ることと言ったら、指名手配や事件の首謀者として扱われている場合と相場が決まっている今の世界には考えられない。


「しかしながら、英雄扱いされたのは30年前まで、ちょうどお前の父であるタク・アドーがこの世界を神の支配から解放したときだ。彼らは『対神話兵器』としての役目を終え、用済みになった。」


 なんとなく話の全容が見えてきた。


「転生者はそこから人類として認められなくなり、魔法の禁止、住居の規制など厳しい規則が設けられた。彼らは強制的にこの世界に呼び出され、命を賭して戦い、最後には人間ではないものとして人間の世界から隔絶されてしまった……これが私が転生者について知るところの全てだ。スミスも、エリナ町長から聞いたのはだいたいこのような話だろう?」


 スミスはうなずく。

 実際にヘンダーソン先生が経験した話に裏付けられている以上は、これ以上疑いの余地はない。

 

 英雄から人外へと転落を遂げた転生者たちが、人類に報復する。 

 むしろこの流れが自然なものに思われてくるほどに、転生者への処遇は冷酷なもので、残忍と言わざるを得なかった。


「お前の父……タク・アドーも最初は大勇者として、全国的にその誕生日が祝われていた。その日は国民総出で大勇者の偉業を祝ったものだ。しかし、転生者が魔物たちの方へ流れていった頃から、勇者への名声は消えていった。」


 タクの誕生日を国民全員が祝っていた?

 バカバカしすぎて笑えてくるような話だが、転生者が皆英雄扱いされていたのなら、神から人類を解放したとされるタクは大英雄といわれて然るべき存在なのかもしれない。


「ここからは、私の意見だ。私は転生者に感謝している。ずっと、ずっとな。」


 ヘンダーソン先生は優しい口調で語る。

 ギシっと椅子がきしむ。


「あのとき、魔力が尽きて視界が狭くなる中で、空一面を覆い尽くす魔導弾。それを立った一人で放つ魔法使いを見たときに、希望を感じた。『勝てる、勝てるぞ』とな。だから、必死に生きて帰ってこれた。」


 たった一人の転生者が放った魔法が、人の人生をも変えてしまう。

 そんなことが本当にあると先生はその口調と生き様で示してきたのだ。

 

「ありがとうございます。先生。俺、転生者の子供として生まれて、嫌な思いをしたことも正直あったけど、これからは少し前向きに生きていけそうです。スミス、お前にも感謝するよ。わざわざ謝ってくれて。俺の方こそ、お前のことを何も知らないまま適当なことを言って、すまなかった。」


 そう言って、スミスに手を差し伸べるラケル。 

 スミスの中で、父の残像がよぎる。


 握手をしたその手から発火し、焼き殺されたスミスの父親の嫌な残像だ。

 だが、


「これでもう、恨みっこなしだ。お前の父さんがドラゴンに勝つことを祈ってるよ。」


 スミスは、父の死というトラウマをも超えていく。

 しっかりとラケルと握手を交わす。

 しかし、本当に超えたのは、トラウマだけではなく自分の偏った価値観なのかもしれない。




 ラケルがスミスと和解し、若人二人がまた一つ成長を遂げた数十キロ西方、トスカ盆地では魔物との戦闘が展開していた。

 ドラゴンほどの強い相手ではないが、リュブリナが鳥型の魔物二匹と退治していた。

 

「飛べるダチョウ……」


 タクがつぶやく。目の前の魔物はまさにダチョウで、その鋭い鉤爪からは血の匂いがする。

 下手こいたら魔導師といえど余裕で引き裂かれてお陀仏なのは想像にやすい。


「リュブリナァ!鳥ってのは大体、羽をもいじまえば弱くなるんだよ!だから頑張って狙え!」


 タクはそう言ってリュブリナを応援する。

 対ドラゴン戦が控えているタクは、ここで下手に魔力を消費する訳にはいかない。


「うるさい!できたらそうしている!」


 リュブリナはタクに怒鳴りながら、杖を構え、魔力を発生、循環させる。


 しかし、十二分に魔力を循環させることはできない。相手が素早く妨害してくる。

 ならば、とリュブリナは鉤爪による攻撃を紙一重で避けた上でそれを足で踏みつけ、動けないようにしてからゆっくりと眉間に杖を構える。


「まずは一匹、だな。『中魔法メガ・マジック』」


 一般的な攻撃魔法を容赦なく撃ち込むリュブリナ。

 魔物は血液を流すでもなく、灰となっって消えていった。


「ヒュー!やるねぃ!」


 いちいち苛つく見物客タクだが、いざというときにはバックアップをしてもらう仲間がいるのでリュブリナも安心して戦える。


 残された鳥型の魔物は、後ろであぐらをかいているだけのタクを『雑魚』と認識し、リュブリナの上を一気に飛び越えて鉤爪をつきたてにかかる。


 自分を見もしない魔物に虚をつかれたリュブリナは咄嗟に振り返る。

 魔物越しに、あぐらをかくタクの姿を視認したが、リュブリアには杖を構えるだけの時間がない。


「しまった!タク……ッ!」


 次の瞬間、魔物は消し飛んだ。

 それはまさに、『光柱』であった。魔物が消し飛んだ灰が風に流され、リュブリナが見たのはあぐらを崩すことは決してせずに杖だけ傾けたタクの姿であった。


「ったく……油断すんなよなー。」


 そう言ってタクはあくびをするのであった。

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