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判断

 先程から山道に入ったので、勾配が厳しい中ではあるものの、雰囲気はとても良くなっている感覚を全員が共有していた。

 

「いや、どこに行くんだよ!」


 タクが疑問を猛スピードで投げかける。

 リュブリナはそれを聞き流すも、レイジが、


「あれ?リュブリナさん、言ってなかったんっスか?」


 息が苦しそうだが、レイジはリュブリナに問いかける。

 先頭を歩くリュブリナは振り返ることもなく、


「ああ。万が一、タクが他の転生者とコンタクトを取っていた場合、行き先を伝えたらマズい可能性があったのでな。だが、もう大丈夫だろう。我々以外には誰も居ないわけだし。」


 そういって、急になった斜面を顔色一つ変えず進む。

 一方で、そろそろ息が上がってきたレイジは、


「ハァ……ハァ……無理っス。リュブリナさんから言ってください。」


 拾ってきた枝に自分の全体重を乗せながら斜面を登る。

 てんで魔導師とは思えない体力にリュブリナはため息を一つつき、


「我々が向かっているのはトスカ盆地だ。そこで群れからはぐれたドラゴン『エンゼル』を叩き、討伐する。それが今回の任務だ。」


 そう言っている間に、斜面だと思っていたものがいつの間にか崖まがいのところまで角度が変わっている。

 もはや二足歩行で進むのは困難なレベルだ。


「だとしても……ドラゴンがそこに居るなんて保証は……どこにもねぇだろうがよ!」


 崩れない岩を慎重に選んで、ロッククライミングを敢行するタク。

 リュブリナはするすると崖を登りながら、


「レイジが魔物に対する精神魔法を仕掛けた。今、魔物には大量の人間がトスカ盆地に集まっているように見えている。故に、ドラゴンはモエナ町ではなく、こちらに誘導することが可能というわけだ。」


「そうっス……でも……もう魔力が……タリナイィィ……」


 レイジが先程から疲れている理由に合点がいった。

 この様子では、ドラゴン退治には使えそうもない。 

 畢竟、タクとリュブリナでなんとかするしかなくなりそうだ。


「結構登ってきたな。っていうかこれ、完全に崖だろうが!!」


 話に集中しているうちに、完全に回りは崖と化していた。

 『崖』と言っても、地面に垂直な崖ならまだしも、これはそれを超えている。

 

「おい!流石に足がつかないレベルのロッククライミングさせられるなんて聞いてねぇぞ!!」


 腕だけで耐えながら、タク。


 90°の斜面だと思っていたら、それが100°、110°とどんどん斜面がが垂直を超えて傾いていく。

 言うなれば、天井にぶら下がっているようなものだ。

 自分の力が年齢とともに衰えたことを実感しつつ、レイジを必死に引っ張りながらタクは進む。


「もう少し、もう少しだ!ここを越え、限界を越えろ!」


 うまいこと言ったつもりになっているリュブリナにわずかながら殺意を覚えながらも、タクはなんとか上まで這い上がる。

 リュブリナの手助けを得ながら、久々に感じる地面に倒れ込む。


「うへぇ……もう、勘弁っス……」


 ぜぇはぁ言いながら、レイジ。


「よく頑張った。もうここから見下ろせるぞ。これがトスカ盆地だ。」


 トスカ盆地。自然生成されたものではないような突然の崖であったり、周囲に緑化した形跡が不自然なほど見えないことからもタクにはこれがどのように形成されたのか検討がついていた。


「神話時代の戦争で隆起した地形、か。」


 リュブリナは軽くうなずき、はるか下を見下ろす。

 風が吹き下ろす、一行が登ってきた反対側はまた崖であった。


「大英傑フッキが、戦神トスカトーレを倒した場所がここトスカ盆地だ。トスカトーレの放った魔法が地を砕き、その衝撃波でこの地を囲うように隆起した地形が山となり、この盆地が生まれた。空を飛ぶ魔物以外は、立ち入ることは基本不可能な地形だ。」


 戦神トスカトーレも大英傑フッキも名前は全人類知るところだが、どこで倒した、どのように倒したなどの情報は国によって秘匿されるところなので、実際に戦場で戦っていたタクも知らない事実であった。


「すげぇな。たかが魔法の形跡なのに、奥の方までみえないじゃねぇか。」


 歪になった山肌を右からなぞるように見ていくも、自分たちと対角線の方向を見ることができない程に、その盆地と言う名前のクレーターは広大であった。


 タクは寝転んだ姿勢から上半身だけ起こすと、盆地の中を覗き込む。

 穴の下方へと吹き込む風に身を掬われそうになったところをリュブリナに抑えられながらも、何匹かの翼を携えた魔物がはるか下方に見えた。


「おいおい。ドラゴンを呼ぶはずの魔法で、別の魔物共が集まってきてやがるぜ。厄介だな。」


 レイジは想定内の様子で、


「リュブリナさん。俺もこっからどうするか聞いてないんスけど、どうするんすか?」


 仰向けになって大の字で空を見上げながら、ポツリと呟いた。

 

「作戦は簡単だ。我々が周りの魔物を片付ける。タク、お前はドラゴンの息の根を止めろ。それで任務は完了だ。」


 タクとレイジは唖然とした。

 レイジもやっとのことで体を起こすと、


「前から思ってましたけど、リュブリナさんって脳筋っスよねぇ……」


 リュブリナは少しだけムッとした表情を見せると、腕をがっしりと自分の前で組んで、


「私はこれまで、神が奇跡ワンダーを使うだの、人類には千年追いつけいない魔法を使うだのと机上で学んできた。だが、こうして実際の目で見てみて、ようやく理解した。」


 目の前で起きていた、地形を変えるほど凄惨な争いの当事者ではなかった二人は、数十年の時を越えて肌で感じていた。


 神との戦いは、魔物などとのそれとは比べ物にはならないものだ、と


「神とはやはり、神だったんだ。我々を創造した存在は、そう簡単に超えることはできない。と思っていたら、お前たち転生者が超えた。故に、この作戦は合理的だ。お前たち、転生者は神と対峙していたんだ。ドラゴンのようなただの魔物を退治することなど容易だと、私が判断した。」


 一度の戦いで地形を変え、歴史に名を残し続ける魔法マジック奇跡ワンダーを放つ。そんな存在である神と正面から戦い、詳細は隠匿されているもののタクは勝った。


 リュブリナの中では、それだけでタクの戦闘力は信頼に足る証拠となっていた。


「しかし、間違っても杖を手放すなよ。知っているだろう。転生者がこの国で生きる上で、最も大切なことは……」


「杖を使わずに魔法を使ってはならない。だろ?」


 リュブリナはコクリとうなずく。


「杖無しで魔法を使うということは、魔物と変わらない下劣な行為だ。私だって、お前を牢獄に入れて極刑送りにしたくなんてないからな。勘違いするな。杖を持っていたとしても転生者が魔法を使うことは原則禁止だ。今回は特例。わかったな?」


 タクはただ杖を握りしめ、生返事で返すのであった。 

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