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九話



 昼過ぎ、部屋に戻るとドアの前で大家の老人が待っていた。


「お。来たかい。悪いけど今すぐ出てってもらうよ」


 クレイは驚いた。


「え? たしか立ち退きは明日だって」


「そのつもりだったんだが別の奴がすぐにでも住みたいって言ってね。そいつに貸すことにしたんだ」


「そんないきなり……。お願いします。もう少しだけ待ってください」


 クレイは頼み込むが大家は冷ややかだ。


「言いたかないが、あんたはそこそこ有名なギルドに所属してたからここを貸した。聞いたよ。クビになったんだってな。悪いが信用がない奴には貸せないね」


「そんな……」


 大家は悲しむクレイの奥にいるアリアを一瞥する。


「まあ奴隷を買えるくらいなんだから他でも住むところがあるだろう。ほら、さっさと荷物をまとめな」


 その後もクレイは交渉したが、大家は首を縦に振らなかった。


 結局持てる物だけ持ち、アリアと二人でとぼとぼと部屋をあとにする。


「……ごめんね」


「……いえ」


 全てが悪い方向に向いていた。


 クレイは必死でどうにかならないか考えたが答えは見つからなかった。



 行くあてもなく街を彷徨っていると中心から離れ、郊外に出てきた。


 ここから先は建物もほとんどなく、草原や森が広がる。


 そこでクレイは切り出した。


「……悪いけど、ここでお別れだ」


「え?」


 アリアは驚いた。


「このままじゃ君を守れない。僕一人でも生きていけるか……。だから……」


 クレイは所持金全てが入った財布を取り出し、アリアに渡した。


「これ。少ないけど」


「も、もらえません」


 クレイは無理矢理アリアに財布を渡し、南の方を指さした。


「南の方にはまだ亜人のコミュニティーが残ってるって聞いたことがある。そこまでならなんとかそれで行けると思う」


「で、でもクレイ様はどうするんですか?」


「……僕は田舎に帰るよ。……もう疲れた」


 クレイはなんとか微笑む。


「でも君を自由にできてよかったよ。無能な僕だけど、少しは価値があったって思えた。ありがとう」


 礼を言うクレイにアリアは声を振るわせた。


「……これは命令ですか?」


「…………うん」


「…………分かりました」


 命令と言われ、アリアは寂しそうに頭を下げた。


「短い間ですがお世話になりました……」


 アリアはそのまま荷物を持って南へと歩いて行った。


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