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五話



 広大な歓楽街がようやく出ようという時、クレイの耳に怒鳴り声が聞こえた。


「こいつめ! 一体なんだったらできるんだ!」


 それはまるでクレイに言われているよう思えた。


(なんだろう……?)


 気になったクレイは声の聞こえる建物の方に向かった。


 すると薄暗い路地裏で太った大柄の男が怒鳴っている。


「お前みたいな奴は奴隷にすらなれねえ! 精々モンスター共の餌がお似合いだぜ!」


 男はそう言ってから足音に気付いて振り向いた。


 その顔は赤く、随分酔っているように見えた。


「なんだいお嬢ちゃん?」


「え? いや、その……」


 たじろいだクレイは男の後ろに女の子がいることを見つけた。


 怒鳴られて震えているその子は明るい色の長い髪に大きな胸を持った熊の亜人だった。


 かろうじて胸の上半分が隠れるボロボロの麻の奴隷服を身に纏い、裸足に前掛けといった姿だ。


 首には首輪を、手には手錠を付け、顔や腹部、腕や足には痛々しい傷跡が見えている。


 クレイは恐る恐る声をかけた。


「あ、あの、その子がなにかしたんですか?」


「なにかしただ? その逆だ。なにもできないんだよ! 客を取らせてやったのに嫌がるばかりで商売になりゃしねえ! 奴隷としても鈍くさいから売ってもすぐに売られてくるしな。要は能なしだよ。できるのは精々盾ぐらいだろうな!」


 酷い言い方に亜人の少女は俯いた。


 だがこのリンカーではよくある話だ。


 奴隷や娼婦になれない者が更に過酷な環境に置かれる。


 自分の意思では選べない亜人には仕方がないことだった。


 普段ならそう思うクレイだが、今日は違った。


 自分と重なるこの子のことを放っておけなかった。


 女の子を気にするクレイの膨らんだポケットを見て男はニタリと笑った。


「もしよかったら嬢ちゃんが買うかい? 今なら安くしとくよ」


「え? 買うって……」


「五十万でどうだ? 奴隷にしては破格の安さだぜ」


 奴隷の多くは仕事をし、雇い主に給料の大半を渡す。


 なので持っているだけで稼げる奴隷や娼婦はかなりの額で売買されていた。


 五十万ゴルは相場の十分の一以下だ。


 そしてそれは偶然にもクレイの退職金と同じ額だった。


 クレイは悩んだ。


 これから無職になるのにカネすら失えば困窮するだろう。


 だが自分が我慢すればこの子を救うことができるかもしれない。


 クレイは女の子を見つめた。


 その目には失望と涙が浮かんでいた。


 クレイは小さく溜息をついてポケットから封筒を取り出した。


「……分かりました。買いますよ」


 封筒を受け取ると男はニヤニヤしながら中身を数えた。


「まいどあり。へっへっへ。まったく好き者だな。よし。ちょうどある。それじゃあこれからこいつはあんたのもんだ。首輪に自分の名を刻むんだな」


 首輪に刻んだ名は主の印だった。


 そして亜人には必ず主が必要だ。


 この首輪は滅多なことでは外れず、壊れない。


 名を刻むことは主従関係の契約に他ならない。


 クレイはゆっくりと女の子に近づき、尋ねた。


「……君の名前は?」


「…………アリア……です……」


 アリアはか細い声で答えた。


「アリアか。これから君は僕のものだ」


 クレイはアリアの首輪に手で触れた。


 すると魔力によってクレイの名が刻まれる。


 これはクレイがアリアを放棄するまで消えることはない。


 こうしてクレイとアリアは出会った。


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