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命令

 翌日から、住民の避難が始まった。

 町長エリナの懸命な説得で、町の住民数百人は周辺の集落へ避難することとなった。


 モエナ町周辺の集落には事前にこうなることを想定した告知がなされていたため、渋々避難民を受け入れることを認めた。

 

「この家にも誰か来るのか?」

 

 タクはラケルに話しかける。


 当然、学校が休校となった以上ラケルは家で教科書を読んでいた。

 

「さぁ……なんせ突然のことだから、どれくらいこの辺にも避難してくるのかがわかんない。」


 コンコン。

 そう行っていた矢先、家のドアが二回ノックされる。


 避難民がやってきたのだろうか、タクはドアの前の人間に返事をして、


「……ったく、面倒なことに巻き込まれちまったな。」


 ラケルに聞こえるくらいの声で愚痴をこぼすと、ドアを開く。

 

 そこには、純白のローブに身を包んだ、明らかに避難民ではない高貴な身分の魔導師と、普通の服装をしたきれいな女性がいた。

 タクはどこかで見たことある女性をきがかりに思いつつも、表には出さないでいた。


「失礼する。領邦魔導師のリュブリナだ。こちらはモエナ町の町長である、エリナさん。」


 ラケルは奥から顔をのぞかせると、見知った顔が二つ並んでいることに驚く。


 そこにもう一人の領邦魔導師、レイジの姿はない様子であったが、この町を代表する人間と領邦魔導師が居るのはただごとではない。 

 それはタクも理解しているようで、


「えっと……なんの御用で?」


 しれっと、あくまで一人の住民として尋ねる。

 リュブリナはそれに対し、


「タク・アドー。話がある。入るぞ。」


 タクの返事を待つでもなく、ズカズカとリュブリナは家の中に入ってくる。


 食卓机がある部屋の隣、ラケルの勉強部屋にラケルが座っているのをチラリと見た後、食卓テーブルに座る。


 町長のエリナはタクに一礼すると、同様に家に入り、ラケルに微笑みかけてリュブリナの横に座った。


「勝手に困りますよー。アンタたち、避難民ってわけでもないんでしょう?」


 ラケルとタクの椅子が占領されてしまっているので、タクは部屋に突っ立ったまま言う。

 当たり前のことを尋ねるタクに、リュブリナは、


「単刀直入に言う。我々とともにドラゴン撃退戦に参戦し、モエナの町を救って頂きたい。そのことをお願いするために、我々は今日ここに来た。」


 そう言い放った。

 ラケルは隣の部屋で丸見えの状態だったが、構わずリュブリナは続ける。


「今回、エリナリーゼの町を地図から消したドラゴンは魔導協会で『エンゼル』と名付けられ、公式に魔物による災害である、天災と認定された。そのため、ただ撃退するだけではなく『解決』することが求められるようになってしまった。この場合、ドラゴンを掃討する必要がある。」


 教科書を読むふりをして聞き耳を立てるラケル。


 言っている内容が難解であったが、要はドラゴンを撃退するだけではダメで、倒さないといけなくなったらしい。

 これは、なんというか、


「いや……厳しくない?」


 そう、厳しい。


 タクも同意見である様子でリュブリナにそう言った。さらに、


「魔導協会はずっと変わらねぇな。こんな無理難題を魔導師一人に押し付けるなんて。」

「一応、もう一人います。だからどうか三人で力を合わせて、モエナの町を守っていただけないでしょうか?」


 呆れた様子のタクにエリナが重い口を開く。

 心労からくる疲れでかなり疲弊しており、弱々しく頭を下げる。

 その様子を見ても、タクは冷静だった。


「魔導師が百人居てもたりねぇよ、こんなの。入学式で会ったときはもっと理知的で素敵な女性だと思っていたのに、とんだ世間知らずの箱入り娘だったようだ。」


「そんな言い草……」


 エリナが椅子から立ち上がるも、なにも言い返すことができない。

 自分でも無理難題をタクに押し付けていることはわかっているからだ。


「いいか、きれいなお嬢さん。ドラゴンが一番危険なのは、どういうときだと思う?」


 タクが追い打ちをかけるようにエリナに詰め寄る。 

 答えることができないエリナのかわりに、リュブリナ。


「……群れをはぐれて一体のみの時。」


 ビシッ。タクはリュブリナに『よくわかってる』感満載で指をさす。

 そこでエリナが疑問に思って、


「ですが、群れのほうが数が多くて危険なんじゃないですか?」


 ラケルも同じことを思った。

 しかし、それには腕でバツを作って、タク。


「ドラゴンは本来温厚だ。群れで家族といるときに人里を襲ったりはしない。しかし、群れからはぐれたドラゴンは違う。」


 神妙な面持ちをするタク。

 ラケルの方をちらりと見て、


「群れをはぐれたドラゴンは、ただ自分を見つけてもらうためにひたすら暴れまわる。人を殺したり、町を消し炭にしたりして、魔力をひたすら使うことで群れに見つけてもらうのさ。要は小さい子供だ。ただ寂しいのさ。」


 リュブリナも、教科書通りの内容に同意する。

 

「だったら、なおさら放っておくわけには行かないじゃないですか……!この町にとどまらず、さらに被害が拡大するかもしれません。」


 エリナが拳を握りしめて言う。

 しかし、タクは、


「逆に放っておくという手もあるぜ。そうしたらいつかは群れが見つけてくれて、ドラゴンは帰っていくからな。」


 なおもヘラヘラした様子で続ける。

 しかし、リュブリナはそこで黙ってはいなかった。


「そんな理論がまかり通ってたまるか。大勇者タク・アドー。お前がこのまま動かないのであれば領邦魔導師として命令する。我々とともにドラゴン掃討戦に参加しろ。」

 

 しびれを切らした様子で、リュブリナは椅子から立ち上がって言い放つ。

 タクは少し驚いた様子で、


「おいおい、人違いだ。確かに俺は勇者様と同姓同名だが、こっちも苦労してるんだぜ?転生者なんかと一緒にされちまって……」

「無駄だ。ヘンダーソン先生がおっしゃっていた。ラケルが父親が転生者であると言っていたとな。」


 タクはそれを聞いて『あちゃー』と手を額に当てる。

 隣の部屋で、ラケルも同じ動作をしていた。

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